病室にて 冬という冷たい季節、日照時間も減り体の巡りにも影響を及ぼす陰鬱な日々であった。病院で過ごしている茨は、免疫が落ちてしまったのだろうか、ここ数日風邪になってしまっている。点滴の滴が定期的に落ちて、茨の管に通って行った。私はマスクをして、持ってきた林檎を隣で剥いた。苦しそうに咳をする茨と、変わってあげられればよかった。
「……大丈夫?」
「はい、平気です……」
「……風邪には林檎、とりわけうさちゃんがいいと思う」
そういってうさぎのみみがついた林檎を、茨に差し出した。茨はそれを眺めて、すこしだけ目を光らせる。
「かわいいですね」
「……茨がそう思ってくれて嬉しいな」
「閣下に喜んでいただけて嬉しいです」
そういって茨はあたまから林檎を齧り、私の結晶を腹に収めてくれた。少食になってしまった茨が、きっと私のために嚥下するエネルギーを見せてくれている。自分が一番辛いのに、私のために頑張ってくれる茨は、昔と変わらなかった。
「少しお手洗いに」
茨はベッドから降りて歩こうとした。ふらつくその体を支えて、手を取る。
「……風邪がうつりますよ……」
「……いいよ、うつって……」
「……かっか……」
「茨、」
何かをいいかけて、茨はうずくまってしまった。はっはっと息をして、苦しそうだ。立ちくらみをしてしまったのか、茨は床に手をついて震える。がたがたと点滴を吊るすガートル台が揺れた。
「う、う……」
「茨」
「うぐ」
茨はびちゃびちゃと胃液を吐いて、そこに倒れ込む。りんごの赤の鱗片が乱れた。私は茨の背をさすって、ナースコールを押した。茨はちからなく涙目になって、そこに失禁する。音もなく広がる水溜まりを、どうすることもできなく茨は震える。
「……大丈夫、全部きれいになるから」
看護師さんが片付けと消毒と着替えをてきぱきとしてくれる。そうしてまた、茨はベッドに横たわった。
「……茨、ごめんね。私のために無理した?」
「……そんなことないです……」
茨は私から目を逸らして、沈黙を充満させる。冬の曇天が、冷たい木枯らしを窓に叩きつけて、びゅるびゅると鳴った。茨の心象風景のようだった。泣き出しそうな空が荒れている。
茨は確かにそういった。
「しにたい」
茨のきれいな横顔が、くちだけをうごかす。
「きえてなくなりたいです……」
私はそっと、茨の手に触れた。だめです、と、茨は目で訴える。だめなことなんて一つもなかった。
「……大丈夫だよ、茨、私がそばにいる。そう思ってしまうのは全部病気のせい。茨のほんとうは、野望は、まだそこにあるでしょう?」
「……かっか」
弱さを見せてくれる茨を、包みたかった。だから絶対に、生きる意味になりたい。私を利用して遂げる野望でもいい、茨がわらってくれるなら悪にでもなる。
「……ほら、また四人でひかりのうみに立とう。茨の願いは叶うよ、だって私たちがいるから」
海が潤びって雨が降り出す。
私はぎゅっと、茨の手を強く握った。
(230110)