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    しどり

    @sidoridori14159

    高銀。
    時々モブ銀。

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    しどり

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    「銀時」

    と、縁側で昼寝をしていた筈の高杉が俺を呼ぶ声がする。
    飯の後並んで茶ァ飲んで日向ぼっこして、何やら小難しい本を読んでいるアイツにジャンプ読みながら膝を貸してやっていたらいつの間にか寝ていて、あんまり気持ち良さそうだから起こさないでおいたものだが、目を覚まして俺が居なくて不安になったらしい。オメーは赤ん坊かっつーのな。正真正銘の赤ちゃんとの違いは、騒ぎながらも自分の足でこっちを探しに来るところだ。裏庭に面した勝手口で、この家に越して来てから、気づけばもう結構たまった古いジャンプやら要らない段ボールなんかを片付けている俺を見つけると高杉はあからさまにほっとした顔をして、いつもより少し忙しい足取りで近づいてきて俺を抱き寄せた。なんていうか、こういう、あからさまな愛情表現にはいまだに慣れない。だってお前そういうキャラじゃなかったでしょ、っつーか。いやもしかしたらそうだったのかもしれない。昔から真っ直ぐ一直線というか、猪突猛進な男ではあった。ただ俺たちがそういう関係ではなかっだけで。俺の肩口に額を押し付けてぐりぐりと甘えてくる男の頭を仕方ないから撫でてやる。少なくとも俺がそんな柄じゃ無いのは確かだが、俺とこの男が、今は、そういう関係であることは間違い無いからだ。ものすごく。ものすごく沢山のどうしようもない紆余曲折の果てに。
    いつ見ても(今みたいにちょっとした転寝の後でも)寝癖なんて滅多につかない憎たらしい程さらさらの髪が覆う丸い頭に俺が手を置くと、高杉は少し下から俺を見上げてきて拗ねたような顔をする。だからお前は赤ちゃんかって。しかしやっぱり赤ちゃんではないので、高杉がこうなることをわかってて置いてきた俺にも確かに非はあると、ご機嫌取りに軽く唇を寄せてやると、そのまま後頭部を掴まれて激しいキスをされた。
    ほんと、お前って。

    まあ、仕方ないとは思うんだけどさ。俺たちはほら、色々あっただろ。俺は昔、コイツの気持ちを手酷く裏切ったあとにそのまま、こいつが大怪我の高熱にうなされてる間に逃げたりしたなんて事も…あるし。ほんと良くこんな、なあ?正しくハッピーエンドなんて言葉が似合う関係に落ち着けたモンだって、我ながらびっくりしちまう程には遠く、長く離れていたからさ。隣に居る事は当たり前なんかじゃ全然無いんだよな。気持ちの上では、まあ、もうそういうのは散々やったから、今更ぐだぐだ恥ずかしがっても仕方ないから言うけど、もう離れたくないって。ずっと一緒に居たいって思ってるんだけど。
    だから、そんなに物凄く広いって訳でもない家の中で俺の姿が見えなくなるとすぐに不安げに俺を探す事も、いつも俺の名前を呼びながら後をついて回ってくる事も、仕事に出掛けりゃ出先から、いやさすがにお前、真面目に仕事してさっさと帰ってこいよって頻度で電話してきて俺が居ることを確かめたりする事も、多少うざったいとは思いながらも、しかたねえなあって。
    それにさ。

    静かな家で一人、この家での定位置となった縁側に面した和室で座布団を枕に転がって、俺はぼんやりとまたジャンプのページをめくる。ぺらり。と、安くて粗い紙は紙同士が擦れる音と紙自体が撓む音を立てる。何時もなら、そこには隣でまた別の本を読んでいる男がページをめくる音と、僅かな動きとともに自分のじゃない衣擦れの音が聞こえて、呼吸の音と、時々カチャカチャと音を立てて準備した煙管の煙をふうっと吐く音や、それを軽い音をたてて灰皿にのせる音がして。
    それぞれは全部ささいな音でしかないのに、それがないと何だか物凄く静かに感じる。
    高杉は留守だ。仕事がいそがしいらしく、珍しい事に、何時もなら一、二時間に一回は鳴る電話が今日はまだ一度も鳴っていない。もしかしたらちょっと遠い星まで行かなきゃいけないかもしれないとか行っていたからそのせいかもしれない。通信が届かないとか。ひょっとすると今晩は帰ってこれないかもしれないな。流石に、そうなったら何らか頑張って帰れない事くらいは伝えてくると思うんだけど。
    そわ、と寝転んだ状態から床の間に置いてある時計を見上げ、その針がさっきからまだ五分刻みの目盛り一つ分も進んで居ない事に気づいて、思わず笑う。
    結局そうなんだよな。
    姿が見えないと不安になるとか、赤ん坊かよとアイツを笑うが、俺だって同じだ。ただ、アイツほどあからさまにそれを態度に出せないだけで。
    多分、高杉は俺のそういう、なかなか捨てられない下らない意地も、どうしたって恥ずかしいと思ってしまうところも分かっててそうしているんだと思う。なにしろアイツ自身は、
    いっぺん死んだんだ。今更何を取り繕うこともねェ。
    らしいから。

    ああ、早く帰って来ないかな。
    そしたら抱き締めてくるアイツの背中に腕を回して、ぎゅって抱いて、おかえりって言ってやるのにな。
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