Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    umekarubo

    そっと推しをかいています。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💪 🐆
    POIPOI 15

    umekarubo

    ☆quiet follow

    Twitterにアップしていたジョチェとマンうさのお話です。

    ぼくらのるーる ぽかぽかと陽射しの心地よい昼下がり、うさぎのカオルとマングースのコジロウは日光浴も兼ねて公園で遊んでいたのだが、近くで遊んでいた小さな子どもが興味を惹かれて母親と共に近づいて来たのでカオルは早々にその場から避難した。
     子どもが「あーーーうさちゃんーーー」などと悲痛な声を上げていたが、知ったことではない。
     ここまで連れてきてくれた人間の虎次郎は木陰のベンチに腰掛けて、持ってきた水筒から蓋のコップに冷えたお茶を注いでいる。カオルがその隣によじ登って腰掛けると、虎次郎がコップを渡してくれた。
     少し離れたところで子どもと戯れているコジロウを横目に、カオルはコップを傾けてこくこくとお茶を飲む。ひんやりとしたお茶が喉を潤しながら遊んであつくなっている体を冷やしてくれて、ほぅっと小さく息がこぼれた。
    「お前は一緒に遊ばなくていいのか?」
     コジロウと子どもに視線をやりながら、隣に座っている虎次郎が聞いてきたけれど、カオルはひとこと「いい」とだけ答えて首を横に振り、またひと口お茶を飲んだ。
     人間の子どもはすぐに耳を掴んで引っ張ったり、手を掴んで引き摺ろうとするので嫌だった。コジロウと遊んでいたのは自分なのに、子どもと楽しそうにしているのも気に入らない。むぅ、と無意識に唇が尖るカオルを見て虎次郎は眉を下げて笑う。
     コップの中が空になったので虎次郎に返すと、軽く振って水気を切ってから水筒にかぽりと嵌め込む音がした。つまらない。仕方なくカオルは隣に座る虎次郎の太ももによじよじと登ると、そこにちょこんと腰を下ろした。ふわふわと柔らかく頭を撫でる感触がする。ぽかぽかした陽気と柔らかく撫でる手に少しうとうとしそうになった頃、そろそろ帰ろうね、とコジロウと子どもを遊ばせていた母親が言うのが聞こえた。
    「ばいばーい、またねーー」
     母親に手を引かれながら手を振る子どもが「うさちゃんもばいばーい」というのが聞こえたけれど、カオルはぷいと顔を逸らしてそれにも応えなかった。すみませんと言うように虎次郎が後ろ頭を掻いて母親に会釈する。コジロウは子どもに向かって手を振りかえしていた。けれど、どうしてもカオルはそうする気になれない。
     カオルは人間の言う「バイバイまたね」が大嫌いだからだ。これまでにも、カオルやコジロウに戯れに来る人間は居たしそういう人たちは皆「バイバイまたね」と言って去っていった。
     バイバイ、またね。
     またねとたしかに言ったのに、そう言って別れた人間と再びあいまみえた事は一度もない。またねと言ったのに嘘つきだと思う。だからカオルは、バイバイまたねが大嫌いになった。カオルにとってバイバイまたねはいつからか、二度と会うことのない最後の別れの言葉になってしまった。
    「カオル、だいじょうぶか?」
     気がつけば、コジロウがベンチによじ登って心配そうに自分を見ていた。カオルが虎次郎の太ももに乗っているから、少し見上げるみたいになっている。あずきみたいなきれいな瞳がぽかぽかの太陽でキラキラして自分だけを見ていたから、カオルはやっとほっとして両腕をめいっぱい伸ばしてコジロウに抱きついた。
    「どーしたカオル、あまえんぼさんか?」
     明るい声で言ったコジロウがカオルを抱きしめてくれたけれど、今はおんぶ紐でカーラを背負っているからコジロウの手はカオルの背中に届かない。それでもカーラごとぎゅうっとしてくれて、コジロウはずっと一緒なんだと嬉しくなった。
    「そろそろ帰るか? 腹減ったろ」
     小さなふたつの頭を順に撫でながら言う虎次郎の言葉に二対の瞳が輝く。公園で遊んだ後は、家に帰っておやつだ。
    「はらへった!!」
    「……かえる」
     ぶんぶんと頭を振るように頷くコジロウとこくんと一度だけしっかり頷いたカオルに、笑みを浮かべた虎次郎はそそくさと水筒を片付けた。


     おやつを食べた後は、昼寝と相場が決まっている。沢山遊んで甘くて美味しいお菓子でお腹を満たしたら、自然と瞼が重くなるのだ。ベッドの上でコジロウとカオルは身を寄せ合って丸まって眠る。そうしている内に薫がカオルを迎えに来てくれる。起こさないようにそっと抱き上げて連れて帰るのだ。だから昼寝から目覚めたカオルの隣にコジロウが居た事はない。でも心配はしなかった。虎次郎の家に居れば人間に連れ去られたりすることもない。すぐにまた会える。
     けれど、今日は違った。昼寝から目覚めてもまだ隣にはコジロウが居て、なんだか嬉しくなる。
    「起こしたか……悪かったな」
     そっと頭を撫でる慣れた手つきに顔を上げると、薫が苦笑を浮かべていた。まだ眠い目を擦りながら起き上がって小さな両手を伸ばすと薫は躊躇うことなくその小さく軽い身体を抱き上げてくれる。
    「……むにゃ……おっきいかおるだー」
     動く気配に目を覚ましたコジロウも起き上がると薫が空いた手で抱き上げてやりあっという間にその両腕は埋まってしまった。
    「なんだ、起きたのか」
    「今日は迎えに来るのが少し遅くなったからな、仕方ない」
     様子を見にきた虎次郎があれまといった様子で肩を揺らし、薫の片腕からコジロウを受け取った。
    「もうかえるのか?」
     虎次郎の腕に移されきょとんとした様子のコジロウに、薫は頷いてその頭を軽く撫でてやった。
    「ああ、今度はうちに遊びに来る番だな……あと数日あるが楽しみにしていると良い」
     次の薫の休みに合わせてコジロウを連れて行ってやる約束になっている。コジロウは嬉しそうにたのしみだなと笑った。
    薫の腕に抱かれたカオルも次の約束が嬉しくてぴるぴると耳を揺らす。本当はずっと一緒に居られたらもっと嬉しいけれど。
    「そろそろ帰る」
    「おぅ、気をつけてな」
     玄関に向かう薫を虎次郎が追い、玄関先で草履を履くのを待つ。そうして準備を整えた薫がドアを開けた、その時。
    「ばいばいかおる、またなー」
     満面の笑顔を浮かべたコジロウがそう言って、虎次郎の腕の中でぶんぶんと手を振った。虎次郎も手を振っていて、薫もそれに軽く手を振りかえしている。
     その姿が公園で見た幼い子どもの姿に重なって、次の瞬間カオルの世界がぐにゃりと歪んだ。
     目の奥が熱くて、鼻の奥がツーンとして、喉の奥で何かがぎゅっと握りつぶされたような、そんな苦しさを感じたとたん、ぼろぼろとカオルの月色の瞳から大粒の雫がこぼれ落ちた。
    「え、おい、どうした!?」
     最初にその異変に気付いたのは虎次郎だった。閉まりかけたドアの隙間から見えたその異様な光景に、咄嗟にドアを支えて開く。
    「なんだゴリラ……え、お前、どうした!? どこか痛いのか!?」
     カオルの瞳から絶え間なくこぼれ落ちる涙に大人二人はオロオロと慌ててとりあえずドアの内側に戻る。虎次郎の腕に抱かれたまま、コジロウも心配そうにカオルに手を伸ばして一生懸命濡れた頬を拭った。
    「……ひっ……う、ぅ……やぁ……」
    「嫌……? 何が嫌なんだ……?」
     ひっ、ひっと肩を揺らし引きつるような息の隙間から聞き取れた言葉に薫が首を傾げ柔らかく頭を撫でてやると、カオルはぎゅっと目を瞑って。
    「……ばいばい、またね……きらい……こじろ、と、もう……あえないの、やだぁ……」
     なんとか言葉を紡ぎ終えるやいなや再び涙がこぼれ出して、カオルは己の頬を拭ってくれていたコジロウに両手を伸ばし、ぎゅうとしがみつく。
     自分の言った言葉のせいでカオルが泣いていると分かったコジロウはしょんぼりと耳を垂れさせながらもしっかりとカオルを抱き留めた。
     薫は全く意味が分からず困った様子で、とりあえず抱きしめ易いようにとカオルの身体を虎次郎の腕の中に移してやる。
     抱きしめ合う二人を腕に抱きながら、虎次郎は昼間公園で遊んでいた時のことを思い出していた。
     あの時カオルはバイバイまたねと手を振る子どもからぷいと顔を逸らしていたけれど、本当に嫌だったからこその反応だったとしたら。二人を公園で遊ばせることはこれまでにも何度もあったし、その可愛らしい姿に老若問わず声を掛けられ構われることもあった。
     たしかにみんなバイバイまたねといって去っていくし、人間はこの二つを軽い気持ちでワンセットで使いがちだ。また会いたい、会えたらいいね、そんな気持ちで別れの後にまたねと紡ぐ。
     けれどたしかに、あの公園で同じ人間に二度会ったことはないように思う。単純に行く日や時間帯が疎らなせいもあるのだろうが、カオルからすればまたねと言ったのに、次はなかったのだ。何度も何度も。
    「……そっか、またねって言われたのにもう会えなかったら、そりゃ嫌だよなぁ」
     ぽつりと落とすような呟きと共にカオルの頭を撫でてやると、ぼろぼろ涙をこぼしていた顔が歪んでそのままギャン泣きしてしまい、バスンッという重い音と共に虎次郎の尻に薫の鋭い蹴りがめり込んだ。


     その後、四人の間で「バイバイまたね」は禁止になった。
    「別に今生の別れというわけじゃない。あいつは頭のいいやつだから、ちゃんと言い含めてやれば」
    「あんだけギャン泣きする程だぞ? そう簡単には納得できねーだろ……二度と会えないってのがかなり怖いみたいだしな」
    むぅ、と薫は少しばかり不満げな音を漏らしたが、特定の挨拶で別れたが最後もう二度と虎次郎と会うことが出来ないと思い込んでいるものがあるとしたら、どれだけ言葉を尽くして大丈夫だと当の虎次郎に言われたとしても信じるには足りないかもしれないと思い至り、納得するほかなかった。
    「カオル、そろそろかえるってさ」
     コジロウがてちてちとカオルに駆け寄りそのままぎゅうっと抱きしめる。
    「気をつけてな、コジロウ」
    「おっきいこじろーがいっしょだからだいじょぶ! だいすきだぞ、カオルぅーまたみっかごな!」
     うん、と小さく頷いたカオルの頬はほんのり赤い。照れているのか、先日大泣きした時の恥ずかしさが忘れられないのかはわからないが、鼻先をすり合わせてからぎゅっと改めて抱きしめてもちもちの頬をうりうりと寄せ合っている。
    「なあ薫……あいつら離れ離れにするのなんか可哀想だし、いっそのこと一緒に暮らさないか?」
     何の気無しを装ってあくまでも軽い調子を装って吐き出された虎次郎の言葉に返ってきたのは刃物のように鋭い薫の視線だった。い、痛い……と思わず虎次郎がつぶやく。
    「あいつらに便乗するとは随分小賢しい真似をするゴリラだな……俺たちが欲しいなら、それこそ真面目に口説き落としてみろ」
     そうすれば考えてやらんこともないかもしれないな、と結局どっちなんだと虎次郎が首を傾げるような言葉を吐いて薫が二人の方へ歩いていく。
     仕方ない、それならご希望通りに本腰を入れるかと虎次郎は固めた決意をおくびにも出さず、帰りの挨拶を済ませたコジロウを連れるべく薫の後に続いた。
     
     
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖✨👏💖👏☺☺☺☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works