深淵 北海道の寒さなんて、もううんざりだ。
いつものように、洋平と一緒に兵舎近くを見廻っていた。当たり障りのない兵舎周辺の警備とは別に、刺青人皮の情報も探りつつ。だけどそんなこと、寒すぎて真面目にできるかってんだよ。
時刻は夕方。陽が落ちて、ぐんと冷え込む寒さに苛立ちを覚える。ちらつく雪を忌々しく思いながら、寒さで花の頭を少し赤くした洋平に声を掛ける。
「寒くないか、洋平」
「寒いに決まってんだろ、浩平」
鼻、赤いぞって俺のことを指差して笑う洋平。
ひひひ、と二人して笑った瞬間、肌を切るような冷たい風が俺たちの間を吹き抜けた。
「うげぇ、寒ぃ!」
首をすくめて洋平が声をあげる。あぁ、本当に寒い、馬鹿じゃねぇの。
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