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    IFにIFを重ねる話。
    鬼殺隊IFの狛治さん&完全に鬼の始祖の手駒になる前に呪いを自力で解除した猗窩座殿のおはなし。鬼殺隊IFにする為に時系列が変わっているところがありますが、『ほーん、こんな妄想もあるんだなー』程度に受け取ってください。

    ※2022/3/23 改訂
     2022/4/21 改訂&修正

    偶然「誰かが井戸に毒を入れた……!!
     慶蔵さんやお前とは直接やり合っても勝てないからって、あいつら酷い真似を!惨たらしい……あんまりだ!!恋雪ちゃんまで殺された!!」


     今になって思うが、あの時から既に俺の中には鬼が居たのだと確信している。『鬼子』と揶揄されたが言い得て妙だ。俺は生まれた時から心も含めて鬼だったのだろう。
     息を吸う様に奴らを葬った。慈悲など与えず、ただただ復讐と報復と怒りに支配されながら。
     しかし、奴らを殺したこの手に残ったものは何一つ無かった。強いて言えば、言い表すことのできない虚ろなもの。憎き奴らを葬れど心は晴れず、モヤが掛かったかの様に不鮮明であった。



    「鬼を配置した覚えの無い場所で鬼が出たとの大騒ぎ。わざわざ出向いて来てみれば、ただの人間とはな。何ともつまらぬ」

    「お前ならば十二鬼月にまで上り詰められるだろう。与えられるこの血の量に、果たして耐えられるかな?」


     絶望、虚無感、やるせなさ。救いなど最初からなく。残ったものさえ、何も無かった。

     もう、どうでもいい。全てがどうでも良くなる。


     ─────どうでもいい。


     ─────………ん、

     ───……さん、は………さん、


    『お願い狛治さん、目を開けて!』



     最愛の人の声がした。確かに聞いたのだ。

     だが目を開けてみれば、自身を殺したはずの男も、泣きながら必死に声を張り上げて起こそうとしていた彼女の姿もなく。
     そこに居たのは、病的に白い肌をもつ知らない女性と少年だった。



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

    「鬼化が進行し、鬼舞辻の駒として完全に変貌する前に手を打ちました。ここまで上手く行ったのは全くの偶然、“奇跡”に近いでしょう」

     女性は淡々と告げる。
     “鬼舞辻”……あぁ、俺を殺しながら仲間にしようとしていた男のことか。ぼうっとした意識でゆっくりと記憶を手繰り寄せていく。

    「本来ならば貴方は鬼になる筈だった。しかし貴方は人間の姿を留め、鬼として変貌する筈だった“彼”は別個体となって貴方の元を離れたのです」

     鬼になる。そう言われても嫌悪感は無かった。むしろ鬼になって暴虐の限りを尽くし、ひと思いに暴れられたらどれほど気が楽だっただろうか。……だが、そんな事をした所で結局虚しくなるだけだろう。親父や師範、恋雪さんにも顔見せできない。助けられた筈なのに卑屈な考えばかりが浮かんでしまう自分に嫌気が差す。
     だが、女性の口ぶりからして“鬼化”とやらは彼女によって阻止された様だ。彼女は一体何者なのだろうか?疑問に思っても、覚醒したばかりの体ではうまく声も出せない。

    「落ち着いて、良く聞きなさい。
     貴方の隣にいるのが、本来鬼になる筈だった“貴方の残骸”です」

     女は仰向けになって倒れている俺の左側に目をやって話す。失血状態で気配を察知することもままならないが、きっと自分の左隣に“鬼になる筈だった残骸”なる者が居るのだろう。重たい頭を動かして左を向く。

     そこに居たのは、人の姿をした何かであった。鮮やかな紅桜の髪色、存在自体が罪だと言わんばかりに身体中に走る刺青、真っ青な目に浮かぶ月色の瞳……。
     自分の顔にそっくりではあるが、これが恐ろしい異形の存在……“鬼”であると知覚する。隣で同じように倒れているソイツこそが、彼女の言う“鬼になる筈だった残骸”なのだろう。
     だが、そいつはじっと目を見開いてこちらを凝視するだけで指一つ動かない。動けない、という訳ではなさそうだが。

    (………誰だ?どうして、俺と同じ様な顔をしている?)
    「……猗窩座、」
    「は?」
    「『誰だ』とお前が聞いてきたんだろう。あの男が俺を“猗窩座”と呼んだ。だから、それが俺の名前なんだろう。
     そして俺はお前の“鬼の細胞”。お前の体が完全に鬼の細胞へと成り代わる前に呪いを打ち破り、しかし変わり果てて戻れなくなった“鬼の細胞”を、人間の細胞と癒着する前に引き剥がしてこの体を形成した。分かるか?───
     そう言えば、お前の名前は?」

     まるっきりよく分かっていないが、俺が完全に鬼になる前に、その要素が猗窩座という形を取って分離したという事だろう。……多分。
     しかし、同じ自分だというのに互いを知らないとは。何とも不思議な話である。

    「…………狛治」
    「はくじ。狛治か。
     狛治、俺はお前のことに関して全く覚えがない。お前の『人間としての記憶』を持ち合わせていない。珠世から聞いたんだが、」

    「さんをつけろデコ助野郎!」
    「愈史郎、」
    「礼節を弁えないそこの田舎者に注意を促しただけです」
    「言葉遣いをもう少し丁寧になさい」
    「はい、珠世様!」


     ───曰く。
     俺は、完全に鬼化して鬼の始祖『鬼舞辻無惨』という男の駒になる前に、無意識下で抵抗するように場を離れたらしい。しかし鬼舞辻は猗窩座が駒になり下がることを確信していたのか、追ってくることはなかった。やがて支配下になるだろうという時、同じ鬼でありながら鬼と敵対する者、『珠世』と呼ばれていたそこの女性と出会い、彼女の血液によって鬼舞辻の呪いに対抗できる時間を貰った。

    (あの時そばにいてくれた恋雪さんは、俺が鬼の手駒として堕ちることがない様に応援してくれていたのだろうか?)

     ……俺は『貴女を守る』と誓ったのに。結局、貴女に助けられてばかりだ。貴女はまだ、俺に生きろと言ってくれるのですね。
     そう思うと………なんだか胸の奥がじんとして、目頭が熱くなった気がした。

     こうして狛治(猗窩座)は鬼舞辻の呪いに打ち勝った。しかし、自身の鬼化を止めることは不可能。『鬼になるのは元から伽藍堂である自分だけでいい』という意志だけで、猗窩座は人の細胞と鬼の細胞を分離した。その結果が、今自分の左隣にいる同じ顔をした鬼だ。

    (あぁ、そのせいか。体がやけに軽い。何も食べてないかの様に軽く、だが空腹感もない)

     狛治は一人納得して、貧血状態の中ゆっくりと起き上がる。猗窩座はまだ状況が飲み込めていないのか、仰向けになったまま瞬きをしている。

    「俺は……“俺たち”は、これからどうすれば良いのでしょうか?」
    「私と同じく鬼舞辻の呪いから抜け出した彼は、これから“裏切り者”として鬼に追われる事でしょう。貴方も同じ。鬼になり損なった人間、人間になりきれない鬼として多くの人鬼から狙われ、恐れられ、そして忌み嫌われるかもしれません。
     鬼を倒す手段は二つ。一つは『太陽に晒す』こと。日光を浴びれば、鬼は細胞を維持できずに死にます。もう一つは、陽光山で採れる素材を使用した玉鋼を打ち作られる日本刀……『日輪刀で鬼の頸を切る』こと。他の凶器では鬼を殺すことは出来ません。一年中日の光がさす陽光山で採れる玉鋼だからこそ意味を成す武器なのです」
    「その武器はどこで手に入るのですか?」

     ……珠世さんは首を振る。明確な事は分からないのだろう。彼女は「しかし、」と言葉を続ける。

    「鬼殺隊なら或いは……」
    「『鬼殺隊』?」
    「悪鬼滅殺を掲げる人間たちの集団。政府から正式に認められておらず、しかし昔から存在している陰の組織。彼らの振るう武器は日輪刀なのです」
    「まずはその『鬼殺隊』とやらに入らなければ、その後の話は進まないだろうなァ」

     猗窩座は起き上がり、胡座をかいて口出しする。珠世さんの隣にいる少年(愈史郎と言われていたな)に「珠世様の話に水を差すな駄犬!」と怒られるが、対する猗窩座はつまらないと言わんばかりに欠伸をするだけ。失礼極まりないので顔面に拳骨を喰らわせておいた。鬼なのだから怪我にはならないだろう。「グェ」とカエルが潰れたかのような声と共に、猗窩座はまた仰向けになって倒れる。不服そうな顔をするな、自業自得だ。
     ……しかし、聞いたこともない組織だ。当然自分はその組織に入るための条件や手立てを知らない。それに鬼殺隊は『悪鬼滅殺』を掲げている。それはつまり、鬼になり損なった俺とその残骸である猗窩座を殺しに来るかもしれないという事で……。

    「鬼殺隊とやらに与するにはどうすればいい?政府非公式という事は、与するのも一筋縄には行かないだろう」
    「それを知るためにも、まずは情報収集に徹しよう。そこまでしてもらう必要もないんだ。
     珠世さん、ありがとうございました。この恩は忘れません」
    「当然だ。珠世様の有意義な時間を取らせ、更には血を恵んで貰ったのだ。菩薩の様に扱え下賤な罪人ども」
    「愈史郎、」
    「コイツらは罪人です。刻まれた腕の刺青が何よりの証拠。俺は貴女の様に、万人を平等に接する事はできない。罪人など論外だ、何をするか分からない」
    「よしなさい。彼らもまた、課せられた運命に必死に抗い生きているのです」

     罪人と揶揄されても別に怒りは湧いてこなかった。それは事実だし、そんな事よりも己の不甲斐なさとやるせなさが勝って、いつまでも後ろ向きな自分に嫌気をさしているところだ。猗窩座もあれ程自分達を貶されていたのに、顔色ひとつ変えずぼうっとしている。寧ろ『心ここに在らず』な状態だ。
     『猗窩座』。彼の脳裏に刻まれていた“鬼としての記録”を盗み見たところ、この様な漢字を使うらしい。我ながら、酷い名前を当てがわれたものだと思う。自身が『体に空洞がある』ならば、彼の場合は名前の示す通り『心が伽藍堂である』と言い表しても良いかもしれない。

     この場に居られなくなって、軽い体に鞭を打ちながら立ち上がる。自分が立ち上がると猗窩座はハッと我にかえり、真似する様に立ち上がる。珠世さんに礼をし、彼の手をひいてその場を離れた。



    ❇︎ ❇︎ ❇︎
    【閑話休題~猗窩座を連れていく方法~】

     夜はまだ明けない。誰もいなくなってしまった道場に戻り、稽古場にひとり座る。

    「狛治、お前は『情報収集』と言ったが具体的にはどうするんだ?人に聞いた所で収穫は得られんだろう。鬼殺隊は政府非公式ではないか。どう接触するか、そもそも接触できるのかすら分からないのだぞ?」
    「なら、おびき出せばいい」

     狛治の提案に猗窩座は素っ頓狂な声が出た。なんだこの男は、頭に脳みそが詰まっていないのか?そういう極端な話がうまくいく訳ないだろう。
     ……などと本来は言うのだが、猗窩座もそれが良いのではないかと思っていた。自分達からでは探せないのなら、あちら側から見つけてもらう方がずっと早い。
     とは言え、猗窩座には他の鬼と決定的に違う点がある。『食欲が著しく欠けている』のだ。狛治を見ても“腹が減った”と思えず、珠世に賜わった血液も(同じ鬼だからだろうが)美味しいとは思わなかった。人間が美味しそうに見えないのだ。これでは見つけてもらうのも一苦労しそうである。

    (だが、人と鬼とで分たれた偶然を棒に振りたくはない)

     人に戻れず、鬼にもなり損なった自分達が無意味に死んだ所で誰も悲しむ事はないし、誰も気に留めない。だが二人は、『どうせなら守る拳を振るって、意味のある死を迎えたい』と思ってしまった。無意味な死を、父が、師範が、嫁が許すはずがないなどと、思ってしまった。

    「浅はかな考えだよなぁ」
    「全く」

     初めて互いを認識した時言葉にせずとも狛治の疑問を汲み取って猗窩座が名乗ったり、逆に彼の脳裏に刻まれた記録から彼の名前の由来を覗き見たり、そして自分の思い込みに対し心の中で付いた悪態を理解したりするのを考えるに、どうやら自分達は言葉にせずとも意思疎通が出来るようだ。

    「俺たちが共に行動するにあたり、課題となる点がある。ずばり『日中の過ごし方』だ。珠世が言っていただろう?俺は太陽に当たると死ぬ。狛治は人間だから平気だろうが、俺にとっては死活問題だ。夜中に移動して日中は身を潜める事にしても構わないが、早めに鬼殺隊とやらに与した方が得だろうから日中の時間さえ惜しい。なるべく共に移動できる手段が欲しいと思わないか?」
    「それもそうだが……何か案はあるのか?」
    「あるとも」

     ふふん、と言いたげに口角を上げ、猗窩座は自分の背後へ移動した。
     次の瞬間、ビリビリビリ!と着物を縦に引きちぎり、狛治の背中を露わにさせる。狛治の理解が追いつかぬまま、猗窩座が彼の背に手を当て押し込むと、ゆっくりとその腕が沈んだ。
     猗窩座の体が、狛治の体内へ入り込もうとしているのだ。

     正直に言って気持ち悪い!体内に、それも口ではない別の場所から異物が入ってくるこの感覚が、気持ち悪い事この上ない!!

    「やめろ、気分悪くなってきた!」
    「耐えろ狛治、鍛錬の一環だ。お、肘まで入ったぞ。何度か繰り返せば馴染んでくるんじゃないか?」
    「ああぁぁああ気持ち悪い気持ち悪い!!吐く!!胃液吐く!!!」
    「吐き出せるものもないくせによく言う。
     ふむ、珠世の言っていた通りだ。俺たちは同じ細胞同士の同じ体。だからこうして体に取り込むことが可能なんだろう。日中対策は万全といえるな!」
    「無茶言うな!!!」

     この鍛錬は三日三晩続いた。お陰で道場に近づく輩は居なくなった。



    結論:猗窩座が狛治の体内に入ることになった。単なる移動手段としてだけでなく、体内に入る事で身を潜めることも出来る上、万が一鬼や鬼殺隊との戦闘になったときの奇襲として役立つかもしれないと考えた結果である。しかし背中でしか出入りできないので多少の時間の齟齬が発生する。



    ❇︎ ❇︎ ❇︎
    【閑話休題~猗窩座の食事について~】

     おに
     人間を主食とし、人間が食べるものは受け付けない。鬼の始祖、鬼舞辻無惨の血を媒体として増殖する。身体能力が高く、太陽光か特殊な武器でなければ殺害は不可能。特に猗窩座の場合は再生能力が一段と高いらしく、それ故に多少の無茶が出来るようだ。

     そんな事を考えていると、ふと次の課題点が浮かび上がる。

    「お前、人間食べるのか?」
    「食べん。珠世と約束した。人食い鬼に成り下がっても、この約束は何としてでも守りたい。それに、俺は鍛錬こそが至高の領域への道だと考える。人間を喰らって得られる偽りの力など興味はない。俺の信念に背く真似はせん、だからもし俺が人間を食べる様な素振りを見せたら遠慮なく殺せ」
    「無茶言うな……。だが、そうなるとお前は何を食べるんだ?人間が食べられるものは鬼には食べられないんだろ?獣の肉とか?」
    「試した事なかったな……待ってろ、狩りに行くついでにお前の分も見繕ってやる」
    「いや、別に俺は──」

     遠慮する間もなく、猗窩座は宵闇へと吸い込まれる様に姿を消した。
     猗窩座と分離してから、食べ物があまり喉を通らなくなった気がする。以前は人並みに食べていた方だが、今では少し食べただけで空腹が満たされる。分離してからと言うものの、腹の虫の鳴き声も聞くことが無かった。さらには体が軽く感じる。病的にやせ細っている訳ではなく、程よく引き締まった肉体と鍛え抜かれた筋肉を見て分かる通りの健康体。見た目こそ普通なのに、体の中が空洞になったのではないかと思えるくらいに軽いのだ。

    (それも、鬼に変わった細胞が猗窩座として分離したからなんだろうか……)
    「狛治、戻ったぞ」

     そんな事を考えていると、猗窩座が戻ってきた。ほら、と兎の耳を持って見せつける。両手に持っているのだが、右手で持っている方は既につまみ食いした様だ。力なくだらりとしている。対する左手で捕まえられた兎はバタバタと暴れている。

    「喰ってみたが味がしなかった。“美味しい”という感覚は湧かなかったな。食えないわけではないから、暫くは獣の肉でどうにか繋ごう。こっちは狛治の分だ」
    「俺、腹減ってないから──」
    「で、どう食べるんだ?とりあえず〆るか?」
    「……そうだな(諦め)」


     料理がてんでできない訳ではなかったので、どうにかして調理する。とりあえず血抜きして焼けばいけるだろ、という安直な方法で食べる事になった。お粗末様でした。

    「思い出したんだが、最初に互いの顔を見た時、お前が倒れていた場所が血溜だっただろ?アレお前の血か?」
    「……多分?」
    「口に着いたから舐めてみたんだが、食えそうだったな」
    「……まさか、今度は俺の血で行けるかどうか試したいとか言うんじゃないだろうな?」
    「分かってくれたか!食べられるものは多いに限る、今すぐにでも試させてほしい!」

     この試行錯誤はやはり三日三晩続いた。お陰で貧血になりかけた。



    結論:余裕があるなら獣の肉を、調達ができない場合は睡眠や狛治の血液で補うことにした。同じ細胞だからか、人肉を食うよりは幾らかマシらしい。また、鬼というのは体の勝手が効くらしく、体力温存の為に幼体化する事にした。幼少期の自分を見ているみたいで、なんだかむず痒い。
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