再会 翌日、阿留多伎の小屋に玉鋼が届いた。これをもとに、十五日かけて狛治専用の日輪刀を造るという。
「それと、テメェさんが未練タラタラで持ってきたその日輪刀。良ければ使わせちゃくれねぇか?」
「え、出来るんですか?折れてますけど……」
「何、ちょっと加工するんでイ。ワシがただの刀鍛冶だと思ったら大間違いじゃア」
その折れた刀の刃先は、先日まで行われていた最終選別の試練にて共に藤襲山の中を生き、しかし命を落とした戦友が使っていたものである。
最終戦別で出会った少年『高台 海月』は、狛治の様に幼少期から喧嘩が強いわけでも鍛錬していた訳でもない、ただの人間であった。だからこそ彼はまっさらな状態で鍛錬を積む事ができ、呼吸をある程度習得し、日輪刀を問題なく使用できた。しかし戦い慣れていない少年に異形の存在である鬼を狩るなど酷な話であり、彼自身も自分が力不足であることを察していた様だ。
対して、元から素流の教えを身につけていた狛治に刀を握って戦うなど無茶な話であり、鬼の攻撃について行けるほどの動体視力と身体を持っているにも関わらず、弱点である頸を取るのに苦労していた。
お互いに欠けていたところをお互いが持っている。お互いに協力すれば、最終選別の七日間を生き残れるのでは?と少年は提案してきたのだ。しかし、彼は狛治を庇って死んだ。その際に刀が折れてしまったのだが、狛治はそれを未練かのように持ち帰っていたのだ。
「結構前から、テメェさんの日輪刀について考えていたんでイ。ただの刀じゃア、最終選別の二の舞だろうしな。出来上がってのお楽しみじゃが、大いに期待してくれや!」
「……あ、はい」
「なんだァその生返事はよォ」
❇︎ ❇︎ ❇︎
そうして出来上がった日輪刀は、防具の姿をしていた。狛治の口から思わず変な声が出るが、猗窩座は「やっと完成したのか」と笑顔で覗き込んでくる。
「し、知ってたのか……?」
「まあな。狛治が最終選別で向こうに行っている間、俺の体で採寸された。霽吽の考えを聞いて合点がいき、協力したという具合だ」
「テメェさんらの体格が全く同じだって事を思い出してな。どうせワシが造るんじゃ、今のうちに採寸しちまおうって思ってよ。採寸の手間が省けたお陰で、ワシ渾身の日輪刀が出来たぜイ」
「刀と言うより、もはや防具───」
「刀の方が良かったか?テメェさんじゃあ、何年かけても刀の振り方を覚えられんよ。それに、せっかく誇りと思う武術を身につけているんだ。人を鬼の魔の手から守る為に使いたいと思わねエってか?」
「それは………」
「それよりもほら、早速付けてみイ」
阿留多伎に急かされ、いそいそと両手足に装着する。腕を覆う手甲、足を覆う鉄靴。手足を通すと、鋼の色を保っていた防具は色を変えて雪の様な白に彩られた。コレに狛治だけでなく阿留多伎も驚く。
「白?いや、雪色か……?だが、こんな色があるなんて見たことも聞いたこともねェ」
「今度は雪か。つくづく狛犬と雪に縁があるな」
「嫌味か?」
「………まさか」
と猗窩座は苦笑する。しかし“雪”という言葉に無意識下で反応した猗窩座もまた困惑していた。狛治の記憶を持ち合わせていない猗窩座にとって、雪に思い入れなどないと言うのに。なぜこんなに切ないのだろう。“切ない”とは何だっただろうか。……そんな事を考えても、どうせ自分は鬼なのだから無意味だろうに。
そんな時、バサバサと鳥の羽ばたく音が会話を遮った。視線を向ければ、格子の縁に狛治の鎹鴉がとまっていた。
「蟲柱、胡蝶しのぶカラ 連絡アリ。素山狛治、君ノ鬼ヲ連レテ 蝶屋敷ヘ 向カエ。蟲柱ガ、君タチニ 話ガアルト 仰ッタ。此処カラ南南東、本日ノ 夕暮レニテ 待ッテイル」
落ち着いた声色で鎹鴉……牡丹が話す。蟲柱、と言うのが何を表すのかは知らないが、胡蝶しのぶという人物は多分、あの時出会った女性隊士の事だろう。
「行くんだな」
「……はい」
隊服に袖を通し両手足に鎧を纏って、そして道着を羽織る。手足に錘がぶら下がっているような感覚だが、過去の修行で水を含んだ着物で丸太を避けたり岩を動かしたりしていたので、今更どうということはない。両手甲と紐で結ばれている指輪は嵌めずに装着した後、阿留多伎の方を向く。
「阿留多伎さん、お世話になりました」
「おう。ワシも最後に面白いモンを見せてもらった。礼には及ばねェさ」
「またな、霽吽。次に会う時はきっと、お前も素晴らしい闘気を持っているはずだ」
「猗窩座もなア。中々面白い技を見せてくれたテメェさんの成長ぶりも期待してるぜェ!」
いつの間に仲良くなったんだ。そう思いつつ、猗窩座を体内にしまい込んで阿留多伎の小屋をあとにした。
❇︎ ❇︎ ❇︎
牡丹の案内のもと、二人(日が沈んでいるとは言えまだ陽光が届いているので猗窩座は体内にいるが)は蝶屋敷なる場所へ向かった。門を叩けば、二つ結びをした女子隊士が門を開いてくれる。
「素山狛治です。胡蝶しのぶさんから『夕刻ごろにここへ来てくれ』と連絡を貰いました」
「話は伺ってます。こちらへどうぞ」
女子隊士、神崎アオイが先導して屋敷内を進む。空き部屋には洋式の布団が置かれており、中には寝かされている隊士もいる。薬の匂いもする。此処は鬼殺隊士たち専用の施設なのだろうか。そう考えている内に、先ほどの洋式布団の並ぶ部屋の扉とは違う一室に案内された。この時代では珍しい物であろう書物が棚にびっしりと詰められており、作業机には小道具が置かれている。そしていわゆる“椅子”と言うのであろう、風変わりな洋風のそれに座っていたのは、あの時の女性隊士であった。
「しのぶ様、素山さんを連れてきました」
「ありがとう、アオイ。下がっていいわよ」
入室を促され、狛治は緊張気味にしのぶを見る。彼女の表情は一切崩れる事なく笑顔を保っていて、それが少し違和感であった。「どうぞ」と椅子に座る事を勧められれば、一礼して座った。
「……まさか、本当に最終選別に合格するとは思いませんでした。
最終選別の様子は貴方の鎹鴉から聞いていますよ。最初は一人の剣士と共闘していた事、しかし運悪く強い鬼に出会って死んでしまった事、怒りで我を忘れて鬼を痛ぶり殴殺した事などなど……。貴方の鎹鴉は貴方の元に配属される前から見守り、一部始終を見ていたそうです」
「………」
言い訳は愚か、言い返すことも出来なかった。それは覆りようのない事実である。その行動は間違っていると彼女は言うのだろうか。彼女の顔を見る事が出来ず、目線を落とす。
「それを聞いて、『良かった』って思ったんです」
思わず顔を上げた。黒髪だが薄紫色に染まった毛先。光を灯す事を許さない虚ろな藤紫色の瞳。風貌こそ華奢な少女だが、どこか不気味さが残るように見える。
「貴方が鬼に対して憎悪を向けられたこと、きちんと怒る事が出来たのを確認できて良かったと思っているんです。
だからこそ、私は貴方を理解できません。最初に会った時、貴方は例の鬼を擁護していた。『猗窩座は違う』と仰った。私、今でもその意味が分からないんです。鬼になんの違いがあるのでしょう?貴方だって奴らの醜悪さを見たでしょう?鬼は等しく滅殺するべき『悪』です」
彼女から鬼への憎悪と怒りを感じる。あの時自分が抱えた気持ちと同じ……いや、それ以上のものだ。
彼女と会った時、『人と鬼が仲良く手を繋ぐ“もしも”』をほんの少しだけ考えた事があると言った。……言ってはいたが、それはただ想像しているだけで、本気でそんな事を考えてはいないと分かる。きっと、はらわたが煮え繰り返るほどの所業をされたのだろう。それこそ、過去の自分が味わってきた、惨めで滑稽なあの頃のような……。
「貴方は戦友を鬼に殺され、それに怒り、鬼に憎悪を向けられた。なのにどうして、今でも例の鬼と共に行動が出来るんですか?近い将来、その鬼によって大事な人が殺されるかもしれないと思わないんですか?」
「猗窩座は俺です。俺の成り損なった鬼の一面です。猗窩座は最後まで抵抗し、鬼の始祖から逃げ、助力と共に呪いを断ち切り、一個体として俺と共にいます。少なくとも猗窩座は奴らとは違う」
「…………驚きました。その話、本当ですか?」
しのぶの表情が崩れた。こればかりは本当に驚いている様だ。頷けば、考える素振りを見せたのち彼女が「猗窩座さんに会わせてくれませんか?」と聞くので、断る理由もない狛治は二つ返事で答え、体内で眠っていた猗窩座を起こす。
「猗窩座、出られるか?此処は室内だ、太陽も沈んでいる」
『藤の匂いがする』
「……その、藤の毒を警戒している様です」
「あらごめんなさい。鬼避けの為に良かれと思って撒いていた匂いですね。そうですかそうですか、最初に会った頃から毒にはめっぽう弱そうだと───」
「誰が弱者だ、誰が」
唐突に背中から子供の頭一個分の膨らみが出てきた。もぞもぞと動き、羽織っている道着の下から幼体化した猗窩座が転げ落ちてくる。椅子に座っている状態の狛治の背中から出てきたので、ゴトンといい音を鳴らして床に突っ伏した。
「……ほら、出てきてやったぞ」
「ではこちらまで来てくれますか?何も、取って食おうだなんて思っていませんよ。もしかして怖いんですか?」
「怖いなど思っている訳ないだろう」
「説得力ないですよー」
ふふふ、と茶化す様に微笑む。余程警戒しているのか、外に出てからと言うものの狛治の隊服の袖をぎゅっと掴んで背に隠れているのだ。まるで人見知りの幼児である。
「話は聞かせてもらったぞ。それで?鬼に対して並々ならぬ殺意を持っているお前が俺に何の様だ?言っておくが、お前と別れてからも人は襲っていないからな。何なら霽吽に聞くといい。奴が保証する」
「そうですか、後ほど阿留多伎さんに話を伺ってみますね。
少し、気になっている事がありまして」
「不死川さんの真似ではありませんが……」と呟くと、道具箱から鋭利な刃物(医療用の刃物の様だ)を取り出す。刃物の切っ先を自身の指先に当て、小さな切り傷を作る。ぷくりと溢れ始める血液を確認すると、しのぶは猗窩座の目の前までやってきてしゃがみ、指を見せてくる。猗窩座の鼻を、女の血液特有の美味しそうな香りがくすぐってくる。
「私の血液は稀血ではありませんが、どうでしょう?鬼って、女性の肉を食べたがるんでしょう?貴方、話を聞く限りだとまともに食事を摂っていないんですってね。人間の肉が、血が欲しくありませんか?」
猗窩座の目がしのぶの切り傷に集中する。口元が緩く開くが、狛治の腰に下がっていた特製の口枷をぶん取ると急いで自身の口元に当てた。
「……匂うぞ、お前。血に混じって……毒の香りがする」
しのぶの目が大きく開いた。まさか己の体を、己の奥の手を匂いだけで看破するとは。それに、猗窩座は食欲を抑えるために口枷を咥えたというより、「口に入れさせない為に」咥えたように見える。『自身の奥の手を取り込まないように』というのも理由であろうが、彼の『人肉は絶対に食わない』という固い意志を感じる。
「……それと、何度も言うが俺は人を食わない。女の肉や血液、稀血などもっての外だ。さっさとその傷を治せ、気が散る」
「……何故食べないんですか?貴方の反応を見るに、鬼としての本能である食欲はきちんと働いている。鬼は人を食べるとその分強くなる。なのにどうして───」
「その様な紛いものの力など、俺の求める強さではない!真の強さが示すのは、肉体と精神を鍛え上げた先の『至高の領域』!俺が求める強さは、鍛錬によって得られた肉体と精神の成長のみ!!人間の血肉を喰らう事で得られる強さなど馬鹿馬鹿しい!!もし俺が人の肉を食おうものなら、それよりも前にこの口枷で己の口ごと頸を掻っ切ってやる!!」
啖呵を切る様に、口枷で己の口を傷つけながら答える。激昂している猗窩座の様子を冷や汗をかきながら狛治は見守る。
……やがて、しのぶは立ち上がって席に戻った。
「一口でも舐めてくれたら貴方の有害性を証明できる上に、毒で苦しませながら殺せると思っていたんですけどね。まさか察知されるとは思いませんでした。それに……」
小さな包帯を手に取り、指に巻き付けながら笑顔で答える。
「根拠のない馬鹿みたいな覚悟を聞けて、私もスッキリしました」
そう微笑む彼女は、ほんの少しだけ二人を認めてくれた様に見えた。
❇︎ ❇︎ ❇︎
【閑話休題~今後の課題~】
「さて、お二人の事は大体把握できました。お館様にも報告済みですし、阿留多伎さんも手紙を送ってくださっているので、近い内にお呼び出しが来ると思います。私もお力添えしますからね」
「あ、ありがとうございます」
「本題も済んだところで解散……と行きたいところですが、一つ質問をしても良いですか?」
「え、はい。なんでしょうか?」
「日輪刀はどこに?」
一応、最終選別で渡された短刀は腰に下げているが、彼女の言う“日輪刀”は新たにこしらえてきたものの事を指しているのだろう。狛治は困惑した様な顔をして答える。
「えっと……これです」
「……防具ですか?」
「その……俺の戦い方は刀ではなく格闘です。幼少期から腕っ節には自身があって、何年か武術を習っていました。全集中の呼吸もそれを大元にする様に修行しました。阿留多伎さんが言うには、『一から剣術を覚えるよりも、元から習得していた武術をより極めた方が効率的だ』と……」
「成る程。つまり、刀ではなく拳と蹴りで戦っていこうという事ですか。確かに、習得している武術を生かせるようにした方がよっぽど効率的でしょう。その為に、わざわざ刀鍛冶を指名してまで作ってもらったんですね」
「指名については、阿留多伎さんがそうしろって言ったものですから……」
「何はともあれ、特注してまで自分専用の日輪刀を拵えてもらったのですから、全集中の呼吸を完璧に習得しないといけませんね。このままでは宝の持ち腐れになってしまいます」
痛いところを突かれて思わずぐっと息を呑む。ようやく自分達の死に場所が決まったのだ。誰かの命を救えるような戦場であれば良いことに変わりないが、無駄死にしに行くわけでもあるまい。胸を張って、父や師範、愛する人に顔を向けられる様に努力を積み重ねなくてはいけない。
「ですが……刀ではない以上、私が知りうる各流派の呼吸に合わせるのは難しいでしょう。ここは思い切って『独自の呼吸法を編み出す』のはどうでしょうか?」
「それは一体、どういう事でしょうか?」
「言葉の通りです。自分に合った呼吸法を開拓してみては如何でしょうか」
全集中の呼吸とは圧倒的な鬼との戦闘を有利に運ぶため、身体能力を強化する特殊な呼吸法である。そこから各“型”に沿った剣術を繰り出す事で鬼を滅殺する。
基本の流派は『水・炎・雷・風・岩』。鬼殺隊士たちは基本となる五流派のどれかを学び、技術を身につける。
しかし、まれに自身に合わせて使っている呼吸を変えたり、新しい呼吸を派生させる人物がいると言う。しのぶの流派である『蟲の呼吸』もそのうちの一つであり、その呼吸法は彼女の為のものである。
「開拓するにしても、まずは全集中の常中が出来なければ話になりません。なので、しばらくはここで働きながら修行しましょう」
「働く……ですか?」
「はい。ただ鍛錬するだけでは鬼殺隊の現状を理解できないと思いまして。ある程度流派が固定されてきたら、任務に赴きましょうね」
「分かりました。それで、仕事は何でしょうか?」
「次々と運び込まれるであろう傷ついた隊士たちの看病と、機能回復訓練の手伝いです」
結論:胡蝶さんの元で全集中・常中の修行を行い、同時進行で蝶屋敷に運び込まれる隊士たちの看病や訓練の手伝いをする事になった。蝶屋敷で手伝いをする際、先輩として神崎さんが当てがわれ、一緒に仕事をこなしてくれる三人の少女たちとも顔を合わせた。
猗窩座の顔を覚えて貰うべきかと思い、彼女たちにも紹介した。最初は怯えられたが、猗窩座が『体力の温存』と称して常に幼体化してくれているお陰もあって、段々と打ち解けている様だ。
❇︎ ❇︎ ❇︎
【閑話休題~これからの話~】
「そういえば、素山さんって元は岩の呼吸を教わる予定だったと聞きましたが本当ですか?」
唐突にしのぶから聞かれ「え」と声を漏らすが、狛治は頷いて答える。
「はい。俺が最初に日輪刀を掴んだ時、刃が灰色になったので『岩の呼吸が適正だ』と教わりました。でも『岩の呼吸を習得するための時間がないから、取り敢えず全集中の呼吸だけでも完璧に覚えろ』と言われていたので、結局習得出来ず……」
「成る程……。修行の期間さえあれば、もしかしたら岩の呼吸を使いこなしていたのかもしれないですね」
「それでしたら……」としのぶは何か思い当たる節がある様に呟く。
「自分だけの流派を開拓するなら、適正だと言われていた岩の呼吸から派生させてみてはどうでしょうか?幸い、岩の呼吸でしたら適任の指導者がいますよ」
……と、紹介されて向かった先には、心頭滅却と言わんばかりに足元を燃やし、両肩に丸太と石材を担ぎ込み、何で涙を流しているのか全く理解できないが涙を流し続けている大男がいた。
狛治と体内にいる猗窩座は正直言ってびっくりした。そうはならないだろう、とツッコミを入れたくなるくらいには驚愕した。
「ようこそ、我が修業場へ……」
盲目なのであろうその瞳は真っ白である。しかし気配である程度感じているのだろう、その男、岩柱『悲鳴嶼行冥』という男は姿勢を崩さずにそう言った。
「最も重要なのは体の中心……足腰である。強靭な肉体を得るにはまず下半身だ。安定した姿勢を保つ事が、正確な攻撃と崩れぬ防御へと繋がる。
話はしのぶから聞いている。岩の呼吸に適性があるならば、そこから派生する事も可能だろう。しかし、岩の呼吸は厳密な型だ。柔軟性に優れる水の呼吸や、熱意によって姿を変える炎の呼吸のように型が派生しづらい。私が教えられる事は少ないだろうが、手助けになれるのなら幸いだ……」
「よ……よろしくお願いします」
『狛治、その男はとてつもなく強いぞ!鬼殺隊の中で最強だ!!絶対そうだ!!鍛え抜かれた肉体、練り上げられた闘気、賞賛に値する!!素晴らしい、ここまで理想に近い人間が居ただろうか!?いや、俺が今まで会った中でも随一の存在であろう!!』
「猗窩座、ちょっと黙れ」
『この男と鍛錬が出来るのか!?良い人材と巡り合えたな狛治!絶対にお前だけの呼吸法を身につけるのだぞ、折角このような機会を設けてもらっているのだ、有り難く教えを乞うとしよう!!』
「猗窩座!!」
結論:自分の境遇、そして自分の中に鬼がいることを察した上で何かを言及するわけでもなく、協力すると首を縦に振ってくれた。正直言って、とても有り難かった。悲鳴嶼さん自身も鬼に大切な人を殺されているだろうに。猗窩座が人を食わないという、一見戯言のように聞こえる事実も、全部信じるとまではいかないが聞いてくれた。
悲鳴嶼さんの教えを元に、自分だけの呼吸法を探す事になった。色の変わった日輪刀について話したところ、やはり今まで見て来た中で雪色の刀身を宿した剣士は居なかったようだ。つまり、それこそが『自分だけの呼吸法』の手がかりなのだ。そう教えてもらい、まずは岩の呼吸を習いつつ、そこから自分に合うように……素流の教えに沿って型を変形させてみる事にした。
そうして、一年かけて編み出した呼吸法『雪の呼吸』を確立した時には後輩ができるという話が上がった。何でも、今回の生存者は五人なのだとか。うち一人は胡蝶さんが気にかけていた少女『栗花落カナヲ』だったようで、無断で受けたために叱られていた。