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    IFにIFを重ねる話。の、5話目後編。
    鬼殺隊IFの狛治さん&完全に鬼の始祖の手駒になる前に呪いを自力で解除した猗窩座殿のおはなし。鬼殺隊IFにする為に時系列が変わっているところがありますが、『ほーん、こんな妄想もあるんだなー』程度に受け取ってください。
     また、創作キャラクター、創作地域名も混ざってます。許して(謝罪の意)

    無邪気との接触(後編) 狛治が仙巌霊山せんがん れいざんの頂上を目指すべく石階段を駆け登ったのを見送った猗窩座は、後方にいる杏寿郎へと向き直る。彼は元からどこを見ているか分からない男であったが、今はそれ以上だ。どこに敵意を向けているかが分からない。それ程に彼は全方面に意識を集中しており、無闇に近づけばこっちの頸に刃を入れてきそうな程である。


    『“金花猫”ってご存じ?お殿様が猫を無礼打ちしたら、その猫に取り憑かれたっていうおはなしなの。まるで煉獄おにいさまとわたしのようね』
    「鬼は幽霊にでもなれると?」
    『わたしは幽霊なんかじゃないわ。摩多羅神に仕える二童子よ。人間の三毒を象徴する試練そのもの。
     おにいさまは今、“渇愛の毒”の試練を受けているの。わたしが与える試練によって心も体も蝕まれ、段々と生気を失っていくのよ。どんなに強い人間でも誰かを愛さずにはいられないし、愛の暴力には勝てない。人の煩悩にして心身共に蝕む毒……誰かを愛さずにはいられないだなんて“愚かさ”、まさにの象徴だと思わない?』
    「人を愛し慈しむ心を“毒”と揶揄する君の価値観が俺には分からない」
    『そんなものは綺麗事。おにいさまがどのように愛されてきたのかは知らないけれど、こんなに素敵な人になったのだもの。きっと素晴らしいご両親に、素敵に愛されてきたのでしょう?素敵ね、素敵な愛ね。だから毒されるのよ』
    「俺も君がどの様な扱いを受けてきたのかは知らない。だから共感することもない、理解もしない」


     側から見ると独り言にしか見えないが、猗窩座には何かが取り憑いている様に感じ取っていた。それを取り除くには本体を叩く必要がありそうだと考える。
     だが、その肝心の本体が何処にいるのかが分からない。謎の闘気らしき気配が周囲に霧散している様に感じるためである。まるで幽霊だ。実体なく、そして不確定。猗窩座は思わず舌打ちをした。


    『貴方は誰からも愛される人。でも貴方は誰かを慈しむ心を持ち合わせているの?貴方の心は焼け野原じゃない。きっと貴方は身を焦がす勢いの恋情しか持てない、癡の渇愛者なのだから…………あら?』

     悠々と語っていた爾子又が相手の闘志を感じ取る。この男はまだ何かをしてくるつもりだと察知するが、人間が実態のない幽霊のような自分に手出しできるわけがないとタカを括っていた。

    「話はこれで終いだ。そろそろ君と話すのも飽きてきたところだ、君の言う『身を焦がす意志』を見せてやろう」

     その気迫は、まさに『身を焦がすほどの業火』であった。闘志を、心を燃やし、その情熱は取り憑く霊をも焦がす。気迫の業火が霊体である爾子又を包む。
     爾子又が血鬼術により実体を捨てるその理由は、対象に精神的な苦痛を与える一番適した体……『霊体』である方が効率的だからだ。しかし、それは対象の精神に干渉する手段。つまり『相手も精神で干渉ができる』。それを見抜いていたのかただの偶然かはさて置いて、人であるのに彼の放つ気迫は本物の炎を思わせる。彼女のしがみつく力が緩んだ一瞬を見逃さなかった杏寿郎が刀を強く握る。

    「炎の呼吸、弐ノ型 昇り炎天ッ!」

     背後に取り憑いていた爾子又を振り払い、後方の虚空を刀で振り上げて斬る。爾子又の姿が一瞬現れたかと思うと、苦虫を噛み潰す様な表情を浮かべながらまた姿を消す。技を受けた爾子又は真っ二つに両断された様に見えたが、それなのに倒したという実感がない。危うく片膝を着くところだったが、杏寿郎は漸く解放された体に鞭を打つ勢いで踏みとどまる。

    「あの鬼は最初からお前の背後にいたのか?」
    「そうらしい。先程の血鬼術はどうやら、自分を斬った相手の背後に取り憑いて精神に干渉し、やがて体調をも蝕んでいくもののようだ。先程は気迫でどうにか剥がせたが、また取り憑いてこないとも考えられない」
    「ここから頂上まで距離があるぞ、動けるのか?」
    「人間だからとみくびられては困る」
    「流石だ杏寿郎」
    「君は随分と馴れ馴れしいな」

     二人の目指す頂上までの階段上を見る。階段先の猫の石像の上に腰を下ろす爾子又は、今度は頭のない体だけを出現させて足をぶらつかせている。

    『あぁ、びっくりした。まさか血鬼術のカラクリを見抜かれるなんて思ってもいなかったわ。今度は注意して取り憑かなくちゃ。
     そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわ。お名前教えて』
    「……猗窩座だ」
    『猗窩座ちゃん。なんてひどい名前。犬がつくなんてとっても酷い名前じゃない。わたし、犬は嫌いよ。どうせなら“猫”を使いましょう。猫は良いわ、自由気ままだもの』
    「弱者に構っている余裕はない。疾く去ね」
    『だめだめ。あなたたちに選択肢はないの。あなたたちは“わたしたち”と遊ぶのよ!
     血鬼術『瞋恚猫踊りしんに ねこおどり』!」

     爾子又が手を叩くと、階段沿いに置かれていた手拭いを咥える猫の石像たちが動き出す。石像が姿を保ったまま飛んで跳ねて、遊んでほしいと言う様に二人の道を塞ぐ。杏寿郎が呼吸を用いて石像を斬るが、石像の頸を切っても動き続ける。動きを止めない石像に思わず眉をひそめた。
     この石像は本当にただの猫の姿をした石像、鬼ではないのだ。鬼であれば頸を斬って終わりだが、頑丈な石でできている石像をそう何度も刀で斬るわけにはいかない。岩を断ち切れるほどの鍛錬を積んできたとは言え、何度も斬っては刀を摩耗してしまう。

    『さぁ踊りましょう!みんな力尽きるまで踊り明かしましょう!疲れて苦しくなっても休む事は許さないわ!いつまでも、永遠に踊り続けるの!』



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

     その頃、狛治は単身で階段を駆け上がる。全集中・常中を習得できたのは大きな成果で、長い石階段も楽々駆け上がれる。疲れも感じない。鬼殺隊士たちは常にこの様な状態だったのか、と狛治は感心した(実際はそんな事はなく、しのぶが『全集中・常中は基本だ』と教えた為にそう思い違いをしてしまった訳だが)。

     ようやく石階段の頂上に辿り着く。石階段の先にあったのは、閑散とした小さな里であった。本当に里があったのか……と周囲を見渡すと、家屋の屋根に腰を下ろす少女の影を見つけた。狛治は跳躍して屋根に移動する。

    「ようやく来てくれた。初めて人間が来てくれた。貴方が記念すべき一人目、貴方が最初のお客さま。そして、私の姿を見るのも貴方が一人目よ」

     背を向けながら、少女は髪を指でいじる。余裕そうな態度に警戒心を強め、構えを取る。

     雪の呼吸、序ノ構 白銀の羅針しろがねの らしん

     素流の構えを取った彼を中心に闘気が渦巻き、吹雪が視界を奪う白銀の世界にいる様な錯覚を受ける。冷ややかな気配が少女……爾子又(にしては服装がだいぶ違うのだが)の背中を刺す。

    「雪の様に優しい冷たさ。でも油断すれば命を取りかねない冷徹な吹雪の気配ね。欲しくなる強さだわ。
     ……あ、そうだ。私も名前を教えなくちゃ」
    「爾子又だろ?」
    「違うよ」

     すっぱりと否定する少女に狛治は眉をひそめる。腰を下ろしていた少女が立ち上がり振り向いたと同時、雲に隠れていた月が顔を出した事で少女の姿が顕になる。
     左目にあった筈の『下肆』の文字は右目に刻印されており、顔こそ似ているが生え際が左右逆だったり、爾子又が着物のような服で帯を蝶々結びにしていた見た目と違ってどこか洋風な服装であったり……。そう、明らかに先ほど見た『爾子又の姿』ではなかったのだ。

    「爾子又は私の双子の妹。私は丁仙ていせん。どうぞよろしく」

     ……十二鬼月は『十二体』ではなかったのか?一つの数字に一体ではなかったのか?新たな事実に狛治は困惑する。

    「誰も『十二鬼月は十二体のみ』だなんて言っていないし、誰も『一つの数字につき一体のみ』だなんて公言していないわ。貴方、意外と頭固いのね。よく言われない?」
    「余計な口を叩くな。さっさと構えろ」
    「貴方、『ご先祖さま』が言っていた“裏切り者”ね?ご先祖様の御加護を無視して鬼の細胞と人間の細胞を分割したって本当?それに、藤襲山の子たちをたった一人で虐殺したんですってね?弱い子たちとは言え、骨が折れる様な闘い方で嬲り殺しにしていたんでしょう?貴方の強さの秘訣が気になるわ」
    「つくづく他人の神経を逆撫でしてくるなお前は……」

     ヒュルルルル、と吹雪を連想させる呼吸音と共に、鉄靴から淡い雪のような模様がちらちら浮かび上がる。

    「雪の呼吸、参ノ型 脚式・氷柱割きゃくしき つららわりッ!!」

     距離を詰め、自身よりも小柄な鬼の頭部目がけて踵落としを繰り出した。その速さは全集中の呼吸により目にも止まらぬ速さとなり、並の鬼では対処できない程である。しかし丁仙は低くしゃがむと後方へ勢いよく飛び退いた。反対側の家屋の屋根に飛び移ったのだ。丁仙がいた場所に穴が空き、屋根は半壊する。

    「驚いた。腰に下げている刀が短刀だから特殊な戦い方をすんだろうなって思っていたけれど……貴方の戦い方は“それ”なのね。羨ましい、人間にしては勿体無いくらいの才能だわ。一体、どうやったらそこまで強くなれるのかしら。欲しくなっちゃう」

     鬼が異能である血鬼術を使うのならば、人間は歳月をかけて習得する呼吸法を使う。向こう側で楽しそうに笑顔を向ける丁仙には努力しようという意志はなく、ただ『努力せずにそれが欲しい』と言っている様に見える。そんな強欲な相手が余裕ぶっている姿に苛立ちを覚えると、狛治も並の人間には不可能な脅威の脚力で向かいの屋根に飛び移る。

    「すごいすごい。流石、鬼になり損なっただけあるわ」

     賞賛する様に手を叩くがわざとらしい身振りだ。狛治の眉間にシワが寄る。そんな事お構いなしに、丁仙は何かを思いついたかの様に声を上げた。

    「ねぇ、貴方の鬼の部分をちょうだい」
    「───は?」
    「悪い話じゃないでしょう?貴方は人間。でもなり損なった鬼の残骸が常にいる。せっかく鬼にならずに済んだのに、鬼になりかけの自分が隣にいるなんて不気味じゃない?貴方が何も思わなくても、周りの人間は貴方たちを認めてくれるかしら?さっき一緒にいた煉獄お兄さんだって、何を考えているのか分からないわよ。もしかしたら鬼狩りの仕事を全うしてくるかもしれないわ。
     それに、貴方だってあの鬼の扱いに困ってるじゃない。顔を見れば分かるわ。私と爾子又みたいに双子じゃない、貴方たちは同一人物なんでしょう?だったら『悪い自分』なんて切り捨てちゃいましょうよ。私、“壊れたおもちゃ”でも構わないわ。“アレ”を捨てるのに困っているのなら、私にちょうだい。良いでしょう?」

     まるで欲しいものをねだる幼児だ。可愛らしく首を傾げながら強請っている。しかし、狛治の堪忍袋の尾は既に切れていた。額に血管が浮き出る。

    「────すぞ」
    「ん?何かおっしゃった?」
    「『脳髄ぶち撒けて殺すぞ』と言ったんだ捨て猫。猗窩座が“壊れたおもちゃ”だと?アイツを物のように言うな。他者であるお前如きが、俺自身の問題に首を突っ込むな」
    「…………気が変わった。貴方を殺す。私が、私たちが“捨て猫”ですって?勘違いも甚だしい、私たちはご先祖様から信頼されている。貴方が抱える壊れたおもちゃと違って、容認されている上でここに居るの。私たちは捨てられてなんかいない!!」

     狛治は構えを取り、『白銀の羅針』を展開する。対する丁仙は額に血管を浮かび上がらせて怒り心頭の様子を見せる。牙を剥き出しに、猫が威嚇する姿を取って唸り声をあげた。

    「貪欲の毒に耐えられる?耐えられなかったらお気の毒さま!
     血鬼術『貪の猫南瓜とんの ねこかぼちゃ』ッ!!」

     丁仙の口から南瓜の蔦が伸びる。蔦は猫の形をする南瓜の実を付け、二人の周囲を囲む。ニタニタ笑ってくる南瓜が気持ち悪さを醸し出す。

    「人間にとっての毒の一つは“貪欲の精神”。人間の精神的毒になり得るのは、その人自身の煩悩。人間は煩悩一つでダメになっちゃう生き物なの。
     ところで猫南瓜って知ってる?妖怪なんだけれどね───」
    「雪の呼吸、伍ノ型 砕式・柳雪垂さいしき やなぎ ゆきしづりッ!!」

     間合いを詰めて丁仙の頭上まで跳び上がり、呼吸法を用いて広範囲に拳を乱打する。それは、柳の木に積もっていた雪が一斉に落ちる様に。
     しかしその衝撃で南瓜が割れると、割れ目からドス黒い煙が噴き上がる。血鬼術での目眩しなのか、いつの間にか移動していた丁仙を睨みつける。丁仙の口からはまだ蔦が伸びており、新しく実を付けた猫の形の南瓜がうっとおしい。

    「綺麗な技。銀世界を思わせるような美しさに、轟音響かせる花火を連想させる力強さがある。でも、ひとの話は最後まで聞かなくっちゃ」
    「鬼の戯言に付き合う気はない!」

     拳は握らず、手刀の形を保ったまま距離を詰める。道の邪魔をする南瓜たちを叩き割って強引に足を進めるが、煙幕らしき黒い霧が出ている間に丁仙が別の場所に移動している。これを繰り返していたらキリがない。では南瓜に手を出さないように………いや、南瓜はどんどん実を大きくして最終的には形を保てず割れてしまう。ならば実が小さいうちから潰したほうが───
     ……何故、こうも南瓜に固執している?そう疑問に思い始めるが、何故か視界が黒く歪む。

    「ほら、遊び続けましょう?南瓜を叩き割る遊びよ。眩暈がしても動き続けてよ。指が痙攣しても、うまく呼吸が出来なくなっても、体が動かせなくなっても貴方は遊び続けるのよ」

     これこそが、彼女の使った血鬼術『貪の猫南瓜』の力。黒い霧は精神を麻痺させる毒。一見ただの煙幕に見えるが、吸ってしまうとまず『南瓜を対処しなくてはいけない』という使命感を植え付けられる。南瓜を割るたびに黒い霧は充満し、次に目眩を引き起こす。大量に吸い込んでしまえば体の末端から痙攣し始め、やがて痺れは全身に回る。最終的には呼吸すらできなくなり窒息死する……この術に掛かってしまったことが、あの黒い霧を吸い込んでしまったことで、狛治の負けが確定したのだ。丁仙は己の絶対的勝利を確信している。

    「貴方は何分耐えられるかしら?人間の体で、煩悩の毒を何処まで耐えられるかしら?前の人は1分も経たずに死んでしまったから。……そういえば、前の人も貴方と同じ服を着ていたわ。でも前の人より強そうだし……3分で限界かもしれないわね。みっともなく苦しみながら死んでちょうだい。私たちは捨て猫なんかじゃないのよ、違うんだから……!!」

     怒りを顕にして牙を向ける丁仙を目で捉える。狛治は呼吸を整え、次の技を繰り出す動作をする。しかし、


     「行ってこい、杏寿郎っ!!」
     「炎の呼吸、肆ノ型 盛炎のうねり!!」

     突如、後ろから猗窩座の声が聞こえてきたと思えば杏寿郎が狛治の横を通った。
     ……いや。正しく言い表すなら、猗窩座に投げ飛ばされたのだ。その勢いのまま、彼の業火の如き剣撃で黒い霧も南瓜も、全てが燃えた。燃えて灰になるように、全てが消えた。そして、杏寿郎が振るった刀は猫南瓜の蔦だけでなく丁仙の頸をも捉えて斬り伏せ、その後受け身を取って着地した。

    「遅い!」
    「無茶言うな!こっちは杏寿郎を抱えるために片腕と脚しか使えなかったんだぞ!それなのにあの手拭い猫地蔵、鬱陶しいったりゃありゃしない!!」
    「頸を斬るだけでは倒せないと分かった時は正直焦ったが、君が完膚なきまでに粉砕した事でどうにか打開出来た!!
     睫毛青年、全集中の呼吸を意識し、そして想像しろ。吸い込んでしまった霧を外に出し、新鮮な空気を多く取り入れるんだ」

     突然そう指摘され、狛治は戸惑いながらも言われた通り呼吸に集中する。ゆっくり深呼吸することで指先の痺れが収まり、先ほどから酷かった眩暈も軽くなってきた。その様子を見て杏寿郎も安堵する。


    『……違う』

     その最中、里の道から丁仙の声がする。

    『違う違う』

     次は反対方向、階段付近から爾子又の声がする。

    『違う違う違う』『そうじゃないそうじゃないそうじゃない』『だめだめだめ』『それは正攻法じゃない』

     里の道で現れたのは丁仙の両腕。反対方向である階段側に現れたのは爾子又の下半身。二人とも顔こそ見えていないが、声色で彼女たちが怒っていることがわかる。

    『貴方たちの攻略法は正攻法じゃない!!』
    『そんなものでは人間の煩悩を超えられない!!』
    『一人だけで突破できないと意味がない!!』
    『一緒で良いのはわたしたちだけ!!』
    『一緒じゃないといけないのは私たちだけ!!』

     丁仙の腕はその場で大きく振り回し、爾子又の両脚は地団駄を踏む。やがて二人の体全てが鮮明に見え、彼女たち二人が怒りで表情を歪ませているのが窺えた。

    「わたしたち渾身の遊び試練を台無しにしないで!!」
    「私たち渾身の試練遊びを壊さないで!!」
    「血鬼術『瞋なるムネンコしんなる むねんこ』ッ!!」
    「血鬼術『貪の猫南瓜』ァ!!」

     丁仙の口からまた蔦が伸びる。対して爾子又の方は頭上で手を叩くと、里じゅうの家屋から物音がした。そちらに注意を向けば、家屋の中から人間がゆらりと現れる。

    「この里に住んでいる人か!?」
    「違う、彼らは……!」

     杏寿郎は彼らの正体が分かった。出てきた人たちの中に、行方不明であった隊士の姿を視認したためだ。彼らはもう死んでいる。爾子又は酷いことに、死体を操っているのだ。

    「猗窩座、彼らも先ほどの石像と同じだ。俺の攻撃では止められない。また君の剛力に頼ることになるが、決して彼らを蔑ろにしてくれるな」
    「生きていようが死んでいようが、人間は食わないし手も出さない。どうにかして抑える」
    「よし、任せた。睫毛青年、君と俺で彼女たちの頸を同時に斬り落とすぞ」
    「だから素山で……え、“同時に”?」
    「先ほど、俺は君が対峙していた鬼の頸を斬った。階段側で相見えた鬼の時とは違い、確かな手応えを感じた。だが奴は霧散せずに未だその姿を保っている。俺は奴らの頸を同時に斬れば倒せると踏んでいる」

     ……あり得ない話ではない。事実、丁仙は相方である爾子又を『双子の妹』と称していた。人間の頃における姉妹、それも双子であるならば、肉体の繋がりも濃いのではないだろうか?
     この読みが正しければ、自分が狙うべきは爾子又の方だろう。丁仙を相手にすると先程の二の舞だ。しかし爾子又の血鬼術は『渇愛金花猫』の仕組みと対策さえ分かれば勝機がある。

    「俺が南瓜の方を斬る、君は階段側を頼んだ」
    「了解ッ!」
    「うむ、良い返事だ!」

     そして、二人と一体は互いの敵にへと向かっていった。
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