私が結婚する際に、ふと親友のことを思い出した。私は春が好きだった。私たちが出会ったのは大学のまだ寒い春の日だった。毎年こうマグノリアの香りが漂うようになると、私はいつも彼を思い出す。香りというのは記憶を呼び起こす作用があるようだ。
外からは少女の耳飾りのようなクチナシの甘い香りと、湿気を含んだ柔らかい土の匂いが漂っていた。電気を付けていない薄暗い書架に、埃を被った写真立てが飾られていた。ドアのベルが鳴らされる微かな音が聞こえた。使用人が廊下を駆けるパタパタという足音が響く。
写真屋がやってきたのだ。
私は田舎町の貧しい生まれだったが、彼は生まれながらの貴族だった。私たちは同じ授業を取っていて、それは古典電磁気学の授業だっただろうか。マクスウェル方程式の解法の求め方を教授が説明している間、他の生徒はうとうとと船を漕いだりしている様子が見られた。元々履修している生徒が少ないからクラス全体の様子が見渡せた。私は窓からそよぐ秋の風に気を取られ、ぼんやりと外の枯葉を眺めていた。
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