loverary図書館の貸し出しカウンターで、白銀は本を読んでいた。
ページをめくる音。空調の音。勉強をしている者の筆記具の音。かすかな息遣い。
余計な音の聞こえない静寂が好きで、白銀はここに勤めている。
中には白銀目当ての来館者もあるのだが、騒がしくしていると白銀が追い出してしまうから、外の窓から眺めるか、息を殺して本棚の影から様子を伺うかだ。
視線が鬱陶しくはあるが、本に集中していればいずれ気にならなくなる。
さらりと落ちてくる白い髪を耳にかけて、文字列を追う。
幼い頃から特に手入れをしているわけではないのだが、白銀の髪は絡むことなく絹糸のように落ちる。
カウンターの向かいにひとの気配がして、白銀は人当たりのいい笑顔を浮かべながら顔をあげ、相手を見てすぐに真顔に戻った。
ともすれば睨まれているというのに、目の前に立った劉黒は微笑んだ。
「やあ、白銀」
「……。本は持ってきたか」
「あ」
はあ、と思わず深々とため息をつき、白銀は額を抑える。
劉黒は貸し出し期限超過の常習犯だ。幼馴染ではあっても責任感の強い白銀は決して甘やかさず催促しているのだが、何度諭しても劉黒が貸し出し期限内に借りた本を返したことは白銀が覚えている限りない。
そして今日も、案の定劉黒は本を忘れてきているのであった。
白銀はリクエストがあって早急に返さねばならない時以外で、彼の代わりにこっそり返しておいてやるということはしない。劉黒のためにならないし、それは優しさではないと考えているからだ。
「取りに帰れ」
「え、往復結構かかるが」
「いいから。本返さねえならこのあとの予定を蹴る」
「う」
今日は白銀の勤務時間が終わったら、二人で食事に行く予定だったのだ。
劉黒はもちろん、白銀も楽しみにしてはいたのだが、こればかりは譲れない。
会いに来る余裕があるなら本も持ってくれば一度で済むだろうに、そこに考えが及ばないということが白銀には信じられない。
「最初から持ってきていれば……というか、期限を守っていればいいだけの話だ」
「う、うむ……仰る通りです……」
「分かったらさっさと行け」
「はい」
すげなくしっしと追い払うようにあしらわれ、劉黒はしょんぼりしながらとぼとぼ来た道を引き返していく。
一応見えなくなるまで見送って、白銀は中断していた読書を再開した。