秀越学園内部、Adam専用ルーム。
凪砂が卒業してからは共に行動することも減り、半ば茨のもうひとつの自室のようになっている。
その部屋に、凪砂は数ヵ月ぶりに足を踏み入れる。
「卒業して数ヵ月しか経っていないのに、どうして懐かしく思うんだろう」
「まあ、一年のほとんどをここ中心に過ごしていたわけですから、多少なりとも愛着みたいなものは沸くのではないでしょうか?とはいえ自分も卒業したら本当に使い道がなくなるので、レッスン室なんかに改装しようと思ってますが」
「茨は懐かしくならない?」
「なりませんね。物、ましてや記憶への執着はありませんから。どんな小さな事象にも百万語の感想を述べられてしまう閣下と比べることも烏滸がましいですが、比べるべくもなく、自分がつまらない人間だと自覚しています」
以前当たり前のように行っていたソファへ凪砂をエスコートし、紅茶とお菓子を用意しながら、茨はなんてことないといった風に凪砂からの質問に答える。
その答えを、凪砂はじっと聞いていた。