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    墓地管理ワスif

    レナ+ワスのお仕事あれそれ
    遠吠えと主人

    ブラックドッグを何と呼ぶワースは目の前のボードを見て首を傾げていた。魔法墓地管理局の仕事は時間の都合上スケジュール管理が難しい。だからこそ昔からの伝達手段、メッセージボードが採用されていた。本日の自身のスケジュールを書いて共有するのだ。先日、というより今日の朝まで働いていたワースはこのボードを局内で最後に見ることになり、そしてその有様で首を傾げているわけだ。休みの人間は居らず、大体が『応援』『郊外』『帰局不可』、確かに不届きものが集まる新月の日だと言ってもこれは何かの間違いだろう。頼みの局長を見れば『忘れた!どっかにいる!』と殴り書きされていた。あーあ。そしてもっとイレギュラーなのが最下部の空白である。局長、つまりレナトスのこれまた読みづらい殴り書きで『応援要請済!元使役魔物!』との書置だ。
     「猫の手かよ」
     「どちらかというと犬ですが…」
     「うおぉっ」
     ワースは思わず仰け反った。自分がこの部屋に入った時には居なかったはずの生き物がすぐ傍にいる。しかし、その生き物はすぐ両手、いや前足だろうか、を上に上げると「すいません」と目を閉じた。真っ黒な毛並みにきゅっとした手。本人のいう通り、犬に近い生き物だ。
     「本日応援人員として配置されました088です。ハチとお呼びください」
     「おお。頼むわ。オレのことはワースでいい」
     「いや、そんなことは。本日限りですがご主人様に尽くして…」
     「いい、いい。そういうのヤメだろ」
     「へ?」
     ワースはハチを見下ろした。握手は愚か、視線を合わせる気もないがそれはそれ。ワースもこれくらいの分別はある。
     「お前も局員だろォ。つまり、たァだの同僚だ」
     「えぇ」
     「でも指示は出すぞォ。言う事聞けよなァ」
     「えぇ?えぇ!勿論」
     ハチは大きくな尻尾をこれでもかと振る。ワースは大きな口で笑むと今日の仕事に向かったのだった。

    ***
     犬の爪音と足元だけを照らす僅かなランタン。真っ黒なローブと同色の毛色は闇夜に溶け木々の間にぬっと現れては消えていく。ハチはその鼻を上に向け、すんと鳴いた。
     「近くには居ないようですね」
     「そのまま大人しくしてくれりゃ仕事しなくて済むんだがなァ」
     目的地である国立共同墓地の鍵を開け、ワースは口を曲げた。魔力の匂いが強いのだ。月明かりのない夜だけの特別な匂い。ワースはローブを深く被るとハチを見た。
     「お前は平気かァ?魔力酔いしそうなら早めに言えよ」
     「平気です。元よりずっとここで働いていましたから」
     「へ?」
     「職員になるまではずっと此処で暮らしていました。朝も昼も夜も、ずっと此処に居たんですよ」
     「勤続は?」
     「もう思い出せないくらいでしょうか」
     「大先輩じゃねェか」
     思わずワースも頬を掻く。ハチは気にせず、どこか懐かしむように言葉を続けた。
     「いつもは四匹で墓地を見回っていたんです。私は西の担当でして一番朝になるのが遅いから仲間に文句を言ったものでした」
     「仲良かったんだなァ」
     「ええ、勿論。見回り、戦闘、見回り、戦闘を繰り返す毎日ですからね。誰かが遠吠えしたら手を貸して泣き言を言って揶揄って笑って」
     「いいじゃねェか」
     本当に良い日々だ。ワースは遠い学び舎の日々を思い浮かべた。貴族だらけのあの場所でそこまで甘えきった日々は過ごせなかったが自分たちにも似た日々はあった。敵とも仲間とも言い切れない距離感で得た日々はワースにとって未だにどこか暖かな記憶に違いない。ワースとハチは墓地の真ん中までやってきた。ここが仕事開始の場所。ワースは少しだけ考えて、それから東へと指差した。
     「今日のお前は東の担当だ。あとの三方向はオレで見る」
     「いいいや、私ももう少しイケますよ」
     「見れる範囲でいい。どうせなら頭数揃えっか」
     ワースが杖をゆるうく振る。地面から這い出た泥は驚き毛を逆立てるハチの目の前で形を変え、同じく四つ足の犬となる。毛の色こそ違うが大きさも重さも一緒。一匹がバウと鳴けば、ハチはその目を瞬かせた。赤い瞳がきらきら光り、そうして慌てたようにバウと啼き返す。しかし尻尾は大きく揺れたまま。ワースはぱちんと手を鳴らすと犬たちを四方向へと走らせた。今日も仕事が始まるのだ。

    ***
     深い夜闇の中で人々の足音が響く。ワースはそれらをきっちり泥に引きずり落とすと杖を振るった。いくら広いと言えども範囲が決まっているならばワースの魔法はいくらでも活かせる。墓から墓荒らし専用の檻へは直通ルートを敷いており、ワースにとってこんなものは朝飯前。しかしどうにも人が多い。次から次へと人が来ては「くそっ、欲を出さなきゃよォ」と恨み言を吐いて泥の中へと消えていくのだ。違和感は局のボードを見た時から感じている。
     「欲…ねぇ…」
     なんせ墓荒らしなぞする不届きものたちである。元から欲深いやつらである。呼ばれるように空を見上げて、響き渡る犬の鳴き声にワース自身もバウと鳴いた。

    ちらほら見えた墓荒らしは闇が深まる程に減っていった。それこそ一番可笑しいじゃないか、既にワースは喉を震わせることを止められない。にんまり笑ったその先で不届き者のローブが跳ねた。うっすら見えた頬には二本の痣。ワースがその姿を数えていく。ひー、ふー、みー、よっ。攻撃魔法を準備する強めのやつらから身を交わして、その他の軍勢に目を移す。ほぼ魔力無しの戦力外はスコップを持って全力疾走をしている。つまり、そいつらが実働隊かい。ワースは口端を吊り上げて、それら全てを地面に落とした。蠢く人波を一度に落とせば胃もたれもする。ハイカロリーな魔力運動は深夜と夜明けの境には不向きが過ぎる。一度胸を叩いて上を向く。十分威力の溜まった基礎攻撃魔法はしっかり射程をワースに捉えていた。

     アオーン。
     突然聞こえた遠吠えはやたらと近く、杖を持つ人間全ての目を奪っていく。濃紺の中で赤い瞳だけがやたらと鮮明に浮かび上がる。アオーンと、震える声は荒い息のノイズに垂れる涎が舌で捏ねられる音まで響き、背筋を泡立て撫でていく。その赤い目はワースにも向いていた。
     「遥か昔から思っていたのですが魔法使いはどうにも遠吠えが下手ですね」
     石畳に獣の足音がカツンカツンと広がっていく。ただ歩いているだけなのにその姿より遥かに大きい影がこの場を飲み込んでいく。
     「なのに群れるのだから不思議なものです」
     
     アオーン__… … 。
     ワースは直ぐに顔を上げた。一を泥で飲み込み、二を泥犬に向かわせる。魔力の消費を感じてハチに目を向けると綺麗なお座り姿で口を上に向けた。
     「ほら、練習ですよ」
     「ハ?」
     アオーン。三度目の遠吠えがびりびりとワースの喉を響かせる。思わず開いた口にワース自身が驚き手を当てた。遠吠えは意思疎通の手段だ。誰かを呼ぶための声だ。
     ハチは言った。昔から魔法使いは遠吠えが苦手なのだと。そりゃそうだろう。こんな敵も味方も分からない世の中で誰を呼べばいいものか。自分の醜態を晒すくらいならば無茶をしてでも一人で戦ったほうが良い。それはワースにも理解できる。共感できる。実行さえもできるだろう。
     しかし、今まさにオレらは群れていた。この場でも、魔法局という場でも。心を寄せるボスが居て、きっと彼は味方であって、醜態など気にせず寝るし笑うし忘れるのだろう。これは甘えじゃないのか。覚えてはいけないものではないのか。それでもハチは此方を見ている。呼ぶように尾を振り、その声が誘うのだ。
     開いた口腔はハチの震えと共鳴し喉はおのずと動き出した。塞き止めていた手をどければ闇しか映さぬ夜空に吠え声が走る。ァォオオン。


     「よくできました」

     その声はどこから聞こえたものか。三が此方に杖を向け、四が逃げようと走り出す。しかし、そのどちらもが地から生えた屍の手に遮られ、摘まみだされる。そうしてポイと捨てられ、その先はワースの泥の先と同じ檻である。ワースは思わず上を見る。が、そこから見えるのは空の箒が浮かぶのみ。とんと背中を押されてサングラスがずれていく。急いで片手で押さえると似合いもしない朝焼けを背ににんまり笑うレナトスが居た。
     「いい声じゃねぇか。思わず寄っちまったぜ」
     「でしょう。初めての遠吠えにしては良い吠えっぷりでした」
     「あ!お前!…あれ、なんか思い出せそう…アレなんだよ」
     ハチは黒い尾を振って目を細めて笑んだ。にっこり笑う犬は平和の象徴そのものだった。
     「さて、どの名で思い出しますかね」

    ***
     「え、で、えーと、アレ。あの…やべ、思い出せそうなんだけど」
     「資料に書いてある通り、郊外での墓荒らし騒動は国立共同墓地を狙った揺動であり、首謀者は二本痣を持つ四人組で間違いないとのことです。新月に合わせての大規模作戦。皆さんよく耐えきりました。シフトを確認して仮眠室で休んだ後、通常業務に戻ってください」
     「て、ことで。ワース、少し残れ」
     「うす」

     仕事場から戻ったワースは職員が集った一室の隅の隅で顔を伏せていた。いや、なんせ恥ずかしい。何が良い声だ。うっかりつられて吠えた声で何を言う。本当にうっかり、つられて、呼んでしまっただけだというのに。届いてしまった声は声。自分が来てほしいと思った姿が、自分の呼び声で現れた、この感情と言ったら!
     サングラスを直しながら人がはけるのを待つ。そして互いが良く見えるようになったところで努めて平静を装って向き合った。
     「いや~いい遠吠えだったわ」
     「やめてください」
     無理だった。真っ赤に染まった顔を片腕で隠してワースが俯く。レナトスは快活に笑うとそのままくわりと欠伸をした。
     「いやあ、マジでお前らが要だったわけよ。相手に気付かれちゃいけねぇし、揺動はそんじゃなくてもしっかり効いてたしな。お前なら出来ると思って配置はしたがお前ってほら、オーターと似てるところあるからよ」
     「ありません」
     「泣き言ほど飲み込んじまうだろ。しっかり喉元にあるくせに」
     「…」
     ワースはぷいと横を向く。それは都合の悪いことは聞いてないアピールをする犬のようでレナトスはまた笑うとその黒いくせ毛に手を伸ばした。
     「わ」
     ぐしゃぐしゃに掻き混ぜ整えるように梳く。そのうちに未だに顔の熱が引かないワースが上目で伺い、レナトスはその肩を叩くのだ。

     「よくやった。次も呼べよ、オレを」

     ワースは震えそうな喉元を何とか押さえるとバウと鳴いた。

    おまけ

    「ところでハチって何者だったんですか?」
    「んあ?アレだ。チャーチグリム。あの墓に最初に埋められた人間が大好きな犬さ」
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