最期は君の腕の中で声がした。
懐かしいその声に微睡んだ重い瞼を持ち上げる。
都合のいい夢を見ているのか、あるいは幻か。
かつて手を取って歩んだ道はすでに遠い過去で、袂を分かち選んだ先に彼はいなかった。
…いなかったはずなのに。
「どうしてここに…?」
二度と会わないと決めていたのだ。会えば迷ってしまうのが分かっていたから。
再会を喜ぶ言葉こそないが、何度も聞いた名を呼ぶ声が今はひどく心地よい。
別れを伝えなくては。
残った力で腕を持ち上げると、触れた瞬間に身体ごと引き寄せられ抱き締められた。鼓膜を揺らす声に胸が詰まる。
泣いているの?悲しんでいるの?僕のせいで……
「…ごめ」
言葉を続ける間もなく、抱き締める腕にグッと力が込められた。
「もういいんだ…いいんだよ…」
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