しんと静まり返った庭を見つめ、アルフェンはこれまでの道程を振り返る。それは決して容易なものではなく、今こうして穏やかな暮らしを得ようとしているのは、まさしく奇跡とも言う人もいた。
だが、奇跡という言葉で片付けるのはあまりに口惜しく、失ったものの上にあるこの喜びを得ることの難しさは当人である彼が一番に知っている。
「アルフェン、どうしたの? 眠れないの?」
夜風の中に聞こえるその声に振り返ると、そこには寝巻にストールを巻いただけのシオンが立っていた。
「ああ、少し……夜風にあたろうと思って」
近寄ってきた彼女が冷えてしまわぬように、肩を引き寄せると、「もう」という声を上げつつ、その身をこちらに預けてくれる。
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