Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    霧(きり)

    腐向けあります

    マリオ/マイイカ・crイカ中心
    ジャンルごちゃ混ぜ

    見て頂いた方、そしてリアクションを下さった方ありがとうございます。大変励みになります!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 363

    霧(きり)

    ☆quiet follow

    ワードパレットss第3弾
    キーワード:狂おしい、先約、嫉妬

    ##ss
    ##マイイカ

    パッションフルーツ ガラス一枚隔ててくぐもった雨音が、部屋を包む。カイは台所に立ち、サクと音を立てて紫色の果実に刃を入れた。

    「何切ってるんだ?」

     自室にいたキリュウが、カイの居る場所にひょっこりと顔を出した。

    「パッションフルーツだって」
    「なんか、名前は聞いたことある」
    「オレも食べたことはないな〜」

     果実を半分ではなく、ヘタに近い部分を切ってそのまま小さな皿に盛り付けた。

    「はい、スプーンと持っていって」
    「さんきゅ。これスプーンで食べんの?」
    「そう聞いたよ」

     カイは自分の分も用意すると、ダイニングテーブルに向かう。彼が席につくと、テーブルを拭いて待っていたキリュウが話しかける。

    「んで、これどうしたんだ」
    「昨日のバトル、モズク農園だったって言っただろ? バトル終わりに知り合いに会ったんだ」

     ふわりと芳醇で甘い香りが漂う。「種ごと食べられるってよ」と教えて、カイは種ごと実を掬った。

    「まだ試作段階だから売れないけど、食べてみてくれって。感想が欲しいんだってさ」

     そこまで説明すると、大きく口を開けて一口。完熟には至っていない実は、酸味が少なく爽やかな甘さだった。種はつるつるしてのどごしが良い。初めての味を感じつつ飲み込む。顔をあげれば、向かいの彼はおそるおそるというように、少しの量を口に入れたところであった。ゆっくり咀嚼し、のどを上下させた。

    「どう?」
    「ん……慣れない甘さ」
    「つるんって食べられたよな!」
    「うん、ちょっと面白い」

     カイが感想を求めれば、率直に返ってくる。さして大きくない実の中身はあっという間に胃に吸い込まれる。しかし、カイが食べ終わったころ、向かいの彼の分はまだ半分ほど残っていた。彼の一口は小さく、飲み込むのにもゆっくり時間をかけるたちなのだった。
     まだ時間がかかりそうだと判断し、先に使ったものを洗ってしまおうかと席を立つ。カイの意図を察した彼は「置いといて」と声をかけた。

    「ああ、ありがと。頼んだ」
    「ん」

     彼はまた一口、目を伏せて口に運ぶ。そんな量で味がわかるのだろうか、とカイは思った。お言葉に甘えて片付けは彼に任せることにする。カイはイカホを手に取って、明日の天気を確認する。夜中の内に雨は上がり、明日は一日晴れの予報だ。よし、と内心頷いて、そのままナワバリバトルのステージ表のページを開く。
     ガチマッチに行きたい。できればホコが良い。そんな思いの元、ページをスクロールする。ぴたりとその指が止まった。午後三時、ガチホコ、どちらも得意なステージだった。ただし、ガチマッチではなくリーグマッチである。
     きりゅーに頼めば行けるかな。
     明日は彼にも予定は入っていないはずだ。何かあれば言ってくれるし、バトル関係ならばカイも一緒に誘われることがほとんどである。
     ぱっと顔を上げる。向かいの彼はいつの間にか食べ終わっていたようで、カイが脇に寄せていた食器を自分の分と重ねて台所に立った。声をかけようと開いた口はただ、は、と息をついた。誘うのは後でも良いか、とイカホをスリープさせる。目は台所の彼をぼんやりと追っていた。
     彼がちょうどスポンジを置いて、食器をすすぎ始めた時だ。手に持ったままのイカホが震えて音を鳴らす。テーブルに置かれた彼のイカホも視界の端でちかちかと光っていた。手元の画面を確認すると、メッセージを受け取ったと通知が表示される。二人とも入っているグループからだった。

    『明日クラスメイトとバトル行くんすけど、みんなも来ませんか!』

     通知欄からメッセージを読む。文字を追うカイの指がぴく、と動いた。

    『きーさんと同じブキを使うやつもいるんで来てほしいです』

     ちらりと彼を見る。タオルで手を拭いた彼は、自分のイカホが光っていることに気がついてこちらにやってくる。目が合ったカイは自然と口を開いていた。

    「コウからバトルのお誘いだよ」
    「いつ」
    「明日だって」

     ふうん、と生返事をよこし、彼はイカホに目をやった。
     ……先越されたな。明日は空いてるし断る理由はない。同じブキのヤツがいるなんて言われたら、尚更だ。……ああほら、目が輝いてる。
     羨ましい、とカイは思った。先約ができてしまえば、責任感の強い彼を後から誘うのは難しい。でも、今更ほかの人を誘うのも嫌だった。
     再びイカホが震える。

    『時間は決まってる?』

     キリュウからである。当の本人を見ると、その指は文字を打つと言うよりも何かをスクロールしているように見えた。
     すぐに返信が返ってくる。

    『決まってないです! どうしようか話してるところです』

     コウのことだ、一日中バトルをするなんてことも十分有り得る。

    「カイ」

     名前を呼ばれて、顔を上げる。

    「ん? 明日何時から行く?」
     
     当然、誘いに乗る話だと思って問いかける。

    「それも行くけど……リグマ行かないか?」

     3時からの、と彼は続ける。へ、とカイは気の抜けた声を漏らした。

    「好きだろ、その時間のステージ」
    「え、でも、ナワバリは」
    「あいつ、知り合い多いから合流できるかわからないし。俺たちが抜けたところで問題ないだろ。最悪何試合かできれば十分」

     彼は淡々と理由を連ねた。で、と小首を傾げる。

    「どう?」
    「……行きたい、リグマ」
    「うん、じゃあ返信しとく」

     彼はわずかに頬をゆるめてイカホに目を落とす。カイはふいと顔を逸らした。

    「ずるい」
    「なんか言った?」
    「ううん、なんにも」

     こういうところだけは、酷く鋭いのだ、彼は。きっとリーグマッチに行きたいと思っていたことを見越して誘ったのだろう。そうやって見透かすようなことをするくせに、その底にある気持ちには気づかない。
     羨ましい、ずるい、とそう思っていることを。……嫉妬していることを。
     自分が恐ろしかった。そんな感情を抱く権利など、自分にありはしないというのに。それなのに、この気持ちは狂おしいほどに心を突き動かすのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works