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    霧(きり)

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    マリオ/マイイカ・crイカ中心
    ジャンルごちゃ混ぜ

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    霧(きり)

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    ワードパレットよりマイイカ短編第四弾(リプ頂いた分は終わり)
    キーワードは「とめて」、コーダ、ロマンチスト
    前作パッションフルーツより設定を引き継いでいます。読んでなくても支障はありません

    ##マイイカ
    ##ss

    不機嫌なマカロン 暦の上では秋になったという知らせを聞いた朝。昨日は夜まで雨が降っていたこともあり、多少は涼しいだろうと思っていたが、日が高くなった頃いざ外へ出れば、日差しは強くどう考えても夏のそれでしかない。ピクセルアートのイカマークが縫われたキャップを深く被り直し、日陰からステージを見下ろす。背後を学生が颯爽と通り、生ぬるい風がキリュウの袖口を揺らした。
     今日は、フレンドのコウにナワバリ誘われていた。リーグマッチの時間までなら、とそれを承諾して、ここ海女美術大学に来ている。ナワバリバトルのステージとして一部を解放すると共に、その周辺も見学場所として自由に入ることができるのである。キリュウは合流する前に見学をすることが多く、今もコウと、幼なじみのサキが参加するバトルを眺めているところであった。
    「お前は行かなくて良かったのか?」
     キリュウはちらりと横を見る。問われたカイはその視線を横目で受け流した。
    「うん」
     共に家を出てここまで来た相手は、いつもならば進んでバトルに参加するのだが、今日はどこか気だるげな雰囲気すら漂わせて、手すりにもたれかかっていた。
    「この後行けんの?」
    「なんで? 行けるよ」
    「いや……無理はするなよ」
    「大丈夫だって」
     彼はにっこりと笑う。でも、どこかぎこちない。昨日から、カイの様子がどこかおかしいと思っていた。俺は何ともないけど、貰ってきた果物が中ったのか、などと推測してみる。真意を探るようにじっと彼を見てみるものの、見向きもされない。物憂げな視線はずっと前を向いたまま。諦めたキリュウはステージの方に視線を戻す。
     タイミングよくバトルの参加者がスタート地点に顔を出したところだった。サキとコウは揃ってアルファチームにいる。ジェットスイーパー、カーボンローラー、それに黒ザップとスプラスピナーというバランスの取れた編成である。対してブラボーチームも偏りのない編成と言えるだろう。スパッタリーのヒューにデュアルスイーパー、ヴァリアブルローラー(フォイルの方かもしれない)、そしてわかばシューターと、アルファよりもおそらく塗りに強い。この中にコウのフレンドらしきヒト達は見られなかった。遅れてくるのかもしれない。
    (サキくんが中央まで出られたら大きいだろうな。チャージャーも居ないし二人とも動きやすそうだ。)
     唇を尖らせながら、そう分析していく。ブキ構成からあれこれと思考を巡らせるのは、キリュウの癖である。
     八人がブキを構える。スタートの合図で一斉に動き出した。ステージいっぱいにロック調の音楽が流れ始める。あくまでも学び舎だというのに、勉強の邪魔になりそうなものをあんな大音量で流すのはどうなのかと思ったが、この場をバトルステージにしている時点で変わらないか、とキリュウは内心苦笑する。コウが縦振りを使い一直線に中央へ走っていく。後を追いかけるようにスプラスピナーも最低限の塗りで中央に降りた。サキと黒ザップは自陣を塗っている。ブラボー側は揃って自陣を塗っており、ゆっくりとした前線の上げ方だ。
     コウは敵陣まで突っ込むかと思われたが、中央でバシャバシャとローラーを振っている。移動時、ボムを使わないのだろうと思っていたが、彼がスペシャルを発動させたことで謎が解ける。彼の前にアメが降り始めたのだ。コウは大抵カーボンローラーデコの方を使うのだが、なぜだか今日は無印カーボンを持ってきていた。彼のことだ、単にそういう気分だったのだろう。ボムもクイックではなくロボットというわけだ。クイックボムならば、地面に投げつけ移動に使えるが、ロボットボムではそうはいかない。
     アメを投げたコウは、1度潜伏を挟んだようだ。おそらく、敵陣近くの角のあたりに潜んでいるだろう。味方のスペシャルに合わせて敵陣に入り込みたかったのだろうが、双方のマルチミサイルが発射され、コウもしっかり捉えられていた。ここで粘らず一度下がるようになったあたり、落ち着きが見える。
     スタートから四十五秒ほど経った頃、中央を下として、一段よりもうひとつ上がったところ……敵が入り込むには壁を登らなければならない段までは粗方塗られた。この時間になれば、遠距離型のスペシャルを皆が一度は使い、自陣を塗っていたヒトも含め八人が中央に集まってくる。ここからは対面も増えてくる。
     スパッタリーがアメを投げ中央に降りた。その正面にはスプラスピナーが待ち構える。まだ互いの射程範囲内ではないが、確実に見合っている。このままではスパッタリーが明らかに不利だが、どうするかと見ていれば、後ろからデュアルがカバーに入ってきた。一対二、射程も負けているという不利な状況にもかかわらず、スプラスピナーはヒト型のままアメを避け粘った。アルファ側から見て、中央のブロックの左側にいるスピナー。逃げないことを察したデュアルとスパッタリーが、左右から挟むように距離を詰める。と、更にその後ろからもう一人が顔を出した。コウだ。彼から距離の近かったデュアルの背後にローラーを振り下ろす。一撃とはいかなかったが、デュアルは相当なダメージを負ったことだろう。それに何より、突然現れたカーボンに、スパッタリーもそちらを振り返る。その隙を見逃さなかったスプラスピナーが素早くスパッタリーを倒し、コウもまた反応が遅れたデュアルに二振り目を当て、ブラボーは二落ちとなった。
     見事な連携にキリュウは思わず息をついた。あのコウが、知らないヒトと協力できるようになるとはなぁ、と兄のように親のように感心していた。

     そうして人数有利になったアルファチームが中央を陣取り、ブラボーを抑えている間に残り一分を切った。BGMが、すっかり聞き慣れたあの曲に切り替わった。
     ――バトルってなんだか、ひとつの音楽みたいだなって思うんだ。
     ふと、幼なじみのそんな言葉を思い出した。確かあれは、まだシティにいた頃のことだ。幼なじみと、そして彼の後輩となったフレンドがだいぶ馴染んできた頃。幼なじみに笑顔が増えてきた頃。
     ――音楽なら、確かに流れてるけど……終わり一分は違う曲だろ?
     ――うん。それも含めて、ひとつの曲みたいだなって思ったんだ。
     最初の二分はバトル毎に違う曲が流れる。でもそれは、主旋律じゃなくて伴奏みたいなもの。主旋律はブキの音だ。ほら、君なら分かるでしょう。ブキごとに音が違う。楽器によって音色が違うみたいに。ブキによっては、パーカッションって言った方がいいかな。副旋律は、そうだね、イカたちの足音とか、声とか……ふふ、主旋律と副旋律はどっちでもいいかも。それでね、終わり一分は必ず同じ曲になるでしょう? あれってまさしく、コーダ終局部だと思うんだ。主題とは違う伴奏、そして主旋律だって変わってくる。バトルの度に、音楽が生まれるんだ……なんてね。……僕さ、ほんとに余裕なかったでしょう。

     ――背後で流れる曲なんて、今まで気にしたこと無かったんだ。

     締めくくるようにそう微笑んだ幼なじみを、キリュウはハッキリと脳内に浮かべた。サキは時折詩的な世界観を見せることがある。親からの幅広い教育や、趣味の読書によって広げられたであろうその世界観を覗き見るのが、キリュウは好きだった。自分の知見も広げてくれるような気がするし、何より、そういう話をする時のサキはいつも穏やかに笑っているから。
    「コウのやつ、突っ込む気かな」
     カイの声に、意識が引き戻される。残り三十秒を切ったところであった。ステージを見ると、二色の雲が上空に浮かびアメを降らせているところであった。コウは自身の生み出した雲に合わせるように一人、前に躍り出た。向かう先にはパッと見ただけで敵が三人は居る。なるほど、カイが心配するのも当然である。サキは中央のブロック後ろに居るし、黒ザップやスプラスピナーも引き気味だ。カバーに入れるか微妙なところであり、それはすなわち完全な一対三状況を生み出しかねないということ。調子が良い故に前に出すぎることはままある。今のコウはたぶんそれだ。前半、いつにも増して動きが軽快であった。
     サキもそのことに気がついたのだろう。カバーに入るためかブロックの上に登った。そして、なぜか惚けたように固まった。一番目立つところに居るのに、その油断を見逃してくれるはずもない。陣地にこもっていたヴァリアブルが中央に飛び降り、その勢いのままサキにローラーを振り上げる。しっかりとインクを浴びたサキはそのままスタート地点に戻された。
    「あれっ、サキがやられてる。珍しい」
     そのつぶやきに「だな」と短く返す。後衛を失ったことがきっかけとなり、突っ込みすぎたコウもやられてしまう。残り十五秒で二対四は正直、まずい。あっという間に塗り返され、終了のホイッスルが鳴り響く。
     結果、ずっと優位に立っていたはずのアルファチームは逆転負け。試合の結果は致し方ないし観戦者がどうこう言うことではない。それよりも、サキの様子が気になった。
    「二人のところ行くか」
    「そうだね。コウに言ってやらなきゃ。あんな終わりもったいない!」
     意気込む彼はもういつもの顔になっていた。バトルを見ているうちに、少しは気が晴れたのか。だったら良い、とキリュウも少し眉を下げた。
     そうやって余所見をしながら身を翻したのが悪かったのだろう。ドン、と音を立てて誰かとぶつかった。相手の方はわっと控えめな声を上げて尻もちをついてしまう。
    「すみません。お怪我はありませんか」
     キリュウは珍しく焦った様子でぶつかった相手の傍にしゃがみ込む。黒いカンカン帽から緑色のウェーブを垂らした彼女は、手を借りることなく勢い良く立ち上がる。
    「だっ、大丈夫です! こちらこそすみませんでした」
     彼女の腕から一枚の紙が舞い落ちる。
    「あっ、ちょっとっ……!」
     それを拾っている間に、足早に去ってしまった。黒のロングジャケットに青いスリッポンを履いた彼女は、大きなトートバックを抱えて走っていく。ここの学生なのだろうか。
    「もー、きりゅーったら何やってるの」
     それでも大丈夫? 尋ねる彼は、心配を目元に滲ませている。
    「俺は何ともないけど……」
    「荷物も散らばってなかったし、怪我をした感じもなかったから、大丈夫だと思うよ」
     カイはしょうがないなあと言うように笑って、先を歩いた。返すことが叶わなかった紙は、丁寧に折られキリュウのポケットに仕舞われた。
     二人がステージにつくと、サキとコウはまだ残って話しているところだった。
    「せんぱい、気づいてたならとめてくださいよぉ!」
    「いや、うん、確かに最後のはちょっと無茶だったとは思うけど、助けに入れる距離だと思ったから……ごめんね?」
    「せんぱいが謝らないでください」
    「えっ」
    「そうそう、コウが突っ込みすぎだよ」
    「カイくん……」
    「カイだ! きーさんも!」
    「よう。次からバトル入るな」
    「やったー!」
    「その前に反省会だぞコウ!」
    「うぃっす」

     すっかりいつもの調子になったカイは、そのままコウを引きずっていく。ローラー同士分かり合える部分が多いのか、カイとコウはこうしてバトル後によく二人で反省会を開いている。

    「ふたりとも観戦に来てくれてたんだね」
     残されたサキとキリュウも目を合わせ、自然に話し始めた。
    「うん。……なあサキくん、最後の方、ちょうどコウが突っ込んでく時さ、固まってたけどどうしたの」
    「あ、ああ……」
     目を泳がせ、サイドに垂らしたゲソで口元を覆う。
    「……その、見とれてしまって」
    「みとれ……?」
    「あはは、うん。あの時ふたつアメが降ってたの、見えた? それが、すごく綺麗で。太陽の光を反射して、インクが輝いて見えたんだ」
     柔らかな笑み。好きな笑い方だ。釣られるようにキリュウも目を細める。
    「サキくんはロマンチストだな」
    「うえっ」
    「そんな顔しないで。褒めてる」
    「うう……」
     俯き、サキはまたゲソで顔を隠そうとする。その様子に、悪戯心がむくむくと湧き上がるが、背中に衝撃を感じて、行動に移すことは叶わなかった。目だけで後ろを見れば、なぜかむっとした顔がそこにある。
    「カイ、重いぞ」
    「甘いもの食べたい」
    「はぁ? 唐突だな」
    「きりゅー、何が良いと思う?」
    「なんで俺に聞くんだよ」
    「甘いものー」
     キリュウの肩に顎をのせ、ぐりぐりと体重をかけてくる。キリュウはその意図が読めず、ため息をついた。
    「……マカロンとか」
    「マカロン ……ってお菓子なんすか?」
    「お菓子だよ。そうだな、なんて言えば良いか……」
     サキとコウが漫才のようなやりとりを始めると、カイはふっと表情を緩め、ようやくキリュウを解放した。よくそんな洒落たもの知ってたな、なんて余計な一言をつけて。それにうっせと返しつつ、ポケットに手を入れ、四つに折られた紙に触れた。
     それは、とある洋菓子屋のチラシだったのだ。これも何かの縁、帰りに行くか、とキリュウは今日の予定を変えることにした。
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