「あいちゃんの、意気地無し」
ぽつりと呟かれたその言葉が耳に届いた頃、視界に広がっていたのは一面の天井と、それを背にして俺を見下ろす御坂の姿。それから自分の背中が床についているのに気づくまでたっぷり数秒使って、ようやく口から出せた言葉は御坂の名前だった。
「……なに、何してんの、」
何を問いかけても返ってくるのは無音ばかりで、顔の横に置かれた手を退けようとしてもぴくりとも動かせない。ぱちぱちと繰り返されるまばたきが、目元に落ちる長い影を揺らしている。
そういえばこんな至近距離で御坂の顔を見たことなんて一度も無かったのではと記憶をたどる。横顔ならいくらでも思い出せるのにこと正面となると靄がかかったようになってしまうのは、いつからだったか胸のうちに燻るなにかに気づいて以来、直視をすることが難しくなっていったせいだろうか。
「ひーくんは、どうしたいの」
押し倒されてしまってはいつものように髪で表情を隠すこともかなわない。できることといったら、今の自分が見られてもいい目をしていることを信じて平静を装った声を出すことぐらいで。