ごはんを食べようその15少し弾力のあるふわふわしたマグカップケーキは以前作った蒸しパンにも似ている。
甘い味がふわりと口に広がって、少ししてココアの苦味が追いかけてきた。後味はまた甘く戻り、ちょうどいい甘さと苦味のバランスにほんのりと笑顔になる。
五分程度で作ったにしては充分美味しい、いい出来だった。
「イソップくん、美味しい?」
「はい」
「私のと一口交換しない?」
「最初からそのつもりだったでしょ」
「ふふ、バレた?」
ココア味のマグカップケーキを一口切り分けてイライのマグカップに……と思ったところで、イソップは差し出されたフォークに気付いた。
フォークの先端にはノーマルな味のマグカップケーキが一口分、刺さっている。
「イソップくん?」
「あ、あの……その、」
イソップの顔に熱が集まる。きっとイライに他意はない。洗い物が増えるとか、手間が増えるとかそういう理由のはずだ。
イソップはイライを好きで、愛しているけれど、恋人ではないので食べ物を手ずから食べさせ合うような、まるで給餌行動のようなことを「そう」と自覚してすることはない。
「勘違い、しそうになるから、やめて……」
しどろもどろになりながらそう言うと、イライは目をゆっくりと瞬いた。
少し厚い唇から目が離せない。
激しくなる心臓の音が苦しいとさえ思った。
ハンターの心音ですらこんなに激しいことはないだろう。
「勘違い、してほしくてしてるって言ったら……?」
「え」
イライの、群青の目がゆるりと細まる。
戸惑うイソップに、イライがフォークを差し出してくる。これは、口を開けないと引き下がりそうにない。そういう雰囲気だった。