「おはよう、旦那様。朝ごはん出来てるから顔洗ってきてね」
「おはよう、お嫁」
隔離と称してお嫁こと玄天狗の山に連れてこられた。ずっと溜め込みすぎで爆発した俺の処置、ということらしい。この山は地味に設備が整ってるので通信機器が使える。だから兄ちゃんやねーちゃん、 幸ちゃんやユキや色んな人達に写真やらを送ることが出来た。もちろん情報もホームからやってくる。…正直、俺だけこんなにのんびりしていていいのだろうか。
「また悩んでる」
ぷく、と頬を膨らませる玄に慌ててスマホを閉じた。
「今日は先生が来るんだからね!」
「え、昨日言ってなかったじゃん!」
「言ったら逃げるでしょ」
「当たり前…」
「ハァイカレー屋ァ」
「ぎゃぁぁせんせっ」
せんせに死ぬほど遊ばれたあと、満足したのか勝手に居なくなっていた。開けた場所で放置されているので、そのままゆっくりと思考する。
(…起きたことと、感情は別にする。まだ難しいや。とりあえず、俺がこの療養が終わってしたいことをあげてこう。まず、みんなに心配させたことを謝りにいかなきゃ)
そよそよと風に髪が揺れる。植物達のかさかさと揺らぐ音が、ゆっくりゆっくり染み込んでいく。
(…あいつらに弥夜のことも謝らないといけないよな。大事にするって預かったのに、あんなことになったから。監督責任として謝罪しないと。きっと怒って…あぁこれはまた勝手な予想してるな)
ふう、と息を吐き気持ちを切り替えようとする。いつの間にかたぬき達が集まっていた。なんだどうした、と集まっては話しかけてくる。
「いつもの考えをまとめてる」
そう答えればまたか?大丈夫なのか?ともふもふ集まられた。大丈夫、少しだけまとめたらやめるからと返して思考し直す。
(…ずっと心に引っかかる)
着払いで送られた箱。せんせかと思ったがすぐに違うとわかった。中身には見覚えがあった。
(なんで、俺にも?)
欠片を見つめる。返事は無いし、そもそも聞こえてるかすらわからない。
話していたあの時は必死になってわからなくなっていた。なぜ必死になったのかと考えた。
「はっきり信用出来ないと言われたのが怖かったんだ」
俺は、誰かの肯定が欲しかった。してくれる友達も恋人も居るのに。全てが全て肯定される訳じゃないのに。俺は人の心なんて読めない。だからわからなくて、とても怖かった。怖くて、パニックになってしまった。
「…全部、もう遅い。のかな」
本当はゆっくりと、時間をかけて認めてもらうつもりだったのに。俺が俺である限り、あそこにいる限りきっと信じてはくれないんだろうけど。またこれも自分の勝手な考えだけど。どうしてもこの思考のくせは治らない。こればっかりは認めてくれないかな。俺はこういうやつだってこと。
「ちょっとだって変われなどしないよ」
努力して改善しようとしてるんだ、これでも。そういって、信じてくれるだろうか。
「ちょっと、でも」
ほんの一歩、半歩かもしれない。
「変わってるはずなんだ」
時間切れなのかなんなのか、たぬき達に一斉に運ばれる。欠片は落とさないように、フードのポケットにしまった。
俺は誰かを助けたかった。今もそう思っている。助けられてばっかりだから、ずっと背を見てばっかりだから。せめて、並んでいられるように。
「大丈夫、まだ歩けるはずだ」
こうして生きている。データだけど、生きている。まだ失ったものに目がいっちゃうけど。まだ上手く立ち直れないし、たまに歩けないけど。
「もう少し、頑張ってみるよ」
立ち上がるから、それまで休んだっていいだろう?
…その夜、渡していたキッズケータイの緊急呼び出しで飛ばされることになるとは思わなかったが。