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    あおい

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    あおい

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    ファウストと賢者ちゃん♂
    脳内整理メモ

    ##まほやく

    信じられなかった。
    まさかこんなことをするわけがない、きっと敵を欺く演技なのだ、そういう思いが心のどこかにあったんだろう。
    僕は本当に火をつけられるまで動けなかった。いや、火をつけられても動けなかった。
    やがて足元をなめる炎の熱が、僕に友の裏切りを認めさせる。
    だがその時にはもう手遅れで、千々に乱れた心は魔法を形作れなかった。
    燃える、視界が煙と陽炎でにじむ。
    あっという間に全部熱くなった。
    特に頭が熱い、痛い、喉が燃えて息ができない、くっつく、ああ!助けてくれ!
    何も見えない、でもこの炎はずっと信じていた彼が、彼が僕を燃やしているのだ。
    周りの様子は分からない。
    僕は苦痛と恐怖と憎悪とごちゃごちゃの恐慌の中で何を叫んだだろう。声は出ていたのだろうか。
    ただ苦しくて苦しくて訳が分からなくて、熱くて、こうなっても信じられない、なんて馬鹿なことを思って、喚き散らしていたような気がする。なんと言ったかもう判断ができなかったけれど。ともかく僕は最後まで愚かだった。

    魔法使いは人間より長く生きる。
    その途中、たくさんの記憶を捨てながら、だからこそ大切な記憶は捨てないよう、忘れないようにと努めて心に焼き付ける。
    僕は絶対に、今日の全てを死ぬまで忘れられない。
    早く消してしまいたいと、これから何度迷うんだろう。
    ひとりで死ぬ勇気が出るだろうか。
    すべてを殺す勇気が出るだろうか。
    あるわけがないそんなもの、こんな僕に。


    裏切られて、殺されかけて。
    一体どんな気持ちだったんだろう。
    その出来事から今までの長い間、彼はどんな気持ちを覚え、どんな気持ちを捨てて、一人で谷にこもり、仲間をかばい、人間も含めた世界のために戦ってきたんだろう。
    理解できるわけがない、そんなつもりになってはいけない。
    ただどうしても涙が止まらなくて、どんどん溢れて、いろいろな感情がぐちゃぐちゃで、そしてやっぱり申し訳がなかった。
    酒場でシャイロックの話を聞いたときと同じだ。
    「顔が汚い、どれだけ泣くんだ」
    話しながら、どんどん崩れる俺の顔に困った表情を浮かべていたファウストが、呆れ声で言った。
    「ごめ、なさ、ヒッ…うっ、うっ……うう〜〜〜」
    言いたいことが全部嗚咽に巻き込まれて消える。
    違うんですファウスト。
    「ひぐっ、うっ、違っ、ぅううぅ」
    「はいはい」
    顔に柔らかいタオルがグイグイ押し付けられる。
    もうそのふかふかさで泣ける。
    「ううう〜〜、ぅえぇ〜〜〜」
    涙でよく見えなかったけど、咽び泣く俺を見てファウストは笑っているようだった。
    その気配に少しだけほっとしながら俺は更に泣いた。
    ファウストはもう何も言わず、ずっと隣りに座ってくれていた。
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