睡眠不足 伊藤は最近眠れていない。それが季節の変わり目のせいなのか、喧嘩が増えた日々のストレスからなのかはわからない。
校舎の屋上で、春の生温い空気にあたりながら校庭をぼーっと眺める。睡眠不足で重たい瞼のせいか、普段より薄ぼんやりと見える校庭には下校時刻を迎えた生徒達がわらわらと各々目的の方向へ流れていく。騒がしく下校する者、楽器やスポーツ用品を抱えている者が見えた。
その中で、一際目を引く頭をした人物が三橋だ。茜色になった空から降り注いだ陽光をちらちらと反射させた三橋の金色の髪は周りの暗い髪色の中でよく目立っている。どうやら三橋はこちらに気がついているようで、今から屋上に行く、といったジェスチャーを俺に向けているらしい。
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