獅子王司は浮かれていた。
もちろん物理的なものではなく、精神的に浮かれていた。
と言うのも、先日彼は兼ねてから『友達になりたい……!』と思っていた相手、千空と親密な関係になることが出来た。千空の方から『友達からとりあえず始めようや』と言われたのである。
司は旧世界で友達がいたことがない。その為司は自分にとって始めての友達、それも相手が自分が心から尊敬する男千空なのだ。そりゃもう嬉しくてたまらない。
どれくらい嬉しいかと言うと、ついペルセウス号での鍛錬の最中、勢い余って戦闘員五人を一人でのし倒してしまうほどだ。控えめに言っていい迷惑である。
「司殿は流石、素晴らしい武人でござる」
「ありがとう、松風もいい動きになっていたと思うよ」
「なんだか今日の司殿は、いつもよりも晴れやかなお顔ですね」
そりゃもう、誰が見ても分かる程ニコニコである。氷月が若干引く程に。そんな氷月と司をキョロキョロと目で追っているモズは、何の気無しに司に寄った。
「ん〜、司さぁ、なんかお楽しみの予定でもあるんでしょ? 可愛い子との」
モズは長年宝島で『強い男は可愛い女の子を選び放題好きにできる』という文化で育まれた人間だ。この船でフィジカルが一番強いのは、間違いなくこの男、司であると気付いている。その為『自分は今後その子には近付かないから』と探りを入れる為に、そんな事を聞いてみたのだ。
だが、司はポッと顔を赤くする。
「おた、かわ、え、えへへ、無いよ無い、うん」
ポポポポッと花でも咲きそうな勢いで赤くなった。ちなみにモズの指摘は図星で、今夜は千空と甲板で会おうという約束をしている。
そんな有頂天の司の様子に、もうこれ絶対彼女いるよね?! とモズ、それに松風は思った。しかし、背後で氷月が鼻で笑う。
「モズ君、その男に限ってそんな事はあり得ませんよ」
どうみてもこの反応は違うでしょ、とモズは目線で師匠に質問を投げた。だが、氷月は目線を空に浮かぶ太陽にぼーっと伸ばしながら、頭に浮かんだ言葉を選ぶ。
「プライベート空間のないこんな船なんですから。隠れての逢瀬だとか、手を繋ぐだとか、見られでもしてみなさい。気まずいじゃ済みませんよ。その程度はちゃんとしてるのが獅子王司という男です」
「ん……うん、そうだよ。うん……うん……」
氷月のコメントで、司が一気にしょんぼりしていったのをモズと松風は感じていた。
——んん〜これって、夜とかに星見ながらカクテル? 飲んだりしたかったやつなんじゃないの? 今絶賛相手を落としてる途中とかでさぁ。
——船の中で色恋に司殿が現を抜かすとは思えない、だが男は守るものを持つと強くなる……しかし……!
悩んだ末モズは助け舟を出すことにした。自分もチャンスがあれば可愛い子とお近づきになりたいのだ、前例を作るのは悪手ではない。
「ん〜、アメリカ行ったらさ、聞く話だと珍しくケダモノとかもいるって話だし、情報交換とかは大事だと思うけどね。司はアメリカに行ったこともあるんでしょ」
「あるよ、何度か。全てとはいかないけれど、予想できる事は俺にもある」
「……まぁ、それはそうでしょうね。千空君なら特に、向こうの環境について少しは予想もしているでしょう」
「うん、それは重要な情報交換だね。時間を見つけて千空と話しておくよ」
司の目に精気が戻ってきたのを、モズと松風は少しホッとした顔で見守っていた。彼の顔には『二人でロマンチックに星の下でお話して、相手の好きなところとか教え合って、千空がカクテル飲んでる唇見たりして♡』と今夜のお楽しみが顔から溢れている。
「それじゃあみんな、トレーニング再開するよ」
なんだか今日はいつも以上に勝てる気がしない。その場にいた戦闘員たちは全員そんな事を思うと共に。
——司……お相手千空かぁ……。
とヌルリとバレたりもしたりした。