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    twst/シュラウド兄弟
    オルトがグリムとイデアについて考えるだけ。
    兄弟への独占欲の話。6章後だけど時系列ぐちゃぐちゃ。

    ネコと和解セヨ管理者登録されている生体反応を感知し、オルトは中庭を見下ろした。青い炎が地面を這うようにして燃えている。背を向ける彼はこちらに気づく様子はない。
    こうして兄が日中生身で校舎に出没するのはかなり低い確率である。しかしある特定の条件下においてはその限りではない。
    ここ最近の行動パターンを瞬時に反芻。屈んだ状態のまま手を伸ばしているその先の生体反応はスキャンするまでもない。
    「あ、イデアサンと…グリムクン?」
    いつの間にかオルトは浮遊したまま停止していた。それに気がついた二人が廊下を引き返してきていた。
    「ごめんね!エペル・フェルミエさん、ジャック・ハウルさん」
    オルトが編入したC組は二人の在籍するD組との合同授業が多く、普段から交流のあるこの面子で組む流れができていた。昼休みはさらにA組の騒がしい4人組や巻き込まれたセベクも加わり何かと賑やかに交流している。
    「次の魔法薬学、材料の準備が面倒だ。さっさと行くぞ」
    「うん!」
    「声掛けなくてよかったの?」
    背も歩幅も大きいジャックのふわふわな尻尾になんとなく視線を向けていると、エペルがこちらを気遣う。
    「いいんだ。あのタイミングで僕が声を掛けると成功率が低下しちゃう」
    「イデアサンはなにかの実験でもしてるの?」「ある意味ながーい実験かも」
    オルトの優秀な集音マイクには本日もグリムに逃げられてしまった製造主の悲痛な声が届いていた。
    △▽△▽△▽
    「グリム氏のあのおなか…一度おもいっきりモフらせて頂きたいものですな〜」
    学園に戻ってきてからというもの兄はグリムにご執心だ。正確には彼の毛並みにと言うべきか。
    S.T.Y.Xが被検体収容の際に(双方)派手に暴れた結果、オンボロ寮は名実共に壊滅状態となった。彼らの寮を修復した後、これで合法的にモフりにいける!と天井に向かってガッツポーズをしたのをオルトは目撃している。
    あの一風変わった魔獣の何が兄を惹きつけるのだろう。嘆きの島で行った検査結果によると被検体Fことグリムには様々な魔法が重ね掛されていることが明らかになった。最先端の技術が詰まったS.T.Y.Xの設備による解析でも未だその全貌は不明だ。
    イデアはそんな厄介な事情は一先置いて、愛玩動物としての側面だけに目を向けることにしたのだろうか。
    学園内には魔法史担当教諭のモーゼス・トレインの使い魔ルチウスや野良猫も存在している。兄と一緒にそれらの猫たちを探して撫でに行ったこともある。その時のメモリーを踏まえると、兄のグリムへの態度は猫に対するものとあまり差異が無いように思えた。人語を解し知能を有するとはいえ所詮魔獣、ちょっと大きなネコチャンということなのだろうか。グリムは一生徒か魔獣かについては兄だけでなくNRCの生徒たちの間でも扱いが分かれる印象なのでなんとも言えないところだ。イデア曰く"オタクは大体猫好きだから"らしいが。
    あるいは動物に対する知的好奇心が刺激されているのかもしれない。生まれ育った場所では動物は実物を見ることも叶わない。なるべく地上に近い環境を再現しているとはいえ、猫や犬といった多くの人にとっては身近な生き物もあの箱庭ではスクリーン越しに見る絵空事だった。
    実際、彼は動物を愛玩の対象よりも観察対象として見ている場面もある。冬にエペルに連れられ観光した豊作村でも生物に触れる機会があったようだ。山で出会った鹿やアライグマ等の動物や寒冷地に生息する虫について楽しげに話す兄の顔をメモリーに記録している。
    △▽△▽△▽
    放課後、学園裏の森で美食研究会活動中のオンボロ寮コンビに出くわした。ここには食べられる雑草はあまり分布していないようだが、グリム曰くそれを探し出し実食するのがこの同好会の主な活動内容らしい。監督生はお目付け役だろうか。丁度良い機会なのでオルトは兄についての印象を尋ねる。
    「イデアのヤツ、笑いながら近づいてくるからこえーんだゾ」
    半目になって文句を言うグリムに監督生が苦笑いする。夜中の校舎で出くわした際の笑顔がすっかり恐怖の対象として刷り込まれてしまったようだ。暗闇の中燃える頭髪、徹夜明けで充血した瞳、トラバサミのような歯の三点セットを見せられては流石のグリムも敗走待った無しである。あの時は学園中に怪談紛いの妙な噂が流れ、オルトは兄に授業以外での実験着着用禁止を言い渡したのだった。ずぼらな所があるから説得するのは大変だったなぁとやや遠い目で振り返る。
    「でもオレ様は天才だからイデアなんか怖くねぇんだゾ。あいつ、何でか知らねえけどケイトと一緒にいるときは寄って来ねぇんだ。」
    グリムは両手を広げ胸を張る。しっかり対策法を編み出されている。ケイトは兄が"陽キャ"にカテゴライズする苦手なタイプの人間だ。これはますます難易度が上がってしまった。他にも色々と話を聞いた後、意識調査のお礼にツナ缶を渡すと尻尾をぴんと立てて缶を抱きしめた。満更でもなさそうな表情になったグリムと監督生に手を振りながら、オルトは鏡舎へと引き返す。
    ("雨漏りで水浸しになった絨毯みたいにジメジメ"か…)
    オルトにはその表現を否定することはできなかった。どこからどう見てもイデアは明るく社交的な性格ではない。めったに外には出てこない上に対面会話では気弱だが、プライドが高く他人を煽ることもある。そのせいで悪印象を与える事例もちらほら。そんな兄のイメージを変えたくてオルトは隙きあらば色んな人に兄の良いところのプレゼンを行っている。兄を誤解されるのは嫌だし、褒められると嬉しい。例えば自分のギア。この間バーストギアをグリムに褒められた時は嬉しくなって思わず沢山ツナ缶を押し付けた。どのギアも兄のこだわりと様々な機能が詰まったオルトへの贈り物なのだ。だからオルトはどんな機能も使いこなしたいし、それで人の役に立ちたい。自分のパフォーマンスを通して兄の力を証明できる。自分の評価は兄への評価と同等だと思っていた頃からオルトはそう信じている。編入生として独立した今は、それに加えて自分についてや兄個人の良さも知ってほしいところではあるが。
    例えば兄がカリム・アル=アジームのように明朗快活な性格であったなら苦労することは無いのだろうか。太陽の下、魔法の絨毯の上で大きく口を開けて笑うイデアを思い浮かべてみる。非現実的な光景だ。すぐにそのシュミレーションを取り止めた。イデアはイデアだ。彼のままで良いところは沢山ある。
    鏡舎手前にはこちらを振り返る兄の姿。
    「オルト、今帰り?」
    眉を下げて目を細め、口元をほころばせてこちらを見ている。例えばこの自分に向ける微笑み。兄のこういう笑顔を見る度に胸のコアパーツが熱を帯びる。排熱に問題が生じ物理的に温度が上昇したわけではない。"彼"の存在を感じるようになってから何度も見舞われる謎の現象だ。不具合はないので兄には内緒にしている。
    グリムさんにもそんな風に微笑んでみたら?オルトは兄にそうアドバイスをすることも出来るが、敢えてそうはしなかった。猫のこととなると途端パフォーマンスが低下する兄に、表情の再現を要求するのは難しいことのように思える。それになによりもオルト自身がその笑顔を他者に見せて欲しくないと感じていることに気がついた。今までのように最適解を瞬時に実行に移すことが不可能になってしまった。
    (心っていうのは制御不能で本当に難しいな)
    「うん兄さん。一緒に寮へ帰ろう」
    自分の中に生まれた感情を理解するまで兄には協力できそうもない。そんなことを考えながらオルトはふわりと兄の横に降り立つ。それから二人はイグニハイドへと繋がる鏡に向かい歩いていった。
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