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    misano414

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    misano414

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    バディミッションBONDのチェズルクだったんだが4/14に間に合わなかったので供養。

    〇ルーク誕

     4月14日は、ルーク・ウィリアムズの誕生日だ。
     愛しい恋人の一年に1度のお祝いの日だというのに、会える算段が立たない。チェズレイ・ニコルズの機嫌はもう、抜群に悪かった。きっかけは二週間前。敵対組織に潜入して壊滅させたはいいものの、自棄に陥った敵方の逆襲を受け、モクマが療養を強いられるほどの怪我を負ったのだ。こんな状態で、自分だけエリントンに行くわけにはいかない、というのがチェズレイの考えだ。
    「おじさんのことなんて気にしなくていいのに」
    とモクマは笑う。
    「身の回りのことが心配なら、誰か一人幹部を付けてくれればいいじゃん?」
    「今回の怪我は、私の情報収集不足のせいです」
     チェズレイはきっぱりと撥ねつける。
    「機嫌が悪いように見えますか?それは私自身も怪我をしているせいです」
     実際、モクマほどではないものの、チェズレイも怪我を負っている。顔も一部切り傷があり、化粧で隠してはいるものの、ルークにはあまり見せたくない。
     絶対それだけじゃないだろうなあと思うけれど、モクマはそれ以上掘り下げなかった。
     さてどうしたもんかなと考えあぐねていると、拠点に訪問者が二人、現れた。いずれもチェズレイの組織の幹部である。確か、コードネームは……。
    「スラ―です」「フェルマータです」
     まるで考えを見たかのようにすらすらと名乗られてしまって、モクマはたじたじだ。
    「私が呼びました」
    とチェズレイが奥から出てくる。
    「あの組織を潰している過程で、少し気になったことがありまして」
     つまり仕事の話だ。そりゃあ、チェズレイが仕事以外で幹部を呼びつけるなんてまず有り得ないのだけど、自分だって負傷しているのだから少しは休めばいいのにと思うモクマだった。まして、不機嫌の原因にするほどの負傷なのであれば。
     安静を命じられているモクマは、ベッドに座ったまま、見るともなく窓の外を見る。
     この街には桜はないけれど、代わりに黄色いレンギョウの花がそこここに植わっているのを見かける。拠点の庭にも、そういえば立派なレンギョウの木があった。黄色い花は、元気をくれるし、それこそルークを思い起こさせた。手元のタブレットで花言葉を入れてみれば、「期待」「希望」「集中力」と出る。3つ目はルークっぽくないな、と思ったりした。
     ルークは元気にしているだろうか。ここからエリントンは、実はそんなに遠くない。というより、仕事を終えた暁にはルークの元に顔を出す予定で、ここの組織を今回のターゲットに設定したのだ。
    「モクマ様」
     そんなことを取り留めもなく考えていたため、いつの間にか傍に控えていた幹部に驚く。確か、フェルマータの方だ。
    「驚かせてしまい、申し訳ございません」
     跪き頭を垂れる彼に、モクマは慌てて声を掛けた。
    「いや、気にしないで。俺もちょっとぼーっとしていた」
     もう一人の方、スラーはいない。何でも、この二人は得意分野が違うらしく、フェルマータだけ先に退室するように言われたのだとか。確かに、スラーは頭脳派である。そしてフェルマータは肉弾戦担当というわけだ。
     ところで、何の用だろうか。尋ねると、フェルマータは少し迷ったようだったが、ややあって答えた。
    「チェズレイ様のことが、気になりまして」
     明らかにいつもより苛立っていて、フェルマータたちは理不尽なことでかなりお叱りを受けたらしい。モクマが大怪我を負ったから苛立っているのだろうと思ったが、誰かに恋焦がれているような表情を時折見せたから、フェルマータたちは心配になった。ちなみに、理由なくお叱りを受けること自体は、まったく堪えていないと笑う。何せ、怒っているチェズレイ様のご尊顔は、滅多に見られないし、最高にお綺麗ですから、とのこと。この二人、そういえばそういうところがあったなと、モクマは苦笑いだ。
    「あー……そうだな」
     モクマはチェズレイたちがいるだろう扉をちらと見る。まだ出てくる気配がない。
    「一つ、頼まれてくれるか?フェルマータ」
    「喜んで、モクマ様」
     跪こうとする彼を宥めながら、モクマは命じた。
    「一人、ここに攫ってきてほしい」

     一方そんな事情を知らないルークは、4月に入った途端チェズレイからの連絡がぱたりと途絶えたことに心配を募らせていた。そもそも、栄えある国家警察が悪党と繋がっていることを知られてはならないと、チェズレイの連絡先は知らされていない。手紙なら出せば何故か届くのだけど、安否を知るのには時間がかかりすぎる。
    「チェズレイから電話来ないかなー?」
     誰もいない自宅で、そんなことを声に出してみる。はたから見れば馬鹿にしか見えないが、この家のあちこちに盗聴器が仕掛けられていて、少なくとも音についてはチェズレイに筒抜けであることを、利用したのだ。
     いつもなら、そんなこと言わなくてもこまめに連絡が来るのに。
     やっぱりチェズレイが何を言おうと、こちらからも連絡できる手段を確保しておくべきだったな、とルークは痛感した。ちらとカレンダーを見れば4月12日。誕生日、できれば一緒に過ごしたかったんだけどなあと、無理な望みを視線に託す。
     事態が動いたのは、翌日の夕方のこと。
     家に帰る途中、ひったくり犯を見つけたルークは、条件反射でそいつを追いかけていた。勤務中ではないけれど、警察官として当然の行動だと思っている。思い返せば去年のクリスマスも、こうしてひったくり犯を追いかけていた気がする。案外、日々の暮らしは変わらないのかもな、と、ちらと思う。
     追いかけて追いかけて、路地裏に誘い込まれる。これはマズイかも、と思い、腰のホルスターに手を掛ける。
     おそらく引ったくりは陽動で、何かこちらに用事があるのだろう。迂闊だったかな、と思うけれど、多分大丈夫、切り抜けられないことはない。やがて突き当りに出て、その男は動きを止めた。くるり、とこちらを向く。
    「ルーク・ウィリアムズ様ですね?」
     その男は、言うなりその場に膝をついたものだから、ルークは呆気に取られてしまった。
     アーロンがいれば、油断するなと叱っただろうか。幸いにも、その男――フェルマータと名乗った――には敵意はなさそうだ。
    「さる方から命じられ、あなたを攫いにまいりました」
    「……え?」
     今目の前の男は何を言ったか?だが訝しむ暇もなく、ルークは鳩尾に強烈な一撃を食らって、その場に崩れ落ちた。
     ああやっぱり、アーロンに叱られそうだな、と思ったのを最後に、意識が途切れる。
     確実に、一撃で意識を奪ったフェルマータは、そのまま闇に目配せをする。すると、相棒のスラーが音もなく姿を現した。
    「さすがだな、フェルマータ。一撃とは」
    「チェズレイ様の想い人を殴ったなんて知られたら、後が怖いけどね」
     違いない、と笑い合い、フェルマータはルークを抱えた。スラーの先導で、路地裏から路地裏へ、音もなく立ち去っていく。

    (ああしかし、腹が立つ)
     夜になり、じくじくと痛み始めた傷を隠すように手を当てて、チェズレイはゆっくりと息を吐いた。少しでも痛みを逃がしたい。別に日常生活をする分には困らないが、気を抜くと痛みが思考の邪魔をする。まして、もうすぐ日付は4月14日になろうとしている。時計を見る視線に忌々しさがどうしても乗ってしまうのを、隠せるとは思えなかった。
    (ボス)
     ルークもまた、自分に会いたがっていることを知っている。彼の家と職場のデスクには盗聴器を仕掛けてあるからだ。以前はカメラも仕掛けていたが、ルークと恋仲になったのを機に外した。
     それこそエリントンに、DISCARDの残党が潜んでいるという情報を掴んだ。昨日、スラーとフェルマータの二人に追加の情報収集を命じてある。
    (あァ……それにしても、痛い)
     すうっ、と血が抜けるような感覚に襲われ、その場に蹲った。実際は、痛みのせいで力が入らなくなっただけで、出血はしていない。気力を奮い立たせ、立ち上がった。
     モクマの部屋に行くと、当の本人がこちらを見てびっくりしている。
    「チェズレイ、お前、顔色が悪い」
    「ちょっと、仕事を詰めすぎましたかね」
     無理に笑顔を浮かべ、モクマのベッドサイドに腰掛けようとして、また強い痛みに襲われた。これは、痛み止めを使うべきか。確かまだ自室にあったはず。
     取り敢えず、モクマの様子を見る。まだ安静にしておかねばならないが、だいぶ回復しているように思える。さすが、タフだ。
    「あなたの顔を見に来ましたが、問題なさそうですね」
     チェズレイは立ち上がると、部屋を後にする。
    「おやすみなさい、モクマさん。私も今日は、寝ますね」
    「ん、お休み」
     ドアを閉めて、痛みをやり過ごし、歩き出す。
     もしかしたらモクマにはバレているかもしれないが、指摘も心配もされなかったので、よしとする。痛みが収まったのを合図に、歩き出す。大丈夫、痛くない。
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