メイド・ナイト「「おかえりくださいませ!! お客様!!」」
ご挨拶すぎる息ぴったりなご挨拶をかましながらメイド服を翻しヨルンとウィンゲートが“敵”を華麗に掃除していく光景は、さすがに胡乱すぎて頭が痛くなる……とナールは額を抑えた。
なんやかんやあってメイド屋敷で期間限定の仕事をはじめたナールだったが、その仕事内容は意外とハードなものだった。
朝早くに起きて身支度を済ませたら主人の朝食の準備をし、屋敷の手入れや庭の管理、昼食はもちろん主人の付き添いや町での買い物。夕食の仕込みまでやることは盛り沢山。これでも仕事量は普段よりもはるかに減ってるらしいのが末恐ろしい。
メイドって大変だ。と感嘆するのも束の間、日が暮れ月が真上を歩く頃にそいつらはやってきた。
「ナール、起きろ」
「んあ〜なんだよまだ夜中じゃねえかぁ〜」
「“客”が来るぞ、支度をしろ」
真夜中、ヨルンに起こされたと思えばまたメイド服を渡されナールは「客?」と訝しむ。ヨルンは神妙な面持ちで「俺たちの仕事だ」と答えた。
そうして連れ出された裏庭、蒼炎のランタンが掲げられたそこには思わぬ光景が広がっていた。
「なんだよこれ……! なんだって現世にこいつらが出てきてんだ……!?」
亡者の、群れだった。
古めかしい戦装束を纏った亡者たちが、武器を片手にうようよと彷徨っている。
「今回も大盛況だな、先輩」
「辺獄でどこかの誰かさんが暴れたからな、その影響が残っているんだろう」
慣れているらしいウィンゲートとヨルンは淡々と気楽そうに掛け合いをしているが、ナールはどうにも落ち着かない。
すると屋敷の主人がやってきて、ナールを落ち着かせるように“きみは初めてだったね”と隣で微笑む。……哀しみを滲ませながらも決意に満ちた目だった。
ご主人はヨルンに説明をするように頼むと、バトンを渡されたヨルンは亡者に目を向けたままこういった。
「ここはホルンブルグが近い」
「……! ってことは、ホルンブルグの戦死兵か」
「あぁ。……一夜にして国を失い、帰る家を失った者たちだ。彼らはこの時期になると現世に溢れて戦に繰り出していく、もう終わった戦を彼らはずっと繰り返しているんだ」
この土地はホルンブルグとホルンブルグ合戦場跡地の境目にある、ここは元ホルンブルグの民たちが寄り添い生きる場所であると同時溢れた彼らの通り道なのだ。
「浄化はできねぇのか?」
「試したが、できなかった。ほとんどが土地の追憶と融合してしまっている、もう人が手出しできる領域じゃない。俺たちにできるのは彼らがこれ以上罪を負わないよう眠らせてやることぐらいだ」
「……やるせねぇな」
「全くだ」
曰く、ヨルンの師匠の代からこの現象は続いているらしい。普段は館の使用人たちが対処しているが、ずっと任せていては疲弊してしまう。だから時折人を雇って使用人たちを休ませているのだろう。
「因みにお前やオレたちが着ているメイド服は特注の防護服でもあるそうだ、霊的な干渉を遮断する神聖な素材を使っているらしいぞ。お客様たちにうっかり剥かれないようにな! お持ち帰りされても知らないぞ」
「うわやだっ!! ウィンゲートのえっち!!」
「ははっそれだけ吠えられれば十分だな、そろそろ来るぞ! オレ達なりに丁寧にもてなしてやろう!」
ウィンゲートに急かされて弓矢を手にすれば、眺めていた主人がとても満足げに“メイド服と弓の組み合わせもイイよね……”としみじみ呟いたのでそれはできる限り聞かなかったことしするナールであった。
「ウィンゲートパイセン〜! 因みについでなんで結局メイド服なわけ!?」
「戦うメイド服はいいものらしいぞ、なあご主人」
「訳わかんねぇ……!」
「ナール、やめておけ。あの男はお前みたいな“仕事上仕方なくメイド服を着てるシチュエーション“も嬉々として眺めるタイプだ。食の幅が広いとは恐ろしいな」
「それを把握してるオメーも怖えよ! ヨルン!」
何はともあれ仕事をはじめよう……!!