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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
    ご質問やお題等ございましたらこちらへどうぞ~
    https://odaibako.net/u/hanacatblood55

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    はなねこ

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    イシンノセカイ7にて頒布予定の美探ごった煮本のSSサンプルです。

    La Cuisine des anges ステンドグラス越しに射す光が虹色の影を落とす放課後の廊下を歩きながら、わたしは妙な違和感を覚えていた。かすかに花の香りがする。まるで誰かが大きな花束を抱えてこの廊下を通っていったような。
     けれど、この廊下を通る人物なんてごく少数――わたしを含めて六名程度――に限られている。なぜならこの廊下の先には、数年前から一般生徒とは無縁になってしまった空き教室しかないのだから。
     それでは、この廊下を利用している限られた人物達の内の誰かが、花を持ってきたのだろうか――否、まさか。
     廊下の途中で、わたしはひとり、首を横に振る。
     確かに、この先に在る空き教室の中には花瓶が飾られている。けれど、未だかつてあの花瓶に花が活けられているところを、わたしは見たことがない。
    「ふむふむ。花瓶があるにもかかわらず、どうして花を飾っていないのか――、眉美くんは、その理由を知りたいのだね。決まりきったことだが、あえて答えよう。どれほど美しく咲き誇る花々であっても、僕達を前にすると霞んでしまうからだよ。申し訳ない限りだ!」
     そんな台詞が聞こえてきそうだ。花の香りは、きっとわたしの気のせいだろう。
     目的の空き教室の前にたどり着く。いつものようにドアノブに手をかける。
     数年前から使用されていない美術室――美少年探偵団事務所の扉を開けたわたしの目に、見慣れない蜂蜜色の髪が飛び込んできた。我らが団長――『美学のマナブ』こと双頭院学くん(リーダー)の向かいの椅子に腰を下ろしているのは、リーダーと同じ年頃の外国人の少女だった。
     何やら話し込んでいる様子だったけれど、三分の二ほど開けた扉の陰にいるわたしの存在に気づいたのだろう、リーダーはよく通る声で言った。
    「やあ、眉美くん。紹介しよう。彼女は今回の依頼人だ」
    「依頼人?」
     美術室の中へ身体を滑り込ませ後ろ手に扉を閉めながら、わたしは依頼人と呼ばれた少女へ視線を向けた。ふわふわ波打つ金髪と明るい榛色の瞳が印象的な、外国の絵はがきから飛び出してきたような雰囲気をまとう少女。天才児くん作の調度品にもしっくり馴染んでいる。でも、着用しているのは見慣れた指輪学園の女子用制服だった。
     外国人の少女を前にして、思いがけず緊張してしまう。でも、リーダーに紹介されたんだから、挨拶しないと失礼よね。
    「は……はろー、な、ないすとぅみー……」
     ちゅーと続ける前に、わたしの拙い挨拶は少女の声によって遮られた。
    「ワタシ、日本語わかります。はじめまして。ワタシの名前はクロエ・トトゥです。クロエと呼んでください」
     少女は流暢な日本語で自己紹介し、きちんと膝をそろえて、ぺこりと頭を下げた。華奢な肩にかかる金髪が揺れると同時に、ふわり、甘い香り――わたしが廊下で嗅ぎ取った香りと同じものだ――が舞う。少女の小さな頭越しに見える、壁際に置かれた猫足のコンソールテーブル上の花瓶は相変わらず空っぽ。
     花の香りの謎が解けたわ。おそらく、リーダーに連れられて少女があの廊下を通った際に、少女のシャンプーかコロン、もしくは柔軟剤辺りの香りが残ったのだろう。
    「こ、こちらこそ、はじめまして。わ、わたしの名前はマユミ、です」
     慌てて会釈を返す。ネイティブなわたしの方がたどたどしい日本語になってしまったぞ。
    「マユミ……マユミ……」
     発音を確かめるようにわたしの名前を繰り返して、少女はにっこり微笑んだ。「よろしくお願いします、マユミ」
    「クロエくんはフランスからの短期留学生として来日し、一昨日から初等部五年A組に在籍している。僕のクラスメイトだ。ふとしたきっかけで僕が美少年探偵団の団長を務めていることを知られてしまってね、是が非でも僕に探偵を依頼したいと頼み込まれたのだよ」
     少女はフランス人なのか。日本語が堪能でよかった。英語も覚束ないのに、わたしにフランス語なんて操れるわけがない(わたしが知ってるフランス語といえば、ボンジュールとメルシーとトレビアンと、焼豚のタレみたいな響きの……何だっけ?)。
    「それで、依頼したいことってなあに?」
    「人を探してほしいのです」と、少女が答える。
     人探し。
     秘密裏に活動する非公式かつ非営利の組織へ依頼する内容としては、至極まっとうだ。少なくとも、わたしの『星探し』よりはよっぽど。
     わたしが少女の斜向かいの席へ腰を下ろしたのを見届けてリーダーが言った。
    「それではクロエくん、先ほど僕達に語ってくれた君の話を、眉美くんにも聞かせてやってくれないか。彼女はきっと君の力になってくれるはずだ」
     リーダーの言葉に頷くと、少女は榛色の瞳をわたしへ向け、口を切った。
    「マユミ、聞いてください。ワタシは留学生です。指輪学園へ来たのは日本語を学ぶためです。けれど、それは表向きの理由で、本当の目的は別にあります。ワタシは指輪学園へ天使を探しにきました。ワタシを助けてくれたアンジュに『ありがとう』と言いたくて、ワタシはここへきたのです」
     そうか、少女が探してほしいのは天使か――……天使?
    「て、天使ぃ~?」
     わたしは素っ頓狂な声を上げた。

    **

     人探しならぬ天使探し。何やら星探しよりも謎めいた気配を帯びてきた。
    「天使か……、天使ね……」
     天使と聞いてわたしが真っ先に思い浮かべたのは、宗教画の中に登場するような羽根と後光がセットになった天使ではなく、指輪学園の天使長――『美脚のヒョータ』こと足利飆太くん(生足くん)だった。
    「生足くんを連れてきたらいいのかしら」
    「ナマアシクン?」
     わたしのつぶやきを正しくヒアリングした少女が首を傾げる。わたしは慌てて顔の前で両手を振った。
    「いえいえ、こちらの話よ。今言ったことは忘れてちょうだい」
    『なまあしくん』という怪しげな日本語が気になっているのか、金色の睫毛をまたたかせて(普通の日本語のテキストに掲載されていない単語であることはまず間違いないのだから、少女がきょとんとするのも当然といえば当然か)、少女はちらりとリーダーを見やった。このまま話を続けてもよいのだろうかという問いかけ。承服したとばかりにリーダーが深く頷く。
    「今しがたクロエくんは『天使』と言ったが、それは便宜上そう呼んでいるだけで、実際に探し出してほしいのは生身の人間だ」
     そうだったね、クロエくん? と、リーダーが少女に確認する。
    「はい。その通りです。失礼しました。話の続きを聞いてください」
     調子を取り戻したように少女は再び話し出した。
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