着床しないと出られない部屋前日譚 真っ白い壁だけの部屋。四方が白い壁に覆われた部屋に気が付けば二人は其処にいた。
「なぁ、これってどう言う…」
「知らないよ」
カインの隣に立つオーエンに聞けば素っ気ない返事。
けれどその顔は、露骨に嫌そうな顔で歪んでいる。
二人の視線の先にあるのは、大きめのキングサイズベッドと、壁に掛けられた看板のような物。
『着床しないと出られない部屋』
以前いた賢者様に似たような部屋の話を聞いた事がある。
何も無い部屋に、閉じ込められ指示された行動をしないと出られないと言う部屋。
曰く、キスしないと出られないとか。
曰く、相手の良い所を十個答えろとか。
曰く、媚薬を十本飲めとか。
曰く、セックスしないと出られないとか。
「………………」
「…………なぁ、その…俺は恥ずかしながらそう言った事へよ知識があまりないんだが」
沈黙を先に破ったのはカインだった。
「着床って妊娠の事だよな?」
「………………」
「つまり、」
「それ以上言わなくて良いよ」
カインの言葉を無理やり遮る。聞きたくないし考えたくも無い。こんな何も無いつまらない部屋さっさと出てしまおうと、先程から何度も呪文を唱えているが、何も起こらず時間ばかりが過ぎて行く。
「チッ」
思わず出る舌打ち。
「オーエン……」
カインが真剣な眼差しでオーエンを見る。
聞きたくない。ノリが良く陽気な癖に生真面目で何処か天然な男の事だ。唯一示唆されているここから出る方法について、馬鹿正直に試してみる相談に決まっている。
騎士として大好きな王子様の元を離れているのが不安なのだろう、さっさと此処から出る方法を試してみよう、なんて言い出す前にどうにかしなくては。
「オーエン。俺が思うに――――」
聞きたくないってば。顔を逸らして目を合わせない。
ヤケクソで壁を蹴っても何も起こらない。
「着床しないと出られないって言うのは」
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない。騎士様とセックスなんてそんな――――。
「どのタイミングで着床って言うんだ?」
「………………は?」
予想していた事とは微妙に斜め下の質問だった。
「性行為したとして、すぐに着床する訳ではないだろう?」
「………………そうなの?」
「確か、精子が受精してから一週間ぐらい時間を要する筈だ。そこから完全に着床するにも時間が掛かる。仮に妊娠した事を指すなら、陽性反応が出るまで待つのか?その間の水や食料はどうやって確保するのか考えていたんだが」
教本に載ってそうな単語の羅列にオーエンの目が遠くなる。セックスしないと出られない部屋よりも難易度が高い。
仮に、万が一性行為に及んだとして、その後妊娠が分かるまで一緒に生活するのは嫌すぎた。
「……この部屋に入ってからどのくらい時間が経ったのか分かるか?」
「さぁ」
言われて記憶を辿る。
気が付いたらこの部屋にいた。目覚めてから何度か壁を壊そうと魔法を使ってみた。攻撃力の高い魔法を使っても壁は壊せず、トランクを取り出そうしても何も起きなかった。そう、大量に魔力を消費する魔法を使っても、何も変わらない。
魔力も、体力もそのまま――――。
「お前とこうして会話出来ているなら時間は確かに経過している筈だ、だけどどれだけ魔法を使っても、魔力も体力も変化がない」
「つまり?」
「つまり――――…、確実に着床するまでの二週間、飲まず食わずでセックスをし続けている事にならないか?」
「………………」
あまりの内容に目が丸くなる。