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    mhyk_kabeuthi

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    mhyk_kabeuthi

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    オーカイwebオンリーさんで展示していた小話です。
    当日見てくださってありがとうございました。

    君は僕のもの雨は嫌い。暗くてじめじめして気分が悪い。
    廊下を歩きながら窓の外に視線を送る。がたがたと風が窓を揺らしポツポツと雨が叩き付けられている。つい数分前までは晴れていたのに今は黒い雲が空を覆っている。天候に影響を及ぼすぐらい強い魔力を持っているんだから、さっさとこの雨雲をどっかにやれば良いのに使えないと、役立たずの最強の魔法使いに悪態をつく。こんな雨じゃ何処かに出掛ける気にもならない。だからといってやる事も無く暇だ。
    誰かで遊んでやろうかと談話室に顔を出してみると、魔法舎の弱い魔法使い達が何人か肩を並べて「てるてる坊主」なんてものを作っていた。賢者様の世界で行われる晴れの儀式らしい。人の形を模した白い塊の首吊り死体が部屋の中に並んでいて、東の国の引き篭もりの呪い屋みたいな部屋になっていた。
    「オーエンもどうですか」なんて誘ってくるから、さっさと部屋を後にした。皆で集まって死体作りとか意味が分からない。そんなものよりオズにお願いして晴れにして貰えばいいのに、賢者様は頭が悪いから全く使えない。ただでさえ雨で気分が悪いのに、役立たずの相手なんかしていたくない。
    雨が煩くて頭まで痛くなってきた。もう適当にミスラ辺りを襲ってストレス発散した方が面白いかもしれない。そうだ、そうしよう。そう考えて、階段へ向かおうと身体の向きを変えると、――視界が、面白いものを捉えた。
    途端、さっきまでの陰鬱とした気持ちが霧散していくのが分かる。代わりに、胸が高揚して、自然と口角が釣り上がる。

    「騎士様」

    音に乗せて呼んだ声は、ほんの少し弾んでしまった。だって、目の前の男は髪と身体を濡らしている。きっと日課にしている鍛錬の途中で雨に降られたのだろう。裾からポタポタ水が垂れている。なんて無様でかっこ悪いんだろう。
    「随分濡れているね、雨に降られたの?可哀想な間抜けな騎士様」
    ポタポタと垂れる小さな水の塊。頬に張り付く髪を少し鬱陶しそうに顔を左右に振って払う。まるで猫みたい。
    「あぁ、オーエンか。いきなり降ってくるから驚いたよ」
    投げられた言葉を気にする様子もなく、カラッと気持ちの良い笑顔を浮かべて返事をする。何を言えばその無駄にうるさい笑顔が曇ってくれるのだろうか。
    「丁度いい、お前、賢者様がどこに居るか知らないか?」
    「さぁ?知っていたとして素直に僕が教えてあげ、ると……なにそれ」

    「…ゃあ」

    綺麗とは言い難い、濁声みたいな鳴き声ひとつ。カインは両腕で自分の練習着の上着を丸めてを抱えている。その上着の中から聞こえた。なに?と思い見れば、ひょこっと小さな獣が顔を覗かせる。
    「猫…?」
    「走っていたら途中で見かけて、脚を怪我しているみたいだったから連れて帰ってきたんだ」
    「お前が魔法で治してあげなよ。あぁ、出来ないんだ?ろくな魔法が使えない弱い魔法使いだもんね」
    「お前だって自分の怪我しか治せない癖に」
    「は?」
    返された言葉に青筋が浮かぶ。弱い癖に生意気じゃない?ムカつくなぁと見ていたら、カインの身体がぶるっと震えて、間抜けな顔をして口が半開き。
    「はっ……くしゅん」
    「ちょっと…唾飛ばさないでよ」
    「ぁ、悪い。手が塞がってて」
    いつもの健康的なさくらんぼみたいな唇が、ブルーベリーみたいな色になっている。今日はあんまり美味しそうに見えない。ぷるぷる寒そうに震えているカインに近づくと、頭に疑問符を浮かべて「どうした?」と首を傾げる。僕に何度も襲われている癖に、警戒心の無さが腹立つ。
    「なんで身体濡れたままなの、乾かしなよ」
    「……出来ればやっている」
    バツが悪そうに答える。呆れた。そんな事も出来ないのか。眼球を取り戻すと言っているくせに、このままだと1000年は掛かりそう。
    またくしゃみされるのも嫌だし、乾かしてあげて、恩を着せて、今度また中央のスイーツ巡りをさせてあげよう。支払いをする度にカインが渋い顔をして財布の中身を確認していて、あれは面白かった。

    『まだ満足しないのか』
    『も、もう良いだろう…こっちは、もう無理なんだが…』
    『まだいくのか…?』

    だんだん弱腰になって、眉を下げて、窺う様に上目遣いで、僕に縋るような声を出すのが堪らなくて、笑いが止まらなかった。もう一回、あの、啼きそうな声が聞きたい。
    「クーレ・メミ…」
    ふと、ある事を思い付いて、呪文の詠唱を途中で止めた。このまま乾かすだけじゃ面白くない。
    ――ちょっとした、小さな可愛らしい悪戯。

    着ていたコートを脱いで、カインの顔に向かって投げ付けた。
    「っうぁ?!なんだよ」
    視界が閉ざされたカインが慌てて頭に掛けられたコートを剥ぎ取る。腕の中の獣を落とさない様に、片手でしっかりとだき抱えている。
    「風邪ひかない様に、それ着なよ」
    「…………ぇえ?!」
    「ちょっと、何その反応」
    怪訝そうな声を出すカインが気に食わない。素直に嬉しいって受け取れ。
    「いやだって、お前が俺に優しくする時は何か企んでる時だろ」
    「騎士様ってば酷いなぁ、折角獣にもお優しい騎士様に感激して僕が気遣ってあげたのに、そんな酷い事言うんだ」
    大袈裟に肩を竦めて溜息を吐く。カインは口を曲げて困ったような顔をしている。少し考えてから、諦めたのか、大人しくコートを肩に掛けて羽織った。
    「お礼は中央の国厳選のスイーツで良いよ」
    「……奢って欲しいなら素直に言えば良いのに」
    「は?別にそんなんじゃないけど」
    「っつ、分かったから、髪を引っ張るのを止めてくれ」
    「ふん」
    生意気な態度がムカつくから、嫌がらせで一つに纏められている髪房を引っ張ると、前のめりに倒れそうになる。馬の尻尾みたいなのを頭から下げている方が悪い。こんな掴み勝手が良いの、触って欲しいって言っている様なもんだ。
    「おい、オーエン。髪を離し……いっ」
    掴んでいた髪を巻き付ける様に、さらにぐっと引っ張る。カインの身体を抱き寄せて、腕の中に収めた。
    コートだけじゃ駄目だな。もう一つ念押ししておこう。
    混乱しているカインを無視して、練習着の襟を握り締めて鎖骨を露わにする。筋の浮いた首筋から、鎖骨まで綺麗に線を描いてる。濡れているカインの髪からぽたっと水の塊が鎖骨のくぼみに落ちた。ぺろっと舌を出して舐めるとすぐ近くで小さな悲鳴。少しだけしょっぱかったから雨じゃなくてカインの汗だったのかもしれない。
    口を開けて、わざと歯を立てて、力の限り思いっきり――鎖骨に噛み付いた。
    「い、…た!」
    どん!と手の平で胸を押された。カインが怒った顔をして2、3歩離れて距離を取るから、べっと舌を出してカインの視線に応じた。
    「こら、変な悪戯するな」
    相変わらず騎士様の怒り方はお優しい。
    「談話室」
    「は?」
    「談話室に賢者様達がいるよ」
    「?、そうなのか?教えてくれてありがとう…」
    腑に落ちない顔をしながらも、律儀にお礼を言う。本気ではなかったにしても、さっきまで怒ってた癖に今はもう気にしていない。
    首筋を見ると、さっき噛んだ歯型がくっくりを残っている。コートに歯型。この2つがあれば勘の良い奴は勝手に色々疑ってくれる。

    それ・・、早く皆に見せてきなよ」
    指でカインの首元を指した後、少し下げて、腕の中でだき抱えている猫へと向ける。
    「お前がまた変な事してきたんだろ…」
    ムッと唇を尖らせて文句を言ってくる。いいから、さっさと行けよ。僕のコートを着たお前の姿を皆にお披露目してきてよ。おまけに歯型まで付けてあげたんだ。それを見た皆が、お前の事をどう思うか、想像するだけで楽しい。
    「ほら、早く行きなよ」
    手の平で払う様にすれば、渋々といった顔で談話室に向かって歩き出した。僕のコートをひらひら揺らしながら歩く後ろ姿を見送る。後で皆がどんな反応したか猫に聞こう。

    窓の外を見る。雨は止む気配が無く、どんどん風が勢いを強めている。変なの、さっきまでは苛々した気持ちだったのに、今は楽しくて仕方ない。新しい玩具を買ってもらった子供みたいに心が踊っている。
    気持ちが高揚して、唇が音楽を奏でる。足はくるくると舞いステップを踏む。
    「ふふ」
    案外、雨も悪くないのかもしれない。


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