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    mhyk_kabeuthi

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    mhyk_kabeuthi

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    お題「バカンス」
    謎の学パロです。

    回りくどいし前置きが長いオーエンと直球で伝えるカインです

    バカンスはお休みです「これっ!オーエン!」
    「待たぬか」
     聞こえてくる声を無視して背中越しに教室のドアを閉めた。
     廊下を歩きながら、無理やり渡された「補習のお知らせ」の紙をぐしゃぐしゃに丸めてポケットに突っ込む。
     まともに授業に出ていなければ、まともに登校すらしていないのだから当然単位なんてものは足りていない。出席日数もギリギリ。このままでは留年か退学になるぞと双子に脅されたが、オーエンにはまったく響かなかった。
     退学者の数が増えればその分学校の評価に響く。そうなれば入学希望者が減り、経営が危ぶまれる。困るのは学校側の人間だ。彼等は落伍者を出さない様に救済策をいくつも用意している。
     補習もその一つ。この学校では成績不振者や出席日数が足りていない生徒には、夏休みなどの長期休暇中に補習と追試を行い、なんとか穴埋めをさせて進級させようとする。
     その追試だって、一回目で点数が足りなければ二回目があるという甘いシステム。だったらその二回目だけを受ければいい。補習にも出ないし、追試一回目もパスして、追試二回目で教員が望む最低ラインさえ超えれば問題ない。馬鹿正直に真面目にやる必要なんてない。
     そんなくだらない事に夏休みを費やす気はなかった。
     そう、明日から夏休みなのだ。
     窓の外に目を向ければ、浮かれた生徒達が騒がしくしている。もう終業式も終わり、いつもより早めの放課後なのに、級友との別れが名残惜しいのか、長い休みに浮足立っているのか、学校に残っている生徒は多い。
    「……どうせ、あいつもまだ残っているんだろうな」
     頭に浮かぶのは、夏の陽射しみたいな笑顔を浮かべた同級生。蜂蜜みたいに甘い瞳と、チョコレートみたいに溶けた髪色。いつも忙しなく動き回っているので、きっと今も校舎内にいるのだろう。
     
     スマートフォンを取り出すと、慣れた手付きでタップする。画面に映し出されたのは、同級生のSNSアカウント。このご時世に本名開示のアカウントはどうかと思ったが、お蔭であっさりアカウントを特定出来たのは良かった。
     画面の中で笑う夏の陽射しみたいな笑顔は、購買新発売のジュースを顔に近づけて自撮りしている。指先を上下に動かして更新内容を確認すれば、学校帰りの買い食い、バイト先の様子、自宅でのダンス練習風景など、日常が映し出されている。……あまりにもプライベートをおおっぴらにし過ぎてないだろうか?つい舌打ちが出てしまった。もっとネットリテラシーを学んで欲しい。
     苛々した気持ちが腹の底で渦巻くのをぐっと押し込んだ。平日でも更新頻度が高いが、夏休みに入ればもっと多くなるだろう。
     夏を具現化したかのような人間だ。夏の定番を遊びつくすはず。
     海に行って水着になるだろうし、お祭りで浴衣を着るかもしれない。花火をして、バーベキューを楽しみ夏を満喫するのは想像にたやすい。なにしろ、友人と呼べる存在がとてつもなく多い。きっと多くの友人達に遊びに誘われているだろう。そして、――――夏に浮かれた人間は「やらかす」率が高い。本人が真面目に誠実に生きていても、その周りも同じ様に生きているわけではない。友人のアカウントが炎上し、写り込んでいたり相互フォロワーだったりして延焼する可能性も大いにある。それを見てご愁傷さまと嘲笑ってやりたい、その為にSNSをチェックしているのだと、オーエンは自分に言い聞かせる。

     結局のところ…………オーエンは、前置きがとても長かった。
     色々な理由を付けて、言い訳を並べても、やっているのは同級生―カイン―のSNSの監視だった。

     スマートフォンを仕舞い、ふと顔をあげると、つい「うわっ」と嫌そうな顔になってしまった。廊下の向かい側から歩いてきたのがカインだからだ。向こうはオーエンに気付いた瞬間、パッと明るく笑い、早歩きでオーエンの側に寄った。夏の陽射しみたいな笑顔は眩しくて、思わず目を細めた。
    「オーエン、お前も残ってたんだな」
     体温が三度上がった気がする。近くにいると暑苦しいからもう少し離れて欲しい。馴れ馴れしく腕まで掴んでくるから、本当に嫌。
    「聞いたぞ、お前補習なんだってな?もう少し学校に来ないと本当に留年するぞ」
    「うるさいな…お前には関係ないだろ」
    「あるさ!お前が進級出来なかったら来年の修学旅行一緒に行けないだろ、折角ならみんなで行きたいじゃないか」
     そう言えばそんな行事もあったな。学校行事に何も興味がないから忘れていた。
    「興味ないよ、そんなもの」
    「まったく、補習にはちゃんと出ろよ。俺も参加するし」
    「………………は?なんでお前が補習にでるの?」
     カインの期末試験の結果は決して悪くない、それなりに上位にいたと記憶している。特別秀でている訳では無いが、優等生の部類だ。何よりも欠席も遅刻もないし授業態度も真面目。提出物も出しているし、委員会にも積極的に参加している為教師からの受けも良い。だからこそSNSで目立っていてもお咎め無しなのに。自分の知らない所で何かやらかしていたのか?そんな情報は入ってきていない。カインの動向は全て把握しているはず。
    「あぁ、夏休み中に復習したいから先生に頼んで参加させて貰うんだ。うちはあんまり裕福じゃないからな、塾に行くお金は3年の受験対策に宛てたいから今年は学校内で済ませようと」
    「…………へぇ」
    「部活の関係で先生達結構学校にいるみたいだから、分からない所聞きに行きやすいし」
    「…………ふぅん」
    「夏休みはバイトと補習で終わりそうだなぁ、お前は?どっかに行ったりするのか」
    「はぁっ?!??!」
     今まで生きてきた中で一番大きな声が出た。今こいつはなんて言った?夏休みはバイトと補習で終わる?海には行かないのか、祭りには行かないのか、水着も浴衣も着ないって事なのか。夏を具現化したような人間の癖に何一つ夏っぽい事をしないつもりなのか。
    「びっくりした…お前大きい声出せるんだな」
    「……っ、お前、は?」
    「何が」
    「夏休み、何処か、遊びに…」
    「特に予定はないけど」
    「海とか、夏祭りとか…好きそうだろ、お前」
    「あぁ、誘われたけど行かないかなぁ、さっきも言ったけどうちはあんまり余裕ないからさ、今から奨学金貯めときたいんだよ。夏休みは稼ぎどきだし!」
     志しが立派過ぎる同級生に苛立ちが募る。得意気に腕を上げて力こぶを作る姿を見せられても舌打ちしか出ない。これではカインの何かしらの「やらかし」は発生しない。生真面目で両親想いな生徒が慎ましやかに過ごすだけ。それじゃあつまらない。
    「だからさ、夏休みのイベントって補習ぐらいなんだよな、オーエンとはクラス違うけど補習は一緒に受けるから、何時もとはちょっと違う感じで新鮮だろうなぁ〜って結構楽しみにしてるんだぜ」
     ほんの少しだけ、照れくさそうに頬を赤らめて笑った。
    「……あっそ」
     茹だるような暑さに、身体が熱い。窓から射し込む陽射しが眩しくてふっと顔を逸らした。
     仕方ない、これは仕方のない事なのだと自分に言い聞かせる。何処にも遊びに行かないのなら、せめて補習に出て監視するしか無い。

     ポケットに突っ込んだぐしゃぐしゃのプリントを握り締めた。

     



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