【始春】蝶尾揺らめくの恋「ちょっとだけ寄ってもいい?」
仕事帰り、春が指差したのはペットショップだった。今日の夕食は葵が担当だし、少し寄り道したところでそう遅い時間にもならないだろう。
「何か用なのか」
「可愛い可愛いホケキョくんの餌がなくなりそうなので」
ああなるほど、と二つ返事で了承する。ありがとうと笑って店までの僅かな距離、彼は俺の手を握った。
店内に入ると、すぐのところには猫や犬のショーケースが並んでいる。中を覗き込めば、昼寝から起きたのだろうアメショの子猫が欠伸をしているところだった。隣では青いボールを追いかけて、子犬がくるくると駆け回っている。微笑ましい光景ではあるが、なんとなく切ないような気持ちになる。うちの寮で、伸び伸び暮らしているヤマトやコロッケを見ているからかもしれない。
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