キスの話りんねさんは、キスが好きだ。
朝起きたら必ず頬にキスをしてきて、行ってきますの時は口にキス、帰ってきたら、おでこにキスをして、そして、お風呂場では背中、ご飯の後のデザートを食べたあとは口、夜寝る前は首筋にキスをしてくる。
時々、頬を撫でて欲しいと言わんばかりに自分の手を持っていかれてそのまま手首にキスをされたりすることもある。
何回も何回も、重ねて、重ねて…。
キスをしなくてもあの柔らかい感触が肌に残るのを思い出してしまう。
こんなはずじゃなかったのになぁ。なんて。
……少し疑問に思ってまえに、りんねさんはキスが好きなの?と、聞いた事がある。
その時、彼はとてもきょとん、としていた。
くふふ、と口元を手で覆って灰色の曇天の目をまっすぐにこちらへ向けながら
「おじょおの事が、好きなだけです。」
と、にっこり微笑みながら言われたっけ。
そして、その後にむぎゅ、と抱きしめられたっけ、と自分の腕を掴んだ。
何となく、身体が覚えている彼の感触が、蜘蛛の巣に捕まった虫みたいな感覚で。少しだけ怖い気持ちと、それも悪くないか、という気持ちに包まれて全てを彼に捧げてしまったのだ、と自覚してしまった。