「どう思う、相棒」
真剣な顔をして、千冬は少し離れた場所にいる乾と九井を一瞥した。乾はぼんやりとした目で武道を見ているし、九井に至っては携帯の画面に夢中だ。
「どう思うって言われてもな……」
「何情けない声出してんだ! せっかく稀咲を追い出せたのに、今度は黒龍からの刺客だぞ? しっかりしろって」
肩を強く掴まれる。まだ大寿からボコボコにされた痛みは引き切っていないので、かなり痛い。
「じゃあ千冬はどう思うんだよ」
「罠だろ」
自信満々に言う千冬だが、あの二人について何か知っているのだろうか?
「だから、なんのだよ」
「それがわかったら苦労しないんだよ」
聖夜決戦までは八戒のことで精一杯だった。あの二人については気に留める余裕も、調べる時間もなかった。
「十代目黒龍は潰した。今の黒滝は二人だけなんだろ。たった二人で何をするんだ?」
「……それもそうか」
武道の言葉に、千冬のテンションも少し落ち着く。もう一度二人を見れば、乾は変わらず武道を見ているし、九井は誰かと通話していた。
「……あの二人って二個上だよな。高校生……だし、そもそも二人ともこうしてみてると族っぽさあんまりないよな」
軍人のような服装に、種類は違えど整った顔立ちの二人を見て千冬は眉を顰めた。
「いやいや、八戒ん家の前でナイフ出した時の顔は族よりも怖かったんだって!」
武道は十二年後の二人の顔も思い出して、震え上がった。あの少しの対面では彼らの思惑などわからなかったが、黒龍側にいた八戒の側近として確実に上にのし上がってきたのだろう。ならばきっと、何か強い野望や野心があったに違いない。
「手を貸す」と乾は言っていた。信じろとは言わない、とも。どの言葉も武道には誠実に聞こえた。何より、万次郎が信じて受け入れたのだ。それを証拠もなしに疑うのもどうなのだろう、と武道は考えた。
八戒は無事だった。あの未来はもう来ないのだから、二人だってそれほど警戒する必要はないのかもしれない。
「ひとまず二人のことは置いておこう。警戒するのだけは忘れずにさ」