True face暑い日は、できるだけ外には出たくない。
なのに、こんな夏の暑い日のさ中。外に出たのが運のつきだったと思う。
志保ははあっ、とわざとらしくため息をついた。
隣ではニコニコ胡散臭いほどの笑顔を浮かべた男が、ひっきりなしに喋っている。
「暑い中、どこへ行くんですか? 一緒にお茶でもしませんか」
「おあいにく様。そんな暇じゃないの」
「う~ん、デートの待ち合わせに向かっている、というわけでもなさそうですし。じゃあ、一緒に目的地までお供しますよ」
「嫌よ。しかも失礼ね、デートかもしれないじゃない」
言葉に棘を含ませて返すが、まあ確かに、とてもデートには見えないだろう。
実際志保は、ほぼ部屋着のような装いに、幅は広めだが飾り気のないバケットハットを被ってきただけの、格好だ。本当は夏の昼日中にこんな姿で外には出たくなかったのだが、研究で大詰めの博士が、足りない部品がある、と焦っていたので、お使いをかって出たのだ。いらぬ親切心を出すんじゃなかった。
1660