真夜中のカウントダウン夜という人生の終わりがとても穏やかだったとしても、簡単に気持ちのいい夜の中に入り込んではならない。
「あ」
ブゥン、という虫の羽ばたきにも似た音を最後に、蛍光灯は落ちた。研究室には私ひとりしかいないのに、チリチリ光る主張を見て見ぬふりしていた罰が祟った。手元の珈琲はまだ入れたばかりで湯気が立っている。それを零さぬよう動かずにいれば段々と夜目が効いてきて、窓辺から差し込む薄明るい月光を頼りにカップを机に戻すことができた。
夜に、じんわりと月を見上げるなんて久々のことだ。格子状に六つに割れた窓枠の隙間から、左上が欠けた月が雲にたなびき身を隠す。あの月と話ができたら、と頭に浮かんだ。そして、それはどこからきた発想だっけと自分の思考の発端を追いかける。
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