Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    cacao6116

    @cacao6116

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    cacao6116

    ☆quiet follow

    中学生リンゼル
    冒頭だけ書きたかったやつ
    書けて満足

    学パロリンゼル 夏祭りに行ってみたいと言うゼルダの要望を叶えてくれたのはインパだった。
     本来ならば受験を控えて夏祭りなど行けない身の上なのだが、こういうときに中高一貫校に通っていてよかったと思う。
     浴衣に着替えたゼルダは、いつもと違う髪飾りや履き物に胸をときめかせながら準備をし整えた。わくわくしながらインパと待ち合わせ、祭り会場へと向かう。
     おしゃべりしながら屋台でたこ焼きを買ったり、綿飴をちぎったり。普段なら買わないものも、この時ばかりは買えてしまう。
     肩車をした親子連れ、フランクフルトを食べるカップル。人の多さもこの熱気も、夏祭りに来ているのだと思えば雰囲気そのものが楽しくて仕方ない。
     人ごみの中を周りのペースに合わせながら歩みを進めていると、人がわっと増えた。駅に到着した電車から降りてきた人々だ。

    「離れないように、手を!」

     ゼルダは頷き、インパの手を取る。周りを大人たちに囲まれた。辺り一帯が人口過密状態に陥る。誰かよろけたのか、ドミノ倒しのように人が倒れ込んできた。ゼルダは人並みに飲まれるように押しやられ、そのせいでインパと手が離れてしまった。

    「きゃ…!」

     もみくちゃにされて人の背中やら服しか見えない。逃げることもできず、助けを求めてインパを探す。そこに、手が見えた。

    「インパ…!」

     必死になって腕を伸ばし、掴む。ぎゅっと握り返された。もう安心だ。ゼルダはほっとした。熱いくらいの手に力強く引っ張られる。人の波の中、どこをどう突き進んでいるのか、連れて行かれるようにして導かれる。   
     やがて表通りから外れたところまで来たのか、人が少なくなってきた。ようやくひと息つけた思いだ。
     しかし前を向いたゼルダは、そこで自分の手を引いているのがインパではないことに気づく。小麦色の髪をひとつに束ねた、見知らぬ少年に手を握られていた。

    「え…!だ、誰!?」

     ゼルダの声に少年が振り向く。青い瞳がゼルダを映した。同じ年頃の身長も近い少年だが、知らない人だ。ゼルダは青くなって叫んだ。

    「誰!?」

     少年は心外そうに眉をひそめた。

    「誰って…、そっちから手を握ってきたんじゃん」
    「え!?はっ…!」

     ゼルダが慌てて手を振りほどく。見知らぬ人と手を繋いでいた事実をなかったことにしたい心理が働き、手のひらを浴衣になすりつけた。
     少年は眉を寄せたまま頬を膨らませた。

    「なんだ、誘われてるかと思ったのに」
    「あ、え、誘う!?」
    「違うの?」
    「違います!!」

     ゼルダは真っ赤になって否定した。自分はそんなに軽い女ではない。インパだと間違えただけだ。今思えば、明らかにインパの手よりも大きく、骨張っていて熱いくらいだったけれど。

    「間違えただけです!」
    「何だ。つまんない」
    「な…!」
    「俺だって連れ合いとはぐれちゃったんだよ」
    「そんなの私には関係ないです!」

     それにしても、どこに連れて行こうとしていたのか。ゼルダは辺りを見回し、インパがいないか目で探した。そこは人の少なく明らかに祭り会場から離れた場所だった。

    「とにかく、ただ間違えただけですから!」

     そう言ってインパを探しに戻ろうとすると、後ろから「何でぇ。人混みに溺れかけてるところを助けてやったってのに」という皮肉が聞こえた。ゼルダはぐぬぬと心の内で拳を握る。
     確かに一方的に間違えたのはゼルダのほうだ。この少年はまだ何も悪いことはしていない。まだ。
     ゼルダはそっぽを向いたまま、ぼそりと呟いた。

    「す、すみませんでした…」
    「え?」
    「すみませんでした!」
    「何?聞こえない」

     にやにやしながら耳に手を添え、暗にもっと感謝をしろと要求してくる少年。ただでさえ恥ずかしいのに図々しい感謝の追い剥ぎにも遭い、ゼルダはわなわなと唇を震わせた。

    「もう言いません!」

     ぷいと背を向けずんずんと進んでいくゼルダの後ろを、何故かついてくる。はぐれた連れ合いを探さなくていいのか。

    「ねえ、どこ行くの」
    「戻るんです!友達を探しに!」
    「人多いからまた巻き込まれるよ?」
    「ほっといてください!」

     浴衣に合わせた巾着バッグを持っていたが、インパが荷物を持つと申し出てくれて預けていた。残念ながら携帯もその中に入れてあるため連絡が取れない。早くインパとはぐれた現場に引き返さなければ。彼女も心配していることだろう。
     少年の心配をはねつけ威勢よく歩き出したはいいものの、履き慣れていない下駄の鼻緒が親指の付け根に食い込んできており、痛い。ずっと我慢していたがそろそろ限界だった。皮膚が赤くなり皮がめくれている。ゼルダはやがて立ち止まり、しゃがみ込んだ。

    「どうしたの?」

     まだついてきていたのか。ゼルダは背中越しに少年を睨むと、無視した。少年はゼルダの睨みなど意に介していないのか、ゼルダの向かい側に同じようにしゃがんだ。ゼルダは露骨に嫌そうな表情をして顔を背けた。
     彼はゼルダがさすっている親指の付け根を見て合点がいったのか、「ああ…」と呟くように言うと立ち上がった。Tシャツにスニーカーという軽装だからか、彼のフットワークは軽い。正直その動きやすさが今は恋しい。

    「ちょっと待ってて」

     それだけ言い残して近くのコンビニに入って行った。別に少年を待つつもりはなかったが、動く気もしないので結局彼が出てくるまでゼルダはそこにいた。
     彼は絆創膏とペットボトルの水を買ってきていた。

    「これで冷やすといいよ」

     ゼルダに水を差し出し、絆創膏を取り出す。ふと動きを止めると周りを見渡して、ベンチを指差した。

    「あそこに移動しよう」

     ゼルダの手当てのためにわざわざ買ってきてくれた彼の言葉を拒否することもできず、ゼルダは気まずい気持ちで立ち上がる。よろよろと歩き始めると、彼はゼルダの隣に寄り添い、歩行が安定するように肘を支えてくれた。急な接触にゼルダがびっくりして口をぱくぱくさせているうちに「ゆっくりでいいよ」と言われ、拒絶する気力は失せた。
     邪険にしたのに親切にしてくれる彼の真意が分からず、居心地が悪いままベンチまで辿り着き、座る。
     すると彼はゼルダの前に跪いて下駄を脱がせると、親指の付け根に絆創膏を貼ってくれた。その上からペットボトルを当てて冷やしてくれる。
     もう大丈夫だと言おうとしたところを、空気を切り裂く音が響き、上空で花火が咲いた。見上げると、次々と打ち上がり夜空が彩られていく。

    「綺麗…」

     自分の瞳も顔も、花火の色と同じになっているのだろう。ゼルダは食い入るように見つめた。そのゼルダを、少年は下から眺めた。
     やがてクライマックスを迎えた花火が音も規模も大きくなる。打ち終わった頃にはまばらに拍手が聞こえた。空は暗闇に戻り、煙と火薬の匂いだけが残る。ゼルダは現実に返った。
     本当はインパと見ようと思っていたのに見失って、今はこんなところで知らない少年と二人だ。そう思うと急激に虚しくなってしまった。少年はまだ膝をついてゼルダの足を冷やしてくれていた。
     足なんて体の中でも汚れた箇所を人に触らせることには抵抗がある。我に返ったゼルダは、唐突に湧き上がった忌避感に足を引いた。

    「もう大丈夫です」

     早くインパと合流したい。ゼルダは腰を上げた。

    「その足で歩ける?おんぶしようか?」
    「大丈夫です!」

     おんぶなどとんでもない。知らない人に体を預けるなんてできないし、浴衣姿でおんぶをしようものならみっともない格好になってしまう。痛い足を引きずり、一刻も早くこの少年から離れようと急ぐ。
     すると少年が後ろからゼルダをすくうようして横抱きに抱き上げたのだ。

    「ちょ、ちょっと!」
    「その足じゃ無理だよ。余計酷くなるよ」
    「離してください!」

     ゼルダが足をばたつかせて暴れる。大丈夫だと主張するゼルダと、抱き上げたまま降ろしてくれない少年との攻防はしばらく続いた。すると、よく聞き慣れた声がゼルダの耳に届いた。

    「いた!」

     声のする方を見ると、インパがこちらに向かって走ってきていた。

    「インパ!」

     やっと会えた。少年の知らない人物の登場に、ゼルダは降ろされた。ひょこひょことインパに駆け寄る。

    「ごめんなさい、はぐれてしまって」
    「いいんです!それより無事でよかったです!」

     インパは再会を喜んだあと、ゼルダの後ろからやって来る少年を見て怪訝な顔をした。

    「そちらの方は?」

     ゼルダは気まずそうに視線を地面へと向けた。

    「下駄で足が痛んでしまって。絆創膏を貼ってくれたんです」
    「そうでしたか。それはありがとうございました」

     インパはゼルダの嫌そうな顔を見て察したのか、警戒を崩さない。礼を言ってぺこりと頭を下げると、「では、私たちはこれで」と別れの挨拶を口にした。しかし少年はまだ別れる気はないらしい。

    「ねえ、君どこの学校?」

     ゼルダへと向けられた質問だったが、ゼルダは目を逸らしたままだ。代わりにインパが答える。

    「川の向こうの中学校です」
    「あー、あの女子校ね。俺、あっちの男子校なんだよね」
    「そうですか」
    「高校はどこ行くの?」

     何でそんなことを聞かれなければならないのか。インパは眉根を寄せた。

    「中高一貫の女子校なので」

     それだけ言うと、インパがゼルダを庇うようにしてその場を後にした。
     その場に取り残された少年。やがてはぐれていた連れ合いがその少年を見つけ、取り囲んだ。

    「どこ行ってたの、リンク!」
    「花火は終わってしまったゾ!」

     リンクと呼ばれた少年は「あー、うん」と視線をゼルダの去って行った道に向けたまま、曖昧な返事をした。連れ合い同士が不思議そうに顔を見合わせる。

    「リンク、どうかしたの?」
    「何でもねー」

     リンクは片手を軽く上げ、やれやれといったふうに歩き出した。

     しばらく進んで少年と距離が離れてから、インパはこっそりとゼルダに耳打ちした。

    「何だったんですか?さっきの人」
    「よく分かりません」

     ゼルダは正直に答えたが、自分が間違えて少年の手を掴んだのだという事実は話せなかった。
     祭りは人が多いから、運悪く見知らぬ少年に絡まれただけの話だ。ピアスもしていたし、きっと不良なのだ。ゼルダはそう結論づけて、インパと帰路についた。

     まさか自身の通う中高一貫の女子校が突然男女共学となり、隣町の男子校と吸収合併されて再会することになろうとは、この時は夢にも思わないのであった。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤💞💞💞😍🙏🙏💞😍🙏💖💖💖💖💖💖💖💖❤❤💞💞💞💞🙏🙏🙏🙏🙏🙏👏👏👏👏👏🌠🌠🌠🌠🌠❤😍💖💖💖💖💖☺☺🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator