交錯君が好きだよ。
初めて会ったその日から。
私が魔法騎士になったのは二十歳の時だった。
幼い弟妹の事が心配でずっと試験を受けるのを躊躇っていたけれど、上の子達が「大丈夫だから」と背中を押してくれたからやっと受けることが出来た。
大分遅く入ったから上手くやっていけるかどうか心配だったけど、家族の為に働きたい私の意思を、団長が組んでくれたお陰で、討伐系の任務を多くやらせて貰えた。
だから、平民としては中々のスピードで昇進出来て…いるのかな?
入団してから二度目の昇進、それに伴って表彰されることになった時、会場で初めて彼と出会った。
余りにも綺麗で、女性かと思ってしまう。
凛としていてそれでいて柔らかさも持つ声音は何時までも聞いていたくなった。
「エン……エン・リンガード君」
「あっ、はい…!」
彼に見蕩れていて、魔法帝に呼ばれていたことに中々気づけなかったようだ。
醜態を晒したエンを、彼は少し面白がるように見ていた。
表彰式が終わった後、声をかけようと思ったが相手は王族だ。
平民如きが気安く話しかけていい相手では無い。
胸の高鳴りを押し殺して、エンは会場を後にした。
それからも時々、彼を見かけることがあった。
話しかけることはないし、話しかけられることもない。
それで良かった。遠くから見れるだけでも幸せだ。
だから、とても嬉しかったんだ、あの日初めて君に話しかけられたのが。
王選騎士団の選抜試験が終わり、帰ろうとしているエンに彼が声をかけてきた。
「そこのしなびたキノコ君」
「……私、かな…?」
「そう、君さ」
変なあだ名で呼ばれて首を傾げるエンだが、周りに彼と自分以外いないので自分の事だと察した。
「優勝おめでとう、と言っておこう」
「いや、私は大したことは……」
「随分と謙虚だね。しかし、それもまた君の美徳なのかもしれない」
「美徳……!?」
なんとか平静を保とうとしていたのに、褒められたせいで顔がぶわりと熱くなった。
「あの二人も、しっかりとしたサポーターがいたから存分に力を振るえたと私は考える。…一緒に戦える事を期待しているよ。しなびたキノコ君」
彼はフッと微笑んでから去った。
「キルシュ君に…褒められた……」
二人には失礼だと思うが、それが優勝したことよりも嬉しくて、足取り軽く本拠地へと帰って行った。
自室に戻ってきたキルシュはふぅー…と息を吐く。安堵したような。
「よし、初めて話すことが出来た…これは大いなる一歩だ」
嬉しそうに笑って、次はどう話すかを考えるのであった。
これは、脈があるのではないか??
皿の上を転げ回るキノコと格闘しているうちにキルシュはその考えに至った。
このような悪戯をしてくるということは、向こうも私に気があるのでは?考えすぎか?
ふと、彼に視線を向けると一瞬だけ目が合った。
こんな子供みたいな事して嫌われないだろうか…。
話しかける勇気がなくて、きっかけをどうにか作りたくて、彼の皿の上のキノコを魔法で動かしてみた。
すると、彼が此方を見た気がしたので慌てて視線を逸らした。
大事な戦いの前に私は何をしているのだろうか……。