LonelyButterfly先に眠ってしまった彼の解けた紺碧の髪を撫でていたアントニオは、手を離して微かな溜息をつく。
「…ルキノ」
呼びかけても起きることはない。疲れ切っているのだ。
それでも優しく抱きしめてくれている腕の温もりが辛くて仕方ない。
ここは絶海の孤島にある実験施設。
非道な人体実験や、人造生物を生み出したりしている…所謂違法な施設だ。
アントニオは、元は優秀なヴァイオリニストであったが借金のカタとしてここに売られてしまった。
日々受ける薬物実験や改造により、その体には縫い傷が出来、自在に動かせるようになった緋色の長髪には黒い茨が生え、人の形を失いつつあった。
いつまでこの日々が続くのかと絶望していた彼はある日、部屋を移されることに。
今までは他の『モルモット』達と一つの大部屋に入れられていたが、移動先は清潔が保たれたそれなりの部屋で、調度品が一式揃っていたが特に本が多かった。
先に居た住人…ルキノの物だ。
ルキノの容姿を見た時、アントニオは少しばかりの恐怖を覚えた。誰だってそうだ、目の前にトカゲ人間が現れたら叫び声の一つでも上げたくなる。
「シャワーを浴びてくるといい。酷い匂いだ」
それが初めてかけられた言葉であった。
革張りの椅子に座り、読んでいる本から目を離さずに言われた言葉に、アントニオは黙って従うことにした。きっと機嫌を損ねたら殺されてしまうと考えたから。
部屋に併設されたシャワーは、偶にしか浴びれないモルモット用のシャワールームの物より出が良い上、暖かい。
もう少し浴びていたかったが、癖でさっさと出てしまった。
いつの間にか用意されていた新しい服に着替え、ルキノの居る部屋へ戻ってきたアントニオは落ち着かない様子で辺りを見渡す。
「何をしている」
「……!」
その様子を見かねたルキノは椅子から立ち上がり、アントニオの前まで来て見下ろす。
「ここに来たという事は、成功作という事だ。安心して寛ぐといい」
「成、功作……?」
「どういう基準かは知らんがな」
「はぁ……。でも、寛ぐと言っても…」
「本でも読んでいろ」
ルキノは持っていた本を渡し、本棚から別の本を取って椅子に戻った。
アントニオは取りあえずその辺の床に座り、本を開いた。生物学の本で書いてある事は難しく、段々と眠くなっていき……。
髪が長くて細いからと、囲まれ、押し倒され、服を奪われ…。
やめろと叫びたい喉も塞がれた。
痛くて、辛くて……!
「おはよう、よく寝れたか?」
悪夢から逃げる様に目を覚ました時には、自分はベッドの上。しかもルキノに添い寝されていて驚いて飛びのきそうになったが、尻尾でしっかりと抱かれて動けなかった。
「私は…何故……」
「床で寝たら体を痛めるから運んでやっただけだ」
「それは…済まない…。だが何故貴君と?」
「私も昼寝をしたくなったが、お前の分がまだ用意されていないから仕方なしに共寝せざるをえなかった。嫌だったか?」
「いや…問題ない。もう出るから離してくれ」
「もう夜なのにか?」
指摘されて銀で装飾された壁掛け時計を見てみれば、午後11時。