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    hanihoney820

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    hanihoney820

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    円満和解壁崩壊後前提乱寂。
    宇宙に飛ばされそうになる先生と、なんとかしてそれを止めたい乱数のお話。
    エセSF(少し不思議)、暴力表現あり。その他なんでも許せる方向け。

    宇宙に行かなかった。10




    結局、神宮寺寂雷は宇宙に行かなかった。

    ただ、それだけの話だ。




    1




    『皆さん、こんばんは。トキメキハラハライケメンパラダイス学園学長の夢野幻太郎です。本日の朝礼では、皆さんに人生におけるとても大切な三つの袋の話をしたいと思います。まずひとつめは袋小路。まあ駄目なものは駄目なのでさっさと諦めるが吉、ということなのですが──え? おふざけ禁止? 尺が無くなる? 失礼な。小生は至って真面目なんですがねぇ……。とはいえ誰かの真面目が誰かの不真面目であることもこれまた真理。大切なのはそう、ふたつ目の堪忍袋──はいはいすみませんでした。それでは早速本題に入りましょう。改めまして、こんばんは。シブヤディビジョン代表Fling Posseのメンバーであり、小説家の夢野幻太郎です。誠に光栄ながら本日から五週連続、エフエム東都さんにて午後九時のゴールデンタイムに一時間ほどお時間を頂き、こうしてお話をさせて頂くことになりました。題して【夢野幻太郎と歩く宇宙の旅】。というのも、この度小生の作品である【Stella】の長編アニメ映画化が決定致しました。これも偏に読者の皆々様、出版に関わって下さった方々、そしてモデルとなったFling Posseのふたり、飴村乱数と有栖川帝統のおかげです。本当に、ありがとうございます』

    あはは、と声を上げて笑っていた乱数は、挙げられた自分の名前に思わず手を止めほくそ笑んだ。
    午後九時。すっかり夜も更け宇宙の話をするには頃合いの時刻。乱数はシブヤの自分の事務所で、このラジオを聴くのを楽しみに待っていた。なんといっても、映画化だ。しかも初日から全国三百館以上で同時公開! 今までも幻太郎原作の作品がアニメ化したりドラマ化したりはあったけれど、ここまで大規模なものはそうはなかった。なんといっても、タイアップで幻太郎単独のトークラジオ企画が決まるほど。
    今日から五週連続で、幻太郎が宇宙にまつわる話をする。それは今回アニメ映画化の決まった『Stella』という作品が宇宙を旅する元王様、盗賊、科学者を扱った物語であるからだし、なんとあの宇宙航空研究開発機構JAXA直々の申し出でもある。第三次大戦勃発の際、宇宙開発事業は一般人にとってあまり夢のない話に様変わりしてしまった。その印象を変えるべく、是非宇宙は素晴らしく不思議で、とてもおもしろい場所なのだと幻太郎に語り聞かせて欲しいと。そんな依頼の元、このラジオ企画は始まった。

    『第一回となる今回、まずはタイトルにもなりましたStella……ラテン語における【星】のお話から始めていきましょう。星は皆様におきましても、何よりも身近な【宇宙】であると思います。誰しも、夜道をひとりで歩く時、星空を見上げたことがあるのではないでしょうか。金星を、オリオン座を、北斗七星を、探したことがあるのではないでしょうか。またそうでなかったとしても、人生で一度も星座占いに興味を持ったことがない方は、おそらくいないのではないでしょうか。そんな非常に私達に身近な【星】。嗚呼そういえば、来たる八月。数週間後にはもう、しぶんぎ座流星群、ふたご座流星群と並ぶ三大流星群のひとつ。ペルセウス座流星群の到来が迫っていますね』

    本当はデザイン画を描きながら作業用BGMとして聞くつもりだったのだけれど。幻太郎の声は耳に心地よくて、何より普通に話がおもしろくて、つい聞き入ってしまう。まあ締め切りが迫っている訳でもなし、今日はいいか。誰にともなくそんな言い訳をし、乱数はスケッチブックと鉛筆を放り出す。アンティークショップで見つけたレトロな雰囲気がかわいらしい卓上ラジオが垂れ流す宇宙の話に、じっくりと耳を傾ける。

    『そも、皆様は何故流星、星が流れる、という現象が起こるか知っていますか? 流星とは、宇宙空間にあるとても小さな粒、ダストが地球の大気と衝突することにより燃え上がり、光が発生する現象です。そしてそのダストの大きさはせいぜい一ミリメートルから数センチメートルほど。ですからたいていの流星はせいぜい0.2秒程度しか輝きません。その光を見ている内に三たび願いを唱えれば叶う、などと実しやかに囁かれていますが、これでは叶いっこありませんね。けれど人は、そんな一瞬の、またたき程の輝きに願いを託してしまう。奇跡を祈ってしまう。人はあの、儚くも美しい光に、いったい何を見るのでしょう。皆様は流星に、いったいどのような願いを託しますか?』

    宇宙を題材にした物語を書いたからといって、別に幻太郎が宇宙の専門家という訳ではない。だから今回のラジオだって、頭をうんうん捻りながら本を読んだりネットで検索したり本物の専門家に協力を仰いだりと必死の努力をする姿を見ていた。「まろはコッチコチの文系でおじゃ!!」とキれている姿も見た。そしてそんな姿を見ているからこそ、今こうして澄まし顔で流暢に宇宙の話をする幻太郎が、なんだかおかしい。
    愉快になってくすくすと笑いながら、ふと、昔のことを思い出す。昔、と。そう懐かしむには、まだ最近すぎる過去の事。

    波乱万丈悪戦苦闘、悲喜交々の後にH歴は終わりを迎え、言葉はただの言葉となった。積み上げられた誤解や誤解でないものもひとつずつ解かれ、絡み合った嘘や事実や関係性が正しい場所に戻される中。乱数の命も救われ、乱数が裏切った人々は、形はどうあれ最終的には乱数を『許す』ことに決めたらしい。
    言ノ葉党はそれまでの悪事が露見し政権を追われ、乙統女達は雲隠れ。彼女達が今どこで何をしているのか乱数は知らないし、興味もない。ただ今こうして大好きな仲間と大好きな日常を当たり前のように生きていられる。それだけのことが、嬉しくて嬉しくて堪らない。
    だってあの頃は。言ノ葉党、乙統女達の手足として道具のように扱われていたあの頃。乱数は自分がいつ死んでもおかしくない、そんな恐怖と毎日戦い続けていた。どうせ死ぬくらいなら、せめて最期は華々しく。そんな絶望的な覚悟すら決めた。
    たとえばそう、第二回ディビジョンバトルでFling Posseが優勝したあの時。幻太郎や帝統の前では絶対に生き延びてやると、何が何でも助かる方法を見つけてやると、そう言っていた。けれど本当はきっともう無理だろうと。乱数が望む明日を生きることはできないのだろうと、そんな悲観が常に付きまとっていた。
    ならばせめて、宇宙を目指す列車に乗り、そのまま美しく光る流星となって燃え尽きるように。そんなふうに終わりたいと思っていた。死ぬにはいい日に、笑って死んでやる。みっともないところも無様なところももう誰にも見せてやるものか。乱数はただ、乱数を軽んじた奴らに一矢報いて、遥か遠い高み。宇宙から誰も彼もを見下ろして笑ってやる。それでいいと、そう思っていた。
    けれど、それを引き止められた。一光年向こう側に置いてきたはずの、あの男に。

    『ところが、人間というのは本当にたくましいもので。そんな奇跡のような現象を、最近ではどうにか人工で再現できないか、なんて試みもあるそうです。それはとある民間宇宙企業が描く絵図でして。どうにも技術的にはすでに可能で、数年前には実用化に向けた実験を行うはずだったのですが、残念なことに三次大戦前の影響もあり断念。しばらくは凍結されていた企画だそうですが、ここ数年で再び動き出したようで。はてさて、この神をも恐れぬ奇跡の所業。成功するや否や。もし成功すれば、それこそ私達はスイッチひとつでいつでもどこでも流星群を見られるような、そんな夢があるんだかないんだかわからない世界が実現する訳ですね。私? 私ですか……そうですね。非常に期待していますよ。だって【奇跡】が【当然】になるほど愉快なことなんて、そうはないで──』
    「乱数! おい乱数!! いるか!?」

    幻太郎のラジオを聴きながら物思いに耽っていた乱数の耳に、唐突な大声と乱暴に扉を開ける音が鼓膜を破かんばかりの勢いで飛び込んだ。静かな部屋でひとりのんびりラジオを聴く。そんな些細な平穏を打ち砕いた音の主は声から一瞬でわかった乱数のもうひとりの仲間、有栖川帝統で。彼は今、乱数の事務所の入り口で肩で大きく息をしながら酷い顔色をしている。

    「も~なぁに帝統? 今日はせっかくの幻太郎のラジオ放送初回記念日だっていうのにぃ」
    「えっ、あっ、あ、忘れてた!」
    「あ~あ、いっけないんだぁ。幻太郎に言っちゃお、帝統がトンデモなくハクジョーだったんだよ~って。それで? 今度はなぁに? 借金? 誰かに追われてる? またヤバいもんでも運んじゃった?」
    「あっ、そうだ乱数! テレビ! 今すぐテレビ見ろ!!」
    「テレビぃ? そんなに慌てて、なにがあったって言うのさ……」

    帝統が様々なロクでもない理由で顔色悪く乱数の事務所に飛び込んでくるのはいつものこと、だけれど。どこか今回は毛色が違う気がした。何故だろう、不思議とそわそわと乱数を伺う帝統の表情の中に、乱数を案じるような色が混ざっている気がする。不穏なマーブル模様。少し嫌な予感を覚えながら、乱数は少し幻太郎のラジオのボリュームを落とし、帝統に言われるままテレビの電源を付けチャンネルを変える。
    そして、絶句した。

    『──ということで、この度の【ラザロ・プロジェクト】の概要でした。いやぁすごいですね。人間を宇宙船の中でコールドスリープさせ、来たるべき日に備える。確かに今現在の技術では不老不死は難しい。しかし今この世界に存在する素晴らしい人々を、たかが数十年やそこらで失ってしまうのはあまりにも惜しいのではないか。それは優秀な医師や科学者であり、類稀なる才能を持つ芸術家であり、稀有な肉体や美貌を持つアスリートや俳優達。だからせめて、科学が進歩し人間が長い時を衰えなく生きることができるようになるその日まで、今度生まれるかわからない優秀な選ばれし人々を宇宙で保護し、いつか必ず蘇生させると』
    『ええ、そうですわ。私達はこの度のプロジェクトに向けて十人の非常に優秀な人々を選抜致しました。ノブレスオブリージュ、貴族には責任が発生する、という言葉通りではありませんが、私は力を持つ者はそれを大衆の為に行使する義務があると考えています。ですから、ぜひ素晴らしい力を持った彼、彼女らにも、私の理想を理解して欲しかった。そして私の話を聞いた皆様は、快くこのプロジェクトに賛同してくださったのです』

    『ラザロ・プロジェクト』? 宇宙船? コールドスリープ? なにそれ?
    突拍子もない話に言葉を失う乱数の前。遥か遠い画面の向こうで陳列棚の商品のように十人の真ん中に並ぶ寂雷が、インタビューアーのマイクに向けて「このような素晴らしいプロジェクトの一員に選ばれたことを、誇りに思います」と微笑んでいた。

    「は?」


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    hanihoney820

    DOODLE◇ ゲーム「8番出口」パロディ乱寂。盛大に本編のネタバレあり。大感謝参考様 Steam:8番出口 https://store.steampowered.com/app/2653790/
    ◆他も色々取り混ぜつつアニメ2期の乱寂のイメージ。北風と太陽を歌った先生に泥衣脱ぎ捨て、で応えるらむちゃんやばい
    ◇先生と空却くんの件は似たような、でもまったく同じではない何かが起きたかもしれないな〜みたいな世界観
    はち番出口で会いましょう。 乱数、『8番出口』というものを知っていますか。

     いえね、どうも最近流行りの都市伝説、といったもののようなのですが。所謂きさらぎ駅とか、異世界エレベーターとか、そんな類の。

     まあ、怖い話では、あるのですかね。いえいえ、そう怯えずとも、そこまで恐ろしいものでもないのですよ。
     ただある日、突然『8番出口』という場所に迷い込んでしまうことがあるのだそうです。それは駅の地下通路によく似ているのですが、同じ光景が無限に続いており、特別な手順を踏まないと外に出ることができないそうです。

     特別な手順が何かって? それはですね──。




    * * *




     気がつくと、異様に白い空間にいた。
     駅の地下通路、のような場所だろうか。全面がタイル張りの白い壁で覆われていて、右側には関係者用の出入口らしきものが三つに、通気口がふたつ、奥の方には消火栓。左側にはなんの変哲もないポスターが、一、二、三──全部で六枚。天井には白々煌々とした蛍光灯が一定間隔で並び、通路の中央あたりには黄色い「↑出口8」と描かれた横看板が吊られている。隅の方にぽつんとある出っ張りは、監視カメラか何かだろうか。足元から通路の奥まで続く黄色い太線は点字ブロックらしく、微妙に立ち心地の悪さを感じて乱数は足をのける。
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