獪くんの受難「黒死牟が分裂した。あとは任せた」
無惨に突然呼び出されるのにも慣れたもの。しかし、そんな言葉を残し突然消え去るという合わせ技で、分裂ってなんですかと問う暇は獪岳になかった。
ただ、目の前に広がるは黒死牟の鍛錬場で、石柱が倒されているから戦闘後であるのは確か。
ふと瓦礫の合間に伏している人影が見え、駆け寄った。黒死牟の着物であり、その長髪は間違いなく。
「黒死牟様!?大丈夫ですか!?」
一般常識で言えば助け起こすところだが、正直そんなことをして殺されないか怖かった獪岳は、横を向いている顔を覗き込んだ。
目がなかった。いや、正確には二つしかない。炎のような痣があるのは同じだが、見たことのない物憂げな美丈夫が倒れている。しかも、この匂いは人間のものだ。
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