「色魔」 砂利道がじわじわと暑い。梅雨の晴れ間、どこからかコロコロと蛙の鳴き声がする。
ようやく目当ての文化住宅に至り、訪う。
「久しぶりだな、オーエン! 俺だ、いるか?」
少しの間があって、内から密やかな物音がした。からり、と戸が開く。
「……うるさい」
銀灰色の髪に、不健康そうな青白い頬の青年が、素足のまま[[rb:三和土 > たたき]]に降りてきていた。
単衣を着流した上から、紫陽花の柄の女物の絽を引っ掛けているのである。なんだか寝起きみたいな雰囲気で、目尻の端だけがほんの少し紅を掃いたようになっているのを、淡い縹色の絽地と薄暗い空気が引き立てている。
彼は眉間に皺を寄せてカインをねめつけると、「さっさと[[rb:短靴 > ブーツ]]を脱げよ」と顎をしゃくった。上がり框に腰を下ろして言う通りにするのも早々に、オーエンはカインの帽子を奪い取り、腕をつかんで廊下を引っ張っていく。応接室に通されるのかと思いきや、脇の和室に突き入れられた。
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