商店街の一角のカフェチェーン、2階窓際の席から、クースカは通りを行き交う人々を見下ろしていた。今年、いつまでもしつこかったカラフルな季節は気がつけばとうに過ぎ去り、皆一様にダークカラーの防寒具に身を包んでいる。
そんな暗い海の中を、ド派手な蛍光色のダウンベストを身に着けた魚がすいすいと泳いでくる。本日の待ち合わせ相手だ。
程なくしてコーヒーカップを片手に現れ、悪びれた様子もなく向かいの席にどすんと腰を下ろした。
「遅刻するときは連絡。ほんとに社会人?」
「ごめんて〜。この商店街友だち多くって、何回も捕まっちゃって」
「そんなに派手だからでしょ」
「ん?関係ある?」
約束の時間に5分ほど遅れてきたジャロップは、ふわふわの頭の上にハテナマークを浮かべた。カラーリングが熱帯魚みたいだなと思う。喋らないだけ熱帯魚のほうがましだ。
さて。と、やかましい熱帯魚は姿勢を正し、神妙な面持ちでクースカを見つめた。
「あのさクースカちん。オレィ知ってるんだけど。こーゆーとこに改めて呼び出すのって、良くない話のときっしょ」
「へえ、察しが良くて助かるよ」
「わー!やっぱり!別れ話だ……!」
いつもの茶番に、近くの席の女性ふたり組が盛大にむせている。声が大きすぎたのでちょっと小突いてやると、今度は悲鳴があがった。
「ハイハイ今までありがとう楽しかったよこれからは友だちでよろしく。それはさて置き」
「置かないで。よっこいしょ」
「戻さないで。めんどくさいな」
まるめて遠くに投げ捨ててやった。見事な遠投だった。横目で追うジャロップにクースカは言う。
「ほら、取っておいで。ASAP」
「断る!」
「ならはやく出る準備してよ……何でラージサイズオーダーしてるの?」
「えー、もう行くの?ちょっとお話ししよー?」
「あのねえ……」
文句を言いかけて、やめた。そもそも今日のプランナーはジャロップなのだ。好きにしたらいい。
今日はここで落ち合い、とあるブランドのポップアップを覗き、レボリューション楽器で買い物をした後、夜風に向かうことになっていた。このままじゃリスケになるだろうが、まあ、買い物はいつでもできるし、とクースカは思う。それにジャロップとの雑談は嫌いではない。相手を退屈させない話術には感心すらしていた。