初春限定ガレット・デ・ロワ事件「ガレット・デ・ロワって、あのフランスのお菓子だろ?」
いつもは眠たくなる談話室の暖房も、貸し切り状態だとちょうどいい。広い机には教科書とノートが広げられている。純は数学、じぶんは英語だ。おなじ科目をやると、進捗が気になりはじめるのであまりしない。
――speculate、思索する。Have confidence in、信頼する。
「そうそう、それみんなで食べないかって」
俺は頻出単語をまとめていたノートから顔をあげた。帰省は三が日が終わったら正月気分を早めに切り上げて純と寮に戻ってきた。冬休みが終わって授業が再開すると、休みボケ防止として複数の科目で学力テストがあるのだ。目下その対策中だ。
先輩の噂ではそれほどの難易度ではないと聞いているが、なるべくなら新年早々に授業でつまずきたくはない。おなじステアケーサー候補の優一は、たまに教師からネチられている。……教師の側もべつに授業中に問題行動を起こしているわけでもなく、たまに寝てるくらいの生徒に絡むのはどうかと思うが。優一の壊滅的な成績は、本人の自己認識からして勉強時間ゼロで再試に突っ込むレベルなのでいろいろ別次元ではある。説明を付け加えておくなら、優一は教師の指摘もぜんぜん堪えてない。ただステアケーサー候補に入ると同級生だけでなく先輩からも一目置かれるが、こと教員相手にも――実技の関係ない一般科目の担当にも――注目されているのはじじつだった。
20210