見上げれば星は同じ (天超え1話)この頃、なんだか空気がピリピリとしていて気持ちが悪い。
勇者であるアンルシアの、魔族がアストルティアにやってきたのをはっきりと感じ取れるほどの敏感さはないが、今いる大陸全体の雰囲気が変わったことくらいはわかる。
聖者たちの助けを借りて修行するうちに、普通の人よりも常軌を逸する程度には感覚が鋭敏になったためだ。
そんな折に、日頃の習慣で、冒険者チームの新しい依頼や、魔物討伐依頼の募集が来ていないかを確かめに、グレン城下町の下層を歩いていた。
そうして、今までは開いていなかったと思っていた西口の側にある井戸の蓋が開いていることに目がいく。
井戸というのは、実は意外と厄介なものだ。
逃げ場を求めた末の凶暴な者が潜んでいたり、冒険者相手に腕試しにと暴れ回る者もいる。
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