飛び交う異国の言葉、客引きの群れ、煌めくネオン。承太郎は出張で中国に来ていた。
仕事も終わり帰国しようしたところ、飛行機のトラブルにより明日まで待機させられることになったのが昼間の事。何処も予約で埋まっている中、ようやくとれたホテルは空港から離れた場所だった。その場所へ着く頃にはすっかり辺りも暗くなって、一夜限りの相手を探しに出歩く人々で賑い、ただれた情緒を映し出していた。
しつこい客引きを振り切った承太郎は、早々に室内へ入りほっと一息をつく。体を沈めるように預けたソファは、なかなか座り心地が良くそのまま眠ってしまいそうだ。重力のまま四肢を放り出していると、まだ夕食を食べていない事に気が付いた。今の今まで空腹を感じなかったのに、気付いた瞬間急に腹が減ってくるのは人間の本能なのだろうか。
1939