未明の森覚えていて。 想い出して。
どうか、わたしをー
あの日々をー
空港の到着ロビーに大きく掲げられた時計の針は、間も無く午前十時を示そうとしていた。
事前に聞かされていた到着予定時刻は九時四五分。電光掲示板に遅延の案内は出ていない。定刻どおりに到着したのであれば、飛行機を降りた客たちが、手荷物を受取り、到着ロビーに出て来るのはもうそろそろだろうか。
学校という学校が夏休みに入ったこの時期、いつも混雑している空港はひと際賑やかだ。
家族か、恋人か、友人か。到着ロビーには、何処かから来る誰かを待っている人々がひしめきあっている。皆一様に落ち着かない様子で到着口を見守るその姿は、何処か滑稽だ。
尤も、傍から見れば、俺もそうした一人のように見えているのだろうが。それも、見ている人が居れば、の話だ。恐らくは、この場に居る誰しも、待ち構えている誰かのこと以外は何も気にしては居ないだろう。
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