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    syunkyo_t

    @syunkyo_t

    ついったーにそのまま流しにくい、ライ修羅の絵やマンガを漂流させています。
    勇尾はわりとまともです。

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    syunkyo_t

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    マニクロ・アマラエンド後、妄想与太話。
    魔界で暮らす人修羅が、閣下からタイトル通りの指令を受ける、プロローグ。
    世界観・キャラ共に、ゲームにはない設定があります。ご注意ください。

    【注意】
    ※完結できる自信がないので、中途で終わっても許せる方だけお読み下さい。
    ※今回は、ライドウの出番なし。続けば、ライ修羅になる予定。
    ※ルイ→修羅っぽい表現あり
    ※色々下品

    混沌王ちゃまのハニートラップ大作戦(仮) 1


     厄介ごとが、歩いてやってきた……。
     金髪碧眼の堕天使が、似つかわしくない満面の笑みで現れた瞬間から、これから降り注ぐであろう災難に人修羅は身構えた。生憎、この手の嫌な予感は外れた試しがない。

     悪魔に身を窶して数十年。魔王ルシファーから暴投される、無茶振りと理不尽には辟易していた。
     数え上げればキリがない……「天使三万の軍団を、ボルテクス界から連れ添う仲魔のみで殲滅しろ」だの、「敵方につく歴史上名のある英雄たちを、表舞台に出る前に暗殺しろ」だの、「カオス勢のプロモーション活動の一環として、異世界へ赴き爪痕を残してこい」だの……。気乗りしない殺戮、破壊、蹂躙、エトセトラ。それらすべてを悪態と舌打ち一つで了承し、遂行してきた自分は本当に偉いと思う。
     ゆえに不本意ながら、大抵の悪事であれば受け止められる度量と気概を身につけてしまった。従順な中間管理職としてのレベルは、そろそろカンストを迎えてもおかしくない。
     そんな人修羅でさえ、今回の上司からの指令は耳を疑うものだった。


    「お前に、童貞を奪ってきて欲しい人物がいる」
    「は?」
     ノックも無しに部屋へ踏み入って来るなり、横暴な青年ルイ・サイファーは前置きなくそう告げた。
     アバターを切り替えるように、出向く世界に合わせて姿を変えているらしいルイは、本日はキャスケットを被った年若い男の姿をしている。ゴルフに興じる英国紳士といった装いの彼は、大正時代専用のよそゆき顔である。
    「人修羅よ、これはお前にしか成し得ない大事である……帝都の守護者の童貞を奪え」
     およそ紳士らしからぬ発言が繰り返された。
     齧り付く予定だったトーストを皿に戻し、人修羅は姿形だけはお綺麗な青年の言葉を脳内で咀嚼する。
     流暢な日本語だが、ルイは日本人ではない。間違った言葉の使い方をしている可能性が高い。むしろ、そうであって欲しい。でなければ、混沌王として武名を轟かせる自分に下す命として、お門違いも甚だしい。
    「……ちょっと、何言ってんのかよく分かんないです」
    「それはそうだろう。説明はこれからなのだから」
    「あと、ノックぐらいしてください」
    「見なさい」
     要望は当たり前のように無視された。
     白いクロスの敷かれたテーブル上に、ルイは胸ポケットから取り出した二枚の写真を置く。並ぶ食器を避け、目の前に置かれた紙片には、眉目秀麗という言葉がよく似合う、古風な学生服姿の青年が写っていた。白い肌と黒い学生服のコントラストが効いている。そのせいで、唇の血色がなければ、カラー写真だとは気付かなかったろう。
    「十四代目葛葉ライドウ、大正二十年の帝都で悪魔召喚師をしている男だ。帝都守護の要であり、この時代……つまりは、特異点を押さえるための鍵となる人物だ」
     重要な職に就いている割に、若い。二十代前半……いや、学生服を着ているのだから、十六の肉体のまま時を止めている人修羅と、そう変わらない年齢かもしれない。あくまでも見た目だけの話だが。
    「帝都の守護者たるその影響力を削ぐためにも、お前にはこの男の童貞を奪ってきて欲しい」
    「いや、何でだよ⁈」
     説明を聞いてもまったく分からない。
     幸いなことに、咄嗟に口を突いて出たぞんざいな物言いにも、上司は怒った様子を見せなかった。むしろ「元気がいいな」と仔猫の成長を見守る飼い主のように、にこにことしている。反応を面白がっているようだった。
    「悪魔召喚師の中には、悪魔に魂を取られないようにと、願を掛けている者がいる……己の純潔にな。願いというのは、あながち馬鹿にできないものだ。事実、帝都守護者にも慣わしとして受け継がれてきたその願掛けは、年を経るごとに強力なものとなってきている。今や大震災を封じる程の願いは、もはや呪いの域だ」
    「へぇ……」
    (つまりこいつは、童貞を国に捧げているのか……。名前も知らない人間たちのために、自分を犠牲にするなんて。馬鹿な奴)
     写真の中の人物に、もう一度目を落とす。白磁の肌を切り裂くように伸びる、鋭角なもみあげが印象的だ。正直、理解に苦しむセンスだが、顔の良さで中和されてしまう。「私に負けず劣らずの美丈夫だろう?」と、いつの間にか隣に腰掛けて感想を求めるルイは、まるで見合い相手でも見つけてきたかのように得意げだ。悪気のなさが、心底鬱陶しい。
     それでもルイの言う通り、見目の良い悪魔には慣れ親しんできた人修羅でさえ、一瞬息を呑んだくらいだ。稀に見る美人。だが、どう見ても男だ。
     もう一枚の全身像からは、均整の取れた体格の良さがうかがえた。よくよく見れば、立派な日本刀を帯刀している事からも、足腰は丈夫そうだ。足下にいる黒猫や、背景の家屋との対比から察するに、この時代の人間にしては長身に見える。
     そして何度も確認するが、まぎれもなく男である。
     性別・男、なのである。
    「興味が湧いたろう?」
    「いやいやいやいやいやいや」
     遅れてきたイヤイヤ期だろうかと、上司は首をかしげている。性差に頓着しない悪魔はザラにいるが、ルイもその類なのだろう。
    「次元を股にかけ、世界を見てきた私が推す男だぞ。いったい何が気に入らない?」
    「いやいや、おかしいでしょ! ハニートラップを仕掛けたいなら、サキュバスとかリリムとか、他にいくらでも適任がいるでしょう⁈」
    「無論、すでに試みたとも。だが、葛葉ライドウは帝都守護を任じられた召喚師だけあって、女性悪魔に対する理性と警戒心が強くてね。すべて失敗に終わってしまった。ちなみに人間の女性も同様。暖簾に腕押し、糠に釘、それと……あともう一つ、何だったか」
    「…………豆腐に鎹」
     それだ、とばかりに指を鳴らし。金髪の上司は、アイドルのお手本になりそうなウィンクを飛ばしてきた。絶妙にウザい。同時に、日本の諺まで巧みに操る魔王に、これはもう言い間違いではないのだと思い知らされる。
     人修羅は朝食を諦めて、深々と溜息をついた。
    「……この、葛葉という奴は、女性に対して不能なのでは?」
    「その可能性も考慮して、あらゆるタイプの男性悪魔も送り込んでみたのだが……。皆、悲惨な末路を辿ってしまった。あれは可哀想なことをした」
     言葉とは裏腹、哀れだなどとは露ほども面に出ていない上司に代わり、マガツヒの海に還ったであろう悪魔たちに同情した。魔王様の気まぐれで、夜毎童貞を食われそうになっている、葛葉ライドウという人間もなかなか気の毒だ。なおさらその攻防戦に、自分が送り込まれるのは解せない。上手くいくわけがない。
     なぜなら性に対する欲求を、己ほど疎ましく感じている悪魔は、そうそういないのだから。
    「オレには無理です。アンタだって、知ってるでしょう」
    「抱く側ではなく、抱かれる側だとしてもか? 怖気付く必要はない。お前は才能溢れる悪魔だからね、一度覚えてしまえば、きっと幾らでも高みに上れるはずだ」
    「そんな才能いらねぇ……っ、です。ていうか、いい加減にしてくださいよ。ハラスで訴えられたいんですか?」
    「成程、この私に決闘裁判を挑むつもりかね? 良かろう、大掛かりな興行が打てそうだ」
     なぜ、そうなる……。
     このクソ魔王には、まともな言葉は通じない。腕まくりをして、やる気アピールをするルイに、人修羅は「やめてください」と懇願した。

     いつからそうなのか、自分でもよく覚えていない。覚えていないということは、おそらく人間の頃から引き継がれた性なのだろう。
     性的な視線を向けられたり、接触を求められると、相手に対して嫌悪を通り越して憎悪を抱いてしまう。無理にでも肉体を繋げようと試みる者がいれば、文字通り瞬殺してきた。他人と触れ合うなんて、いくらマッカを積まれても御免だ。
    『混沌王は誰とも寝ない』……これは、魔界の悪魔なら誰でも知っている噂であり、真実である。
     そう、人修羅もまた純潔を守り続けている、キラキラの童貞なのであった。

    「特異点攻略に葛葉ライドウが邪魔なら、殺してきますから」
     自分に似合うのは、そういう類いの汚れ仕事だ。
     だがルイは、是としない。
    「駄目だ。私が欲しいのは、あれの魂だ。生きたまま堕とさねば意味がない。彼の次元を押さえておきたいのは、そのための足掛かりにすぎない」
    「はぁ、そうですか」
     ライドウをこちら側に引き込む手順の内に、「奪・童貞」を組み込む了見には、納得できないままなのだが……。最終的な目的は、使える手駒を増やしたいのだと理解した。
     心の内で舌打ちする。
     この上司は何故か時折、日本人の男子に執心する傾向がある。自分もその一例ながら、巻き込まれる方には、まったくもって厄介な性癖であった。
    「だったら、アンタ自ら誑し込めばいいんじゃないですか?」
     オレを問答無用で悪魔へと堕落させた時のように、と。さすがに続けられなかったのは、声の調子が、思いのほか拗ねたように響いたせいもある。
    「おやおや」
     飲み込んだ言葉を掬い上げるように、美貌の上司は慣れた手つきで、人修羅の顎をやんわりと掴み上げた。なるほど、これが顎クイというやつか、などと冷静な部分が判断する。同時に、気やすく触るなとも。なのに抵抗する間も与えられず、自然と至近距離で目を合わせられていた。
     くっきりとした同心円の虹彩が織りなす瞳が、鼻の先で見つめてくる。感情の薄い瞳もこの異様な距離感も、純粋に気味悪い。
    「嫉妬したのか?」
    「しとらんわ」
     繕いは剥がれ落ち、嫌忌剥き出しの食い気味な返事にも、ルイは楽しそうに目を細める。
     湧き出た微かな恐怖に対する虚勢を、嫉妬を隠したい誤魔化しと勘違いされた気がする。冗談じゃない、やめてくれ。しかし訂正するのも面倒だ。
    「実は私も身をもって試みたのだが、返り討ちに遭ってしまってね。分霊を、彼の仲魔にされてしまった」
    「何やってんすか」
    「葛葉ライドウを誑し込み、童貞を奪い、ついでに彼の召喚管に捕えられた私を解放してくれ。頼んだぞ」
    「ちょっと! さりげなく要求吊り上げるのやめてくださいっ!」
     話にならなくて、頭痛がしてきた。
     アホな上司の尻拭いを、どうしてこのオレの尻でもって納めねばならんのか。そんなことをするために、混沌王になったわけじゃない。
     喉が張り裂けそうなほど「ふざけんなッッ‼︎」と叫んで殴って断れたら、どんなに楽だろう。上下関係を重んじる、社会性のあった元人間の気質を色濃く残す自分が呪わしい。わりと気持ちを溜め込むタイプだったのも、宜しくない。
    「目が死んでいるな、大丈夫か?」
    「…………」
     テメェのせいだろ、テメェの。
     坊ちゃまも爺さんも、ここまでの無茶振りはしない。だが、この浮かれたゴルファーもどきは駄目だ。ルシファーの面汚しだ。頼むから、誰かこいつを始末してくれ……。
     そうだ。いっそ今ここで、この手で、この碌でもない魔王を消してしまえば、最小限の犠牲で済むんじゃないか?
     するとこちらの殺気を感じ取ったのか、絵画から飛び出してきたような見目麗しい上司は、己の武器を最大限利用する方向へ舵を切ってきた。
    「混沌王・人修羅……お前は美しい」
     人修羅は彼に顎を掴まれたまま、親指の腹で唇をなぞられる。愛を囁くように、親密に。堕天使の信者ならば、嬉しさのあまり失神していたかもしれない。
     だが、人修羅にとっては、ひたすらに不気味な行為でしかなかった。表皮を駆け抜けた悪寒に、勢いよく全身が粟立つ。
    「っ」
     これがルイ・サイファー特有の、部下へのごま擦りスキンシップ以外の意味は持たないのだと、そう心得ていても。接触に対する拒否反応で、電流のように走った緊張で硬直してしまう。
    「お前は、私の最高傑作だ」
     水底に沈んだように、上司の声が遠い。
     この世の最低を掻き集めて、飲まされ続けているようだ。どんどん気分が悪くなる。
    「お前の存在に、心揺さぶられない悪魔召喚師はいないだろう」
     たわんだ魔王の声に、脳が揺さぶられて酔いが回る。吐き気が酷い。指先の震えを、もはや隠せていなかった。
    「十四代目葛葉ライドウとて、例外ではない。お前の魅力に抗える者など、どこにもいない。この私ですら、お前の信奉者なのだから」
     どうだっていい……どいつもこいつも、例外なく、最悪だ……っ!
     ぐるぐると回る思考に、目眩を起こす。呼吸が早くなっているのか、胸が苦しい。
     目をかけてくれているのだと理解はしている。感謝もしている。だから、これ以上は何もいらない。さも親しげに頬なんて撫でなくていい。もっと淡々と接してくれ。死人のように冷たい指が、疎ましい。上司と部下に最適な、距離が欲しい。
     毛穴からどっと噴き出す冷や汗を感じながら、一刻も早く、不快感が立ち退いてくれることを願う。身じろぎもせず、無表情に、押し黙るよりほかなかった。
    「だからお前に託すのだ。他ならぬお前に……私の愛しい、悪魔よ」
     手を取られ、触れるだけの口付けを指先に落とされる。心臓をギュッと握り潰されたような明確な恐怖に、脂汗が止まらない。
    「ッ…………はは……っ、買い被り、すぎ」
     絞り出した笑いは、渇いた喉にねっとりと貼りついた。
     自分が接触に不慣れどころか、過度に与えられれば死に体になることを、今まさに目撃しているはずなのに。ルイは温度のない冷めた目で見つめては、平気で触れてくる。効かない荒療治に、神経だけが摩耗していく。
    「   」
     とりあえず離れて欲しいと願った声は、音にすらならなかった。
     辛い、苦しい、痛い、恐い。それでも許されない。
     自分には、いっさいの拒否権なんて存在しない。それが、魔王ルシファー手ずからに導かれ、選んでしまった己の運命だ。
     身に余る力の代償として手に入れた自由は、牢獄よりも窮屈で、過酷だ。
     意識が遠退きそうな耳鳴りに、いっそ殺せと懇願する。
    「お前に絆されない男ならば、私も諦めがつく。その時は、己が意志の逝くまま……好きにするがいい」
     ようやく身を離してくれた堕天使から与えられたのは、ささやかな選択の自由だった。
     金縛りから解放された人修羅は、そのまま重力に引かれるように、ぐったりと前のめりに項垂れた。
    「……っ、ッハァ!」
     この十年で、一番消耗した気がする。
     全身の空気がすっかり抜けきるような、深い溜息からの深呼吸。額から流れ落ちた汗が、床に黒い染みを作る。
    「はぁ……」
     どうして、オレなんだ……。
     まだ震えの収まらない両手で、両の瞼を押さえた。
     ルイは大切な事を忘れている。
     自分はけして、美しくなんてない……。

     確かに見た目は、十代のうら若き少年悪魔そのものだが、魔界へ来てからすでに五十年以上経過している。中身はすっかり枯れた、還暦を迎えた爺さんなのだ。
     この戦闘しか脳のない童貞ジジイに、美青年モボ童貞を誑かして股を開けだと? 悪魔になるより、グロテスクな悪夢だ。
    「……ウッ」
     忘れかけていた吐気が、迫り上がってきた。
     せっかく用意されたホテル並みのブレックファーストも、もう口にする気にはなれない。ついでに向こう十年は、このキャスケット上司の顔も見たくない。はよ帰ってくれ。
     祈るように項垂れたまま、人修羅は与えられた命令に肯定の意は示さず、とにかくやり過ごす事だけを考えていた。どの道最後は、首に縄を付けてでも連れていかれるなら、できるだけ時間を稼ぎたい。正直今は、何をする気力も残っていない……。
     しかしその大人しい姿が従順に映ったのか、気侭な上司は「了承」と捉えたようだった。
    「では、さっそく向かおうか」
    「…………はっ?」
    「善は急げと言うだろう。お前の支度を手伝ってやるために、わざわざ私の方から出向いたのだからな。感謝するといい」
     頭沸いてんのか、このクソキャスケットは。どちらかと言わずとも、この謀りは善ではなく悪だ。オレにとっても、葛葉ライドウにとっても、大怪我間違いなしの災害だ。そしてこの魔王は、天変地異の権化だ。
    「気分が悪いので、今日は勘弁し……」
    「可愛い私の混沌王を、手ぶらで行かせるわけがないだろう? ソーマとイワクラの水なら潤沢な備蓄があるぞ」
    「……ソレハドウモ、ゴテイネイニ」
     こういう時、自分の意見が通った試しなどなかった。
     白目を剥く人修羅をよそに、ルイは頼んでもいないのに勝手に旅支度を始めていた。巨大な棺桶のようなクローゼットを漁っては、片手持ちの古びたトランクの中に、衣装やら小物やらを詰め込んでいく。意外と手際がいい。この魔王、旅慣れしている。
    「暇ならば、そこにある鞄の中を確認しておきなさい。必要となりそうな道具を手配しておいたから、要るものがあれば持って行きなさい」
    「…………」
     こうなってはもう、誰もルイを止められはしない。魔界もこの城も魔王のテリトリーだ。抵抗するよりこの場は大人しく従い、途中で逃げを打った方がまだ勝算はある。
     山羊のシルバーモチーフの付いた、黒革の鞄の中身を素直に確認し、しかしすぐに人修羅は後悔した。無言で蓋を閉じる。
    「噂では、葛葉ライドウのファルスはかなりの大きさという。処女のお前が痛い思いをしないことを願うよ」
    「…………」
     限界だった。
     殺意が絶望を凌駕する。
     人修羅はいかがわしい玩具でパンパンに膨らんだ鞄を抱えたまま、気配を消してバルコニーに出た。魔王の城の上階に吹く風は、今日も秋風のように爽やかだ。解放感に思わず笑みが溢れる。
     白亜の手摺りによじ上り、全身に風を受けた。
     ここはカグツチ塔の中階と同じくらいの高さはある。落ちればまず、いくら自分でも無事では済まないだろう。そんな生命の危機すら、今は瑣末な問題に思えた。
    「さよなら、オレの忠誠心」
     そうして人修羅は、己の身を投げる代わりに、鞄の中身を宙に向かって勢いよくぶちまけたのだった。胸に秘めていた、積もり積もった怨嗟の念と共に……。
    「クソキャスケットは、コロスッ! いつか絶対、コッローーーースッッ‼︎」


     その日、魔界の空に、混沌王の恨み節がこだました。
     さらに同時刻、魔王城の庭の一画には、アナル拡張玩具とローションの雨が降り注いだという……。




                                         つづく
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