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    マチ乃

    @MACHINO_URYYYYY
    @xxx_nomatch
    女と女の間にある巨大感情とかあられもない姿の女とかそういうのが好き

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    マチ乃

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    CoCうちよそ百合 の、夢の話。

    塩谷沙都の煉獄 * * *




     塩谷沙都は夢を見ている。




     五月にしてはやけに蒸す夜、何やら甘ったるい花の匂いを嗅ぎながら、コインランドリーで洗濯が終わるのを待っている。
     そういえば今日は自分の誕生日ではなかったか。いや日付が変わってすでに昨日か。二十代最後の年だね、と人に言われたのが去年のことにも随分と昔のことにも思える。
     自分は何歳になったのだろう。コイン式洗濯機の中でぐるぐると回る衣服を眺めながらぼんやりと考えて――洗濯槽の中でかき回されているミンチ肉に気が付いた。そうだ、この血まみれでぐちゃぐちゃになった肉の塊を取り出さないといけないのだった。
     原型のわからないほどに細かく刻まれた肉を取り出すのには苦労した。何せ掻き出すための自分の腕が端からぽろぽろと崩れてしまってミンチ肉と一体になってしまうのだ。苛立ちながら肉と格闘していると、後ろから呼びかけてくる者がある。

    「何スか」

     不機嫌な声音と共に振り返ると、ニタニタと笑った女―顔も身体もよく見えないがおそらく女だろう―が、フォークに刺した肉をこちらへ差し出していた。はて、と洗濯機に目をやるとそこには何も無く、自分は壁にもたれかかって床に座り込んでいたのだと思い出した。自分達はアングラ趣味の好事家に囚われていて、この女の肉を食すことが解放される条件だ。時系列は曖昧だが、どうやらそういうことらしい。
     女の顔は不明瞭にぼやけているが、笑いの形に歪んだ唇が震えていることだけははっきりと理解できた。揚げられたらしい肉は熱く表面でぱちぱちと油が爆ぜている。ぐ、と喉が鳴り、胃液が込み上げてくる。右腕と右脚から血を滲ませた女が、早く食えと言うように身を寄せてくる。食欲など到底湧くはずもない。けれども、この肉の塊を食べ切らなくてはいけないのだ。そう決めたのは他ならぬ自分なのだから。
     目が泳ぐ。ざあっと血の気が引いて、引き締めていた唇が冷えているのを感じる。とうとう観念して口を開ける。緊張感からかまぶたがピクピクと痙攣した。思わず目を瞑る。

     一瞬の瞬きの内に、景色はまたも一変している。目の前には自分の顔があった。よく見慣れた顔の、上気した頬とぎらついた瞳に背筋が粟立つ。組み敷いてくる力は強く、肘から先が無くなった腕では抵抗すらできない。そうだ。何ヶ月もの間、自分と同じ顔かたちをした何者かに犯され続けていたのだった。黴のような苔のような、湿った何かに身を埋めて、起きている間は無理やりに身体を開かれる。やがて体力が尽きて気絶するように眠りに落ちて、性器同士が擦れて肉がぶつかり合う音で目が覚める。それを延々と繰り返して、そして―――怒号と共に天井から落ちてきた女に手を引かれて、いつの間にか夜の廃村にいた。
     女は他愛のない会話の相手であり、害成すものを討たんとする騎士であり、睦言を囁く恋人であり、愛し子を胸に抱く母親であった。季節はいつからか夏になったようで、生ぬるい空気に青臭い緑の匂いと線香の煙が混ざっている。並んで歩いていたはずの女はいつの間にか自分を背負っていた。吐息の音は荒く、視界がいやに揺れる。どうやら何かから走って逃げているらしいことがわかる。はて、何に追われているのだったか、と首を傾げた瞬間に女の背から振り落とされる。
     派手な音を立てて地面へ転げ落ちた自分へ、女は「にげて」と一言漏らして塵になってしまった。

    「■■■」

     掠れた声で呼んだ名前に応える音は無い。からからに乾いた口中に反して、冷や汗で濡れた背中と義肢の接合部がぬるつく。がくがくと震える足を引き摺って、女が立っていたはずの場所へ移る。床に散らばった塵を搔き集めたら、あるいは蘇るかもしれない。



     ―サトさん。



     義肢の指はどうにも上手く動かず、塵を集めるのに難儀する。土間の床の砂埃なのだか、女を形作っていた塵なのかの判別がつかない。

    「■■■、■■■」


     ―サトさん、さとさん。


     風に飛ばされぬように身をかがめて寄せ集めては、手を動かした時のわずかな空気の揺らぎで散らしてしまう。それを繰り返す。何度も、何度も同じことを繰り返して、いつの間にか自分の身体が端から細かく砕けて、女の塵と混ざってしまっていることに気付く。
     

    「沙都さん!」

    「いつき?」


     * * *

     
     塩谷沙都が目を覚まして一番最初に見たものは、気遣わしげに自らを見下ろす清原樹だった。両の義手で塩谷の肩を掴んで揺さぶっている。
     塩谷が寝起きで呆けた顔で辺りを見回すと、見慣れた部屋が目に入った。彼岸の街に構えた自分達の住処だ。空いた窓からは夕日が差し込み、室内を朱に染めている。よく知る空間の中で自らを労わってくる清原の声音に、ようやく"ここ"が現実だと思い知る。
    「怖い夢でも見ました? ……ずっとうなされてたんですよ」
    「起こしてくれたんだ、ありがと。うーん、何か変な夢見てた気はするけど……よく覚えてないや」
     寝汗で濡れた着物と、靄のかかったような不快感のある頭の重さから、何らかの悪夢を見たのであろうことはわかる。ただ、内容までは思い出せなかった。
    「……うわ、汗ヤバ。ちょっと着替えるわ」
    「というか、一回お風呂入った方が良いんじゃないです? 冷えちゃいますよ」
     窓から吹き込む風は冷たく、汗で濡れた身体の体温は確かに奪われてしまいそうだ。
    「あー、そうね。そうするわ。……一緒に入る?」
    「お一人でどうぞ。替えの服は用意してあげますから、さっさと行ってくださいな。風邪引いても知りませんよ」
    「あはは、愛が刺さるなあ」
     笑いながら塩谷は立ち上がり、浴室へ向かうその足で窓を閉めた。今日は祭りだったろうか、どこかから白檀の香りが漂っている。ふと、塩谷は足を止めて清原を振り返った。
    「いつき」
    「どうしました?」
     首を傾げて問うてくる清原の元へ戻り、その身を抱き寄せる。やわらかな感触。失われた両腕と両脚には硬い義肢が繋がっているが、その扱いにも慣れたようで、背中を撫でてくる手つきはぎこちなくも優しい。
    「……大丈夫ですよ、ちゃんといますから」
    「ん、」
     頭の底にこびりついた、震えて笑う女の影を振り払うように首を清原の肩へ埋め、抱き締める力を更に込める。もう、ここには何も恐れるものは無いのだ。
    「いつき」
    「なんですか?」
    「愛してる」
    「ふふ、なんだか随分甘えたさんですね。……早くお湯を浴びてらしてくださいな、もう」
    「うん、……戻ってきたらまたハグして」
    「はいはい」
     背中を叩く手に促されて、再び腰を上げる。塩谷は今度は振り返らず、調子はずれな鼻唄を歌いながら浴室へ向かっていった。
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    マチ乃

    DONE実姉とかつて同居していた40代女性の煙草に、21歳の女子大生が火を点けてあげる話。

    ・百合のようで百合じゃないちょっと百合っぽい空気
    ・軽い食人行為の描写を含む

    ※CoC自探索者と他PLによる探索者の二次創作※
    ハートに火を点けて「世を儚んだのでこれからハマさん撃ち殺して、そんであたしも拳銃自殺する」

     塩谷芙蓉はソファに座るなり右手に拳銃を構えて、濱マリアにそう告げた。
     白い綿のブラウスに黒の別珍のロングスカートというガーリーな服装に対して、右手に握られた黒鉄―鈍く光を反射するリボルバーはアンマッチなようでいて、いやに似合っているようにも見える。
     マリアはまず芙蓉を横目でちらと見やり、ロング缶の発泡酒で口を湿らせた。素肌に下着と、部屋着のキャミソールワンピースだけを纏ったひどく無防備な姿でありながら、自身へ向けられた銃口を気にも留めていない。

    「えーと、シド・アンド・ナンシーに憧れてんの? あの二人別に心中したんじゃないぞ。そもそもシドはODだしナンシーは刺殺だし……。あー、カート・コバーンはピストル自殺だっけ?いやでもコートニーは後追いも心中もしてないし今も生きて……るよな? 初期の椎名林檎でも聴いた?」
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