無題 「動くな、伏せろ。手を頭の後ろで組め。」
「…随分と物騒だな。」
「伏せろ、と言っているっ!」
ベッドの上、仰向けに寝返り、望み通り頭の下に手を置く。ゆっくりと足を組んで見せると、最早苛つきを隠そうともしない怖ぇ眼が睨みつけてきた。
不安と混乱で限界を迎えたのか、パニック起こして雑にキレやがった。仕方ねえか。
…オレがそう仕向けたんだからな。
2週間振りに会った。
数か月に一度、こいつは急にオレの所から離れる。仕事だったり、家族都合だったり。
分かっている、オレもガキじゃねぇ。理解はしているつもりだ。
連絡もマメに寄こすし、何よりも、こっちに戻ってきたらオレの家に真っ先に来る。
そして、土産話もそこそこに、ハグしてキスして、当然SEXして。
お前は最高の幸せとなって、オレの元に戻ってくる。
だが、知らないだろう。その幸せの分、オレは待たされてる。いつも理不尽にお預け喰らわされて。
…温かい気持ちの裏に、つまらない暗い感情が鎌首もたげているのも事実だ。
無邪気に笑いかけるお前を見たら、ふと気になった。
この甘いルーティンを崩したらどうなるのか、って。
澄ました顔して、褒美の様にオレに身を与えるお前は、どんな表情見せるのか、って。
…なるほど、こういう反応してくるんだな。
「何をニヤついている?そんなに私が滑稽か?」
「伏せろ、だと?我慢できなくなって、ついにオレを犯す気にでもなったのか?お前、抱かれる方だろうが。」
オレのつまらない揶揄に、端正な顔が歪む。
「さっきから何だよ、オレの何が気に入らねぇんだよ。ちゃんと言え。」
震えるまつ毛、震える声。怒りか、屈辱か。
覚悟を決めたのだろう、ぽつぽつと言葉が続く。
「…何で、何もしてこないんだ?」
「何も?会って、オレん家で飯食って、泊まって一緒に過ごしてるじゃねぇか。」
「しらばっくれるなっ!わ、私に手を出してこなかったじゃないかっ!」
そうだよ、オレは昨夜、期待を込めてすり寄るお前を無視して寝た。
すげぇ、我慢した。今もだ。すぐにでも抱きしめたくて仕方ねぇ。
疼く股間を誤魔化すように、足を組みかえる。
「…何故だ?いつもしてくれるのに、…。こんなこと、今まで、…。」
あー、情けねぇ顔。オレの前だけだろ?その顔は。
こんないい男が、オレの恋人なんて未だに信じられねぇ。
「もしかして、もう、私に飽きたのか?
いや、私、何かしたのか?それとも、離れているうちに気が変わったのか、他に誰かいるのかっ!?」
いるわけねぇだろ、オレがどんな思いしてお前を手に入れたと思ってんだよ。
ぐっと握りしめている拳が、細かく揺れている。
…惨めだな、可哀そうに。だが、悪いな、もう少しオレの茶番に付き合ってくれ。
「あのなぁ、オレなんて言った?」
わざと凄んでやると、怯えたように体が弾む。目元が薄明りにキラっと反射したように見えた。
ぎしりとベッドがしなり、大きな体が縋る様に迫ってくる。
「…分かっているくせに、私の事など。
お願いだ。これ以上、辱めないでくれ。」
貸しているオレのスウェットパンツ、股間が主張をし始めている。思わず頬が緩んだのが自分でも分かった。
こういう展開が好きなら乗ってやるよ。ドМめ。
眼を伏せ羞恥に染まる姿が、加虐心を煽る。
顎で指図してやると、まるで操ってやってるみたいにオレの腹の上に跨ってきた。
良く知る体の重みが心地良い。
…少し驚いた。
思ってたよりも熱を纏っている体。汗ばんで上気している肌。
…はあはあと繰り返される、浅い呼吸。興奮してる。こんなにも、お前はオレに欲情していたのか。
悩まし気に眉を寄せる切ない眼元に、理性が持ってかれそうになる。
オレはお前に制圧されているからな、勝手に動けねぇよ。そう鼻で笑うと、困惑しながらも自分のTシャツの裾を掴んだ。
ゆっくりと持ち上がる布。現れるキレイに割れた腹筋。控えめに主張する乳首。
何度も何度も見ているのに、今も目が奪われる。
あー、最高の眺め。…くっそエロい。
「…臧覇。」
好きだよ、お前がオレのこと呼んでくれるの。
だが、今は違う言葉が聞きてぇ。
もっとオレを求めろ、口に出して言え。
分かっている、お前のプライド踏み躙ってまですることじゃねぇよな。
でも、オレだって不安なんだよ。お前はカッコいいし可愛いし、モテるし。
離れている間、オレは情けないくらいずっと自分を宥めてる。
だから、今日ぐらい、…壊しちまってもいいよな?
潤んだ瞳が、じっと見下ろしてくる。
次はどうしてやるか。下を脱がさせて、オレのパンツも脱がさせて、…。
自分の擦らせながらフェラさせて、もう少し焦らしてやろう。上手にオネダリできたら、お前の望み通り、泣いて許しを請うまで抱いてやるよ。
…オレの勃起ちんこがケツに当たってるの、気が付いてないのかよ?笑えるな。
お前はオレに何を望むのか。愛の言葉か己の欲望か。どちらでも構わない、ゾクゾクする。
早くしろ、オレもお前以上に溜まっている。待つのは性に合わねぇんだよ。
「どうしたい?どうしてほしい?言えよ。
…文遠。」
形の良い口元が震えながら、ゆっくりと半開きになり、熱い吐息が漏れる。
待ち望んだ甘い願望が溢れ出したその瞬間、点滅していたオレの理性は、あっという間に吹っ飛んだ。