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    石榴×流浪の導入

    広大な砂漠の中に存在するオアシスの町が月夜に白く照らされる。
    本来であれば白く照らされる家々の中では暖かい灯火の下で親子の寝物語が囁かれていたであろう時刻というのにその町は静寂に包まれており、灯火と寝物語の代わりのように町中には死臭と血の匂いが立ち込めていた。
    唯一、町の中心部である泉のみ焚き木が灯り、それらを囲むように十数名の男女が興奮した様子で酒を飲み交わし談笑している。
    小さな町であったが懐と快楽は満たされた、盗賊団である彼等は杯を傾け戦利品を焚き木に照らし地図を広げ次の獲物の吟味を始めた。
    「あのお嬢様はそう遠くへは離れていないだろう」
    「護衛の戦力を削るならば今の鈍じゃ無理だ」
    「あの魔女に先を越される前に」
    「何でもいい、俺は美味い酒と女を浴びる程手に入れてえ」
    町を一つ潰したばかりなのに勤勉なものだ、と欠伸を零し、立ち上がる年若い男に初老の男が何事かと声をかける。
    「散歩してくるよ、そういった面倒くさいスケジュールはそっちで勝手に立ててくれ」
    下世話な話も今後の計画もこの年若い男にとっては興味のない話であり、今夜はただあの喝采を反芻して酔いしれていたい気分であった。

    静かに月夜に照らされる町の至る所が焼け落ち、崩落しておりその瓦礫の下には彼の観客が眠っている。
    焼けた肉の匂いを鼻腔に感じながら瓦礫の上をしなやかな足先で器用に飛び跳ね、昼間のショーを思い出し大きな口の端を吊り上げてクスクスと笑った。
    この町の住民の半数近くは彼のショーの観客となっただろう、それが嬉しくて仕方がなかった。
    「今日も僕がトップスターってね」
    月夜に照らされる淡い金色の巻毛を跳ねさせくるくると愉しげに町を練り歩く男はふと、崩落した家屋の一つから微かな物音を聞き振り返った。
    よくよく目を凝らし音がした方へ近寄ると再度、地面からガタンと明らかに何かがぶつかる様な音が立つ。

    おかしいな、僕のお客は皆満足してくれたと思っていたけど。

    細かい瓦礫を足で払い除けると地面には扉があった。
    どうやらこの家屋には地下室があり、そこには男のショーから逃れた人間が潜んでいる様子だった。
    男はあからさまにつまらなさそうに口笛を吹き、扉に向かって踵を落とした。
    彼にとってショーは1人にだけ、こっそりと見せるものではなく大勢からの拍手喝采が無ければならないものだ。
    公演時間を過ぎてのこのこと現れた客に礼儀を払う気はさらさらない、特別待遇を受けたいのなら頭を擦り付け悲壮な表情をし人一倍の喝采をあげるべきだ。
    ガン、ガンと扉を蹴り続けていると昼間のショーで脆くなっていたのか、蝶番が断末魔を上げて扉が地下へと落ちて行った。
    派手な音と同時にギャ、とカエルが潰れたような声が上がる、それがまたなんとも間抜けな声で男は思わず鼻を鳴らした、こんな声では昼間の完璧なショーに水をさすばかりだ。

    「出てきなよ、公演時間はとっくにすぎてるんだ」

    不機嫌を隠しもせず叫び、掌にどこからともなく赤い玉を取り出して見せ転がす。
    不躾な遅刻者がどんな情けない顔をしているのか、気程も興味はなかったが地下なんて暗い場所に自分の作品を適当に放り投げるのは彼の矜持が許さなかった。
    地下に籠っていた人間はそれに対し、はあ公演…何のことやら…とぶつぶつ呟いたかと思うとやがてギシリ、ギシリと怠慢な動きで梯子を登ってくる音が聞こえる。
    声を聞くに男性らしいその人物はどうにも昼間この町に起こったことを知らないらしい、逃げ込んだ訳ではないのかと男は思ったがそれ以上にわざとかと思う程にゆっくりとした動きに神経を逆撫でされる。

    折角良い気分だったのに台無しだ。

    顔を覗かせたところに作品を叩きつけてやろうか、掌の赤い玉を握り穴ぐらを眺めているとやがてそこから闇が盛り上がってきた。
    そう錯覚する程、その人物は黒に包まれていた。
    背を向けて登ってきた人物は木屑が乗った大ぶりの黒いヘルメットに黒い外套を背負っており、この砂漠の国では非常に珍しい
    思わず顔を顰めるが次の瞬間、その人物が振り向くと男は目を見開き思わず掌の赤玉を落としそうになった。

    己の瞳は非常に珍しいらしく、まるで石榴の様なゾッとする色をしていると男に名付けた者が言っていた。
    自分の顔など見慣れているのでイマイチぴんとこなかったが、成る程確かにこれは不気味だ、血のように赤い瞳を持つ目の前の人物を見て名付け親の気持ちを理解した。
    尤も、その顔の半分を覆うようにまるで陶器のような亀裂が走り、更に唇を押し上げて生える長い牙が無ければここまで心臓が跳ね上がることはなかっただろう。
    月明かりの下で浮かぶ地下から這い出てきた闇を纏った人物は、一目で人間では無いことがわかった。

    「お、お前」
    「うわ、凄いことになってるな」

    ようやく全身を地上へ置き、のんびりとした動きで辺りを見渡す非人間は男よりも頭半分程背丈が高いだろうか、痩せているが体格自体は良く、改めて身なりを見れば外套はまるで蝙蝠の羽のようだ。
    吸血鬼、男は咄嗟に以前読んだ本に登場した怪物の名を浮かべた。

    「日が暮れたら家畜でも頂戴してから飛び立つつもりだったんだけどなあ、皆死んでるの?」
    「……」

    まるで日常会話をするように喋る吸血鬼に男はどう返すべきか考え、静かに頷いた。
    家畜はとうに肉と今後の足に変わっている、住民も、他にも吸血鬼がいるなら分からないが少なくとも男が把握している中では慰み者として選ばれた女数名以外は全て息絶えているはずだ。
    それを見て吸血鬼は肩を落とし腹を何度かさする、お腹空いたのになあ、そんな間抜けな呟きに男はどうしたものかと赤玉を掌で転がす。

    吸血鬼が己の作品で死ぬのかどうか、それが問題だ。

    暫くお互いに思考した後、そうだと吸血鬼が顔を上げる。
    「死体ってまだその辺にある?」
    「山ほど転がってるし埋まってるよ」
    「あまり血を流していない綺麗な死体があれば教えて欲しいな」
    「…やっぱ吸血鬼じゃん」

    他に何に見えるって言うのさ、と吸血鬼は何故か呆れたように返事をした。
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