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    かめい

    落書きとか漫画機能練習用
    ▶︎投稿はBL百合男女色々です。
    ▶︎カプ色強めなものをしまってます。

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    かめい

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    名探偵事務所の狗 名探偵事務所の狗
     
     名探偵が営む事務所には、一流の人間が訪れるものだ。
     胸を張って新入社員に偉そうに説明していた所長の青年——天馬司は、その数ヶ月後に頭を抱えていた。
     一流の事件が難解すぎる。
     優秀だと自負する彼の手にも余る内容だった。
     世間を賑わす美少女怪盗案件は、本人の希望で部下達に一任してしまったため、これは一人で解決しなければならない。
     
     かの地方は、精霊が住まう霊的に曰く付きの場所である。そう信じられている。
     神秘の怪事件。
     とは言っても、生まれてこの方、人工物で構成された帝都の都会に住む司からしたら、だ。
     土地の怒りに触れたため、豪族の所有する屋敷の犬の首輪を引きちぎり、巨大な青黒いいぬが暴れて略奪したというのは、にわかに信じ難かった。
     山積みの取り寄せた資料を見つめ、ひとしきり唸った司は、部屋の出入り口の柱に取り付けた電話を睨んだ。
     
    「背に腹はかえられない。これは依頼人のため、この英断こそが名探偵の機転の良さだ!」
     
     私立探偵の請け負っていい範囲に、説明のつかない怪異は含まれいない。態度こそ大振りで演技がかっているが、天馬司はとても責任感が強く、正義感も常人以上に備わっていた。
     重々しく立ち上がり、金属の受話器を耳に当てて、交換手に繋ぐ相手を依頼した。
     
     
     客人用のソファに長い脚が組まれている。
     対面に座らず距離を取ったまま、呼びつけた相手は自分の席で話を始めた。
     紅茶のカップを手遊びしながら、銃のホルスターベルトを両肩に締めた、物騒なスーツ姿の長身の青年は、所長の話を最後まできちんと聞いていた。
     紅茶をすすり、嚥下して一言。
     
    「なるほど、また、安請け合いをしてしまったというわけだね。司くん」
     
     予想していた通りの反応だった。
     昔の同僚である涼しい顔の青年の嫌味に、多少自覚がある司はそっぽを向いた。
     掛けているシルバーフレームの眼鏡のつるを中指で押さえ、一見穏やかそうに見える青年は、溜め息混じりに司に告げる。
     
    「キミ、依頼は選ぶって、この間約束したよね」
     
     病院で包帯が巻かれた手を持ち上げ、目の前の青年と指切りさせられた記憶が司の脳裏をよぎる。
     被害を最小限に収めるには、自分が浅く切られるのが都合が良かった。判断は間違っていないと思うが、一番は怪我をしないとことだと叱られた。
     だか今回はそんな事件ではないぞと内心でフォローする。
     
    「……善処するとは言ったぞ」
    「なるほど。善処した結果、部外者である僕に依頼人への守秘義務を違反してまで協力させようと。司くんは随分と策士だね」
    「結果的にだ、仕方なくだぞ! それにお前も会社の人間ではあるし」
     
     勢いよく机を叩く司へ、「逆だよ」と訂正が入る。
     
    「司くん。キミが我が社の人間なんだ」
     
     青年は本社、司は出向扱いである。
     探偵事務所への出向は、司自身きっての希望だった。
     エージェントとして企業から依頼を受ける稼業よりも、個人依頼を請け負いたいため、司は企業の命令厳守を現場から離れたのだ。
     探偵事務所も、親会社はエージェント傘下のものであり、新事業として司を主導に自由にしているというのが現状である。
     怪盗案件で、部下達はエージェントとして現場を統率する青年——神代類にお世話になっていた。
     
    『キミの優秀な部下から話を聞いたんだけど』
     
     そう言って、類が司の受け持つ案件に首を突っ込んでくるのはお約束の流れであった。
     この建物は一等地で交通の便がいいと、類は事務所を休憩所扱いをして、お構いなくとお茶を要求する。
     そんなにいるならお前も名誉社員だというと、類は首を必ず横に振る。
     そして、司でも判るほどいつも不機嫌になった。
     
     一緒に働いていたときは、こうではなかった。
     正確な射撃の腕と冷静な判断が出来る類は、同僚として頼もしかったし、背中を預けられるには最も頼りになる人間だと、司は考えていた。
     その後の進む道は違えたが——。
     司は、なんとなくギクシャクしてしまう類との空気に居心地の悪さを感じていた。
     それでも頼ってしまうのだから、自分の中の言葉に出来ない部分の扱いに困ってる。
     そして、以前のような気の置けない関係に戻れるかもしれないと期待していた。
     気を取り直し、司は「依頼人は」と語り出す。
     
    「このオレを名探偵と見込んだからこそ、地方からわざわざ当事務所までお越しいただいたのに、無理だなどと断れないだろう」
    「その見込んだ相手って、怪盗を追ってる部下たちの新聞の一面を華々しく飾っているからじゃないのかい」
     
     うっ、と、若い所長が自分の紅茶をすすって、少し咳き込んだ。
     確かに、司の事務所として紙面を飾ってはいるが、取り上げられているのは対峙する部下である。
     
    「もちろん、キミの実力は僕だって知っているよ。共に仕事をした仲だからね。でも地方からの客人がわざわざキミをご指名する理由が判らない」
     
     胡乱な表情で司を見つめていた類は、カップを置いて、所長デスクに座る司に寄った。
     卓上に広げられている伝承が記載された資料を指差し、類は司に尋ねた。
     
    「これがさっき話していた有名な犬かい?」
     
     司は類側に本を向け直し、ひとつひとつ説明をする。隣りの引きちぎれられた首輪も見せた。
     一通り見て、司は調査した内容を聞いた類は、瞑目して机を人差し指で数回叩いた。
     機嫌が悪いなと感じたが、司が聞く前に類が話し始める。
     
    「司くん。依頼人は今どこにいるの?」
    「ホテルだ。明日の便でオレも現場まで着いていくつもりだが」
     
     そう。切長の瞳が伏せられて、長身の上体が座った司に迫る。
     つい怖気てしまい、椅子の背がぎいと鳴った。
     白く室内を照らす人工光が類の顔の影を深くする。司の眉間に皺が寄る。
     類は頭がキレるが、理由を説明をしたがらないと徹底的にシラを切るのだ。
     
    「もう解決するから行かなくていいよ。説明は僕がする。待ち合わせの詳細を伺っても?」
     
     突然の類の宣言に司が背を正した。
     
    「そうは行かないだろう、所長のオレが受けた依頼だぞ。筋違いもいいところだ」
     
     卓上の資料の本を類が閉じる。視線が逸れた隙をついて、類はオレの手元の手帳を取り上げようとしてきた。
     身体を捩り回避して、これでは埒が開かないと立ち上がる。
     
    「何をするんだ、類。きちんと言え!」
     
     やや高い位置にある顔を見上げれば、類は微かに眇めて、清々とした印象に亀裂が入る。
     
    「司くん。キミ自身が狙われているのにかい?」
    「誰にだ?」
    「そんなの、依頼人に決まっているだろう」
    「狙われる理由がないぞ」
     
     類の人差し指が、行儀悪く司へ向いた。
     
    「ひとつは、先ほど話した通り。新聞で個人名まで出ている探偵ではなく、所長のキミを指名した理由がおかしい。
     次に資料の伝承は呪われた家人が狗に憑かれているという話で、今回の事情と噛み合わない」
     
     そのまま、引きちぎれられた首輪を指差した。
     
    「三つめ、それは人間の細工だ。数ヶ所、釘で穴を開けて、片方を柱に縛って手で引き裂いてる。皮の伸び方が全体にかかっているのはおかしい。獣なら、もっと歪に口端と犬歯の二ヶ所が最も伸びるはずだ。何回も噛んで引き千切れてる部分もないしね」
    「よく見ているな。だが細工なんて」
     
     司がごくりと唾を飲んだ緊張感に反して、類は脱力しながら答える。
     
    「司くん。キミを連れ帰るためだよ」
    「それこそ何故だ」
     
     食い下がる所長に、元同僚のエージェントは、たとえばだけれど、と、前置きして指摘する。
     
    「一応訊くんだけど、依頼人とは『事務所』で初対面かい?」
     
     司は肯定しようとして、違うかと留まった。
     
    「いや、前に席が混み合っていたからカフェで同席したらしい。覚えてないが、世間話をしたと言ってたな」
     
     そのとき渡した名刺を頼りに来てくれたと——。
     
    「話したときは気付かなかったが、確かに妙だ。新聞でのご活躍でとしきりに言っていたが、前にも会っていることを口にしてる」
    「気付いて欲しかったんだろうね」
    「だが、お前が言うには、オレを騙して連れて行くつもりだったんだろう? わざわざ言うだろうか?」
     
     でも、気付いて欲しかったんだと思うよ。
     類は事もなげに言い放つ。
     
    「人間の心はチグハグなんだ。相手のキミが気付いていないなら意味がないけど」
     
     先ほどから目を合わせない類の表情が読み取りづらい。司は首輪と資料、そして類の三点を時計回りで見つめた。類が嘘をつくようなことはしない。少なくとも業務上は誠実だ。
     そういう類だからこそ、昔は背中を預けられた。そして今もこうして頼ってしまう。
     
    「どうあれ、オレは明日依頼人に会うぞ。なんで首輪に細工をしてまでオレに依頼したのか聞かなければいけない。手付金も返さなければな」
    「そうだろうね、立ち会うよ」
    「いや、類には自分の仕事があるだろう」
     
     謎の解決は終わったのだからと遠慮したが、やんわりと断られる。
     
    「昔の同僚が困っているのに、放っては置けないよ。時間に都合はつけるさ、キミは我が社の新規事業の希望の星だからねえ」
    「最初から手伝う気だったのなら、そう言え!」
     
     だってねえと、同僚時代によく見た笑みを類は司に浮かべた。
     
    「さっきも言っただろう『人の心はチグハグなんだ』って」
     
     
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