コーギー、あるいは食パン 目の前を食パンが歩いていた。
いや、違う。犬だ。コーギーと言ったか。短い足で一生懸命に歩いている姿がかわいらしい。
「なんか食パンみてー」
隣のアイツも同じ発想のようだ。見てると腹が減るな。赤いリードの先の、いわゆる「お母さん」みたいな人は歩くのがゆっくりめで、コーギーは先へ先へと走りたそうで、散歩を代わってやりたかった。俺ならいくらでも走らせられるから、あなたは休んでいてくれていい、と声をかけたいのを我慢し、隣のアイツのあくびを聞く。
「あー、腹減る」
「おい、聞こえるから」
歩くスピードは俺たちの方が早い。コーギーとお母さんを追い抜かす時、少し名残惜しかった。ずっとあの食パンを見ていたい。
その時、ブチッと、何かが切れる音がした。
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